330.姿を変えるもの
私は水に包まれた両手を差し出した。
危害を加えない事は何一つ安心材料にならないし、
説明の途中で黙らされてるから何もわからない。
術をかけた本人がダウンして転がっているから、
瑞樹様に聞くしかない。
そう思い、私が口を開いた時だった。
〖だ、だいじょ…ぶだ。
“それ”を…ただ、もっててくれればいいだけだか
ら…。
おわるまで…とけないって、だけだ。〗
てっきり意識がないとばかり思っていた水神様が、
途切れ途切れにそう説明してくれた。……が。
私的には説明が説明になってない。
“語ってはいけない事”だと言われれば引き下がるしかないけど、
待つ間に私の手が無事でいられるかを聞きたいのに…。
「何が終わるとか、その間持っとくのはわかった。
意味はよくわからないけど、一応理解はした。
で、その間私には何の問題もないの?
水の中ごと切り取るとか、溶けるとかさ…。」
両手首から先が無くなりでもしたら、
出血多量で死んでしまうかもしれない。
痛みでのショック死とか、生き延びても痛いだろうし…。
心配で堪らなくて、何も大丈夫じゃない。
〔“それ”を回収する間、結希に害は無いよ。
心配してるような事は起きないから安心しなさい。〕
瑞樹様が、しっかりした声で追加の説明をしてくれた。
害は無いと言い切ってくれたけど、
これだけだとあまり安心も出来ない…。
でもよくよく考えたら手が消えたら私の命も危ないし、
私が死んだら困る神様がそんな酷い事はしない…よね?
ミジンコ程にも満たない信用を何とかフル稼働させて、
いい加減さっさと次に進まないと…。
これじゃあいつまで経っても終わらないんだから。
〔脱け殻である“それ”を還るべき場所へと還す…、
とだけは言っておこう。詳しくは聞いてくれるなよ?
それは自分で迎えに来るし、自分で飲み下すんだ。
だからそれまでは、ただ待っててくれ。〕
迎え…飲み下す…ね。
神力返しの儀の時みたいに何もしなくていいのなら、
それはそれでもういいや…。
今はただ、待つだけ…。
そんな話をしながら待っていると、
手の中の煤に動きがあった。
私の手ごと包む水の中に漂っていた煤が、
渦を巻いてひと塊になったのだ。
……その姿はまるで、
器に入れた団子状の黄昏時の神様みたいに見える。
当然と言えば当然なのだが、見た目が…ね。
という事はやっぱり、
モヤに包まれた時に見た事が関係してるんだろう。
いや、でも…。
「器は元々本体とは別の物だったのに…何で?」
そもそもこの煤団子の正体が器なのかは不明だが、
分霊された神様が還るべき場所は、おそらく本体。
それが還るべき場所へと還った時、何かが起こる…?
〖何だ。結希は知っているではないか。〗
〔そのようだが、お前はこれまで通り黙っていなさい。
下手に喋って条件に引っ掛かっては困るからな。〕
〖あ、は、はい…。〗
何やらコソコソと話しているが、
残念ならが全く聞こえない。
聞いたらいけない事なのかもしれないけど、
こういう時に限って余計に気になってしまう。
もっと向こうで話してくれればいいのに…。
水の術は相変わらず解ける事が無いまま時は過ぎ、
漸く、私の手を救ってくれる救世主が現れた。
〔無事に帰れていたようで何よりだ。
直接送れなかったから心配していたよ、お嬢さん。〕
黄昏時の神様、本体…。
私の手にある煤を、己の内へと還すために来たんだ…。
「あぁよかった…。
早くこの手、何とかしたいの。丸いの…回収してよ。」
〔???君は何を言ってるんだ?〕
「水神様の術で私の手が抜けないの!
これを回収して貰うまで解除できないんだって…。
ね?ね?早くお願い!」
流石に手がふやけてきた。
別に痛くも痒くもないが、何となくの不快感…。
それに拘束されてる感じが、いい加減もう嫌だ。
〔そうなのか…。
そんな事よりも、話の続きを聞かせてくれないか?
ほら、君の望む通り現実へと帰れたしいいだろう?〕
そんな事……だと……。




