333.“黄昏時の神様”の記憶
もう好きにして…。
その言葉しか出てこない。
黄昏時の神様は自分で瑞樹様に交渉しているし、
私が意見を言う隙も無い。…言う事も無いけど。
嫌だとゴネたところで面倒になるだけだし、
『死ななきゃいい』をモットーに黙っておこう。
あ、やっぱり『痛くないならいい』の方がいいかも。
そもそも私が見た過去の記憶って、
本当に黄昏時の神様のものだったんだろうか?
私が勝手に黄昏時の神様での追体験だと勘違いした?
でも自分で『私の過去』と言ってたしなぁ…。
器を叩きつけられた所で、場面は1度終わった。
その後黄昏時の神様の手で再び過去を見せられた。
前者は闇の中で意識が途切れた後の事で、
後者は更にその後の事。
アクシデント的に見たのと意識的に見せられた事は別物だから、
“過去の記憶”だと一括りに出来ないような気もする。
そう思っている中でふと、
視点が変わったのかもしれないという考えが浮かんだ。
初めは黄昏時の神様本体で、次が分霊体の意識…と。
どの時点で分霊が完了したのかは不明だが、
地上にいる時点では少なくともまだ分霊作業中だろう。
素人の行う儀式だからどんな手順かわからないけど、
多分地下での作業も残っていた筈だ。
もし神様の分霊自体は地上で、
御神体への移し替えを地下で行うとすれば…。
そして一時的に1つの器に2つの意識が在ったなら、
黄昏時の神様が地下に入った記憶がない事も、
私の視点から分霊体の器が見えた事も説明がつく。
あれは、黄昏時の神様2人分の記憶が混在したものだったんだ…。
よくよく考えれば、特別おかしい事でもない。
あの闇の空間を作ったのは、私が手に持ってた器の主。
そして迎えに来たのが、その本体である黄昏時の神様。
同じ神様の過去である以上、見た景色も同じだろう。
黄昏時の神様本体が意識を失った事だけが、
ちょっとしたトラブルだったのだ。
………ん?じゃあ、地下の黒い奉納品は何だろう。
〔……ぃ…。…ぉぃ………おい!結希!?〕
肩を掴まれた痛みと、瑞樹様の大声で気が付いた。
私は気付かぬ内に考え込んでしまっていたようで、
“神様達の話し合い”はとっくに終っていたらしい。
揃いも揃って心配そうな顔で、私を見下ろしている。
いるん、だけどさ……。
「あのね…、痛い…。」
ミシミシと音が聞こえる程の力。これぞ馬鹿力。
まだ砕けていない筈だけど、いつそうなるか気が気じゃない。
でも私には、肩の手を振り払えるだけの力はない。
ただ痛みを訴え、砕けませんようにと…祈るのみだ。
〔す、すまない!!
だがさっきから声をかけていたが反応が無くてだな…。〕
ゴニョゴニョと言い訳をする様子からして、
わざとでは無く私の身を案じての事だったようだ。
勿論わざとならぶっ飛ばすだけだし、
本当に申し訳なさそうな顔をして謝られたら怒るに怒れない。
考え込んでぼーっとしてた私も悪かったんだから。
それよりも、記憶を覗く術の話はどうなったんだろう?
〔お嬢さん、木の神が少しだけだが見てくれるそうだ。〕
「?少しって〖説明が足りんだろう!!〗……。」
人の発言を遮って言ったのは、
水神様自身がいつも言われている言葉だった。
どの口が言うか!と心の中で突っ込んだが、
言っても面倒臭いだけなので口にするのはやめておく。
……瑞樹様も叔父も私と同じ気持ちらしく、
横目でじっとりと見つめるだけだった。
〖本来人間に対して使うべき術ではないんだ。
それ以前にそなたは、散々神の力に晒されてきた。
その影響で死の淵に立った事もある。
だから本当に必要な最小限の場面だけを、兄上が覗く。
兄上ならば余程の事でもない限り失敗などされないし、
そなたの安全を最優先で考えてくださる。〗
今までに無いくらいしっかりした説明なんだけど、
……人に使うものじゃない、だって?
だけど水神様は、以前人間に使おうとした事があった。
未遂だから今更蒸し返す事でも無いけど、
その事は…自分では覚えてないんだろうな…。
まぁその術を受ける私が何か言える立場じゃないし、
今はただ…言われる通りにしておけばいいか。




