328.5
曖昧な存在であった、神様は………。
己の怒りが何なのか、ずっとわからなくなっていた。
誰かに馬鹿にされた事?
何か危害を加えられた事?
自分の存在を無視された事?
そもそもそんな事があったのかすらわからない。
自分が何なのか、何に怒っているのか、誰を呪ったのか…。
全部全部、わからなかったのだ。
今まで曖昧な存在として、流されるように過ごしてた。
生まれた時、側にあったのは悪意だけ。
愛すべき存在だったであろう人間の…悪意。
それを浴びて生まれ、それでも曖昧な己自身…。
後から気付いたのは、元の存在が曖昧だから仕方なかったらしい。
そんな事は何も知らず、
悪意を寝床に…悪意の根源を写し身にしていた。
衝動のままに怒りを爆発させた時も意識自体は曖昧で、
腹立たしくて憎たらしくて堪らなかった。
招かれたわけでもないのに苦しい場所に居てしまい、
光の弱い部屋だけが…息つける唯一の場所だったのに、
そこを侮辱された…気がしたのだ。
……だけど神々の御前へ連れられた時は、
特に苦しさを感じずに過ごせた気がする。
怒りを爆発させたまま、それは恨みに繋がった。
どこかでそれ程の事でもないだろうという気はしつつ、
かつての女の気分を少しだけ理解できた気がしたのだ。
沸き上がる怒りを他者へとぶつけ、
そのまま取り殺す程の…凄まじい感情を。
恋慕う想いが憎悪へと変わる、その感覚を。
だから…意思の無い己に沸き上がるものを見つめ、
そのまま身を任せた結果は誰もが知る通り。
神を…人を…全てを呪うモノになってしまった。
こんな結果は、望んでいなかった……筈なのに…。
別に人を巻き込むつもりも、巻き込んでる自覚も無い。
ただ、怒りに身を任せただけ。
今更ながら、無責任な行動だったと恥じている。
だが過去は消し去れない。
罪は、消えないのだ。
かの地の池で見た己のかつての依代が、
それをありありと物語っていた…。
分かたれた善の心の存在が、己の意思を教えてくれた。
本当はこんな事がやりたいわけじゃなかった…と。
曖昧でも存在している時点で、
己は神だと認識せねばならなかったのだ。
悪意は、学ぶ事ではあるが真似するものではなかった。
たとえ神を恨もうとも、
人を巻き込んではいけなかったんだ…と。
それを全て理解できたのは、
元の存在がしっかりと意思を持った瞬間だった。
ずっと眠っていたのを何者かに起こされ、
言葉を交わしたであろう頃に…何となく感じた違和感。
だがその時は気のせいだと思っていた。
だから今まで通り、感情の赴くまま…。
時は流れ、あの日…欠片から引き剥がされた。
そして再びかの地へ送られた時、気付いた事実。
共に欠片へと入り込んでいた者の正体。
まさかそれが、己の元の存在だとは思うまい…。
その者が偽りの姿を脱ぎ捨て、
本来の姿で“遣いの役割”を頂いた瞬間、
元の存在が真に目覚めの時を迎えたのだ。
恩を知り、神の認識を確立させ、意思を…持った…。
己が…私が…この身を拘束されている時の事だった。
消えぬ罪を背負ったとは言え、
償う機会が無いわけではないと…遠くの部屋から聞こえてきた。
呪いを解くための私の行動が、償いへの第1歩になる…と。
そして、決意した。
1番割りを食ったであろうあの子に…謝らなければ。
そして“私”の意思で、善の導く先へ往こう。
たとえ終わりの無い永久の道だとしても…。
もしいつか赦されるなら…今度こそ、間違えない。
その先でいつの日か…胸を張れる、神で在りたい。
私は最後の思いを伝えるため、
“希望の子”を…闇へと誘った…。




