334.5 ②
闇の中、祭壇からの景色、現れる人物、始まる儀式…。
そして現れる黄昏時の神、再び見せられる過去。
おそらくここからが本題だろうな。
私の目に映る景色は、結希が説明したまんまだ。
叩きつけられた後、地下へと運ばれる。
どんどん奥へ進むと見えてきた、祭壇。
そして、問題の黒い奉納品。
男が驚いた様子を見せ、手に持つ物を投げ捨てた。
…と、結希が見たのはここまで。
だが、本当の記憶の持ち主の意識は残っている。
黄昏時の神の分霊体になるであるろうものの、意識。
だから結希が意識を飛ばしてからも、
そのまま続いているのだ。
どうやら結希の潜在意識に植え付けたようだな…。
我々神が記憶を覗く事を見越してか、
或いは結希が眠った時にでも浮かび上がるようにか…。
どちらにせよ結希に伝えたかった事とやらに違いない。
まぁ、最後の置き土産…といったところか。
そこでで私が見たのは、
想像したいたものとは少し違っていた。
男は器2つを投げ捨てた後、祭壇まで駆け寄った。
呆然と祭壇を見つめてしばらくした後、
『違う、違う、こんなつもりじゃ…。』と言ったのだ。
そして大声で叫びながら壇上に飾られている全てを薙ぎ倒した。
その声には驚きや嘆き悲しみ、
恐怖や怒りが混じっているようにも聞こえる…。
黒い奉納品には更に踏みつけたり殴りけたりと、
一段と激しく当たり散らしているではないか。
儀式を主導した男にとっては、
想定外どころではないものだったようだ。
何を想定していたかは知らないが…な。
落ち着いた男は投げ捨てた器を取りに戻り、
散らかったままの祭壇へと置いている。
その姿は先程とは違い、全くの無表情だった。
もう後戻りは出来ないと言わんばかりに、
淡々と…作業を再開していた。
全てを終えたらしい男が去る姿を見送った後、
この場に闇と静寂が訪れた。
正直、この一連の儀式らしいものに意味は無かった。
例え神職が居ない儀式だとしても、
神への敬意を示せる人物であれば分霊は可能なのだ。
だが彼らにそんなものは感じない。
だから、何も起きない筈だったんだ…。
なのに、分霊は成功している。
哀れにも死んだ女や男に殺された子供を贄に、
恨み辛み憎しみを糧に生まれたのだ。
それを神と呼んでいいのかどうかは、また別だがな。
黒い奉納品は、おそらく贄の2人による影響だろう。
彼等の感情が、本来普通だった筈の奉納品を穢した。
分霊する側の黄昏時の神は、
きっとこの時完全に眠ったんだ。
地上では気絶しただけだからすぐ目覚める筈だったが、
無理矢理分霊体が引き剥がれた事が影響して。
それから私が目覚めさせるまで、ずっと…。
…が、
男は分霊体用の器も置いたまま去ってしまった。
ちゃんとまた戻ってくるのだろうか?
それとも失敗したと思って置き捨てたんだろうか?
目覚めた分霊体である神を奉る事無く、
この場に置いたままなのは問題なんだがな…。
まぁこれで“地下での儀式”についても、
“黒い奉納品”についても、“自分は記憶に無い事”も、
粗方理解は出来た。
償いの道を歩み始めた分霊体は、
生まれた経緯がまともではなかった。
犯した罪は変わらないとしても、
自ら進んだ道の先には必ず…救いはあるだろう。
一欠片残っていた善性の子が、きっと導くだろう。
天上の神々は、全て知っていた筈だから。
私が結希の記憶を覗いた目的は既に果たせたから、
これ以上ここにいる必要もない。
私は哀れにも失われた2つの命が救われる事を祈り、
覗くために開いた記憶を折り畳んでいくのだった…。
さぁて、帰ろうか…。
〔やっと見つけた。〕
意外とやかましいあいつへ、説明してやらねば…。




