何で僕だけ「バトル、バトル、バトル」
サクッと四体のゴブリンを討伐。最低ラインまであと三体。ここまで来ると一端帰還するのも考えるべきだ。
無理をしてそれ以上を狙っても上手く行かなかった場合はパアだ。死ねば元も子も無い。それを徹底してなるべく死に戻りなどを考えずに生き延びる事を指標に動くべきだろう。
「武器良し、消費無し、魔力の残りはまだ充分。さて、このままもっと奥・・・は止めておこう。来た道を戻りながら探そうか。」
受付はいつでも良いと言っていた。決められた期間は無いと。多分この討伐依頼は常設されているモノなのだと推察する。
それならばここで稼げるだけ稼ぐと言うのが恐らくはゲーマーとしての意識だと思う。
だけども師匠の教えを徹底された僕の今の思考はこのゲーム限定ではあるかもしれないが、慎重に動く事が基本になっていた。
奥へと行って戻る際に余計な戦闘に巻き込まれて死亡、などと言った流れにはしたくはない。
家に帰るまでが遠足、などとはよく言ったモノで、この森から帰還する事もまた大事なのだ。
「安全マージン取り過ぎかもしれないけどね。とは言え、到達数には残り三体だし、帰り際に運良く見つけられると嬉しいんだけどな。」
僕は奥地を見据えつつもそちらに背中を見せる。一応はこの「近郊の森」はプレイヤーで言う所のダンジョン扱いと言った感じでマップがあった。
最初に僕が森へと入った時には表示されていなかったが、突然この森の中程迄来た時にそのマップは現れた。突然目の前に。
どうやら何かしらの条件が重なるとこうしてこの森のマップが表示される仕組みだったようだ。
コレが出て来た事で僕はより安全な冒険を楽しめている。そう、楽しいのだ。
とは言え慣れた物である。このゲーム以外でもそれなりの数のVRゲームは遊んできた身だ。
なのでこうして恐ろしい相貌のゴブリンも何のそので楽々討伐できる。ビビらない。慣れたものだ。
「・・・ご都合主義かな?五体・・・なんだろうか?三体、四体、ここで五体?もしかしてこのギルド依頼って・・・」
もしかしたら数を倒せば倒す程に集団の数が上がっていく仕様かもしれない。
それはともかくここでこいつらを逃す手は無い。だがちょっと考えなければならない事が増えた。
(アイスニードルで先制をするのは良いとしてだ。数が数だ。それだけでは足りないかも。いや、絶対にピンチになる。どうしたモノかな)
たぶん魔法で二体は足止めできる。残りは三体が一斉に僕へと襲い掛かって来るだろう。
そうなると残り二体も魔法で足止めか?と言った場面になるが、そうもいかない。
僕は立ち止まって落ち着いてなら二発同時に魔法を放てる。師匠に仕込まれた。だが動きながらではソレができない。どうしても手元がブレてしまうと言うか、上手く魔法が発動しない。
(・・・威力をちゃんと上げてしっかりと最初に二体をキッチリ息の根を止められれば何とか・・・)
これまでのアイスニードルは一撃でゴブリンを仕留め切れなかった。しかしここでちゃんと先制で二体を沈める事ができれば後の三体との対決はより一層に危険を下げられる。
落ち着いて遠距離から魔法を使って攻撃し続けて三体の内の一体を殺せれば。
(ここで魔力を全部使う?・・・駄目だな。ここは引き下がるか?いや、仕留めないとマズイ)
ここで俺がいつまでも悩んでいると相手にバレる可能性が増えていく。速攻か、逃亡か。ここで瞬時に選ばなければならない。
時間は無情にもこのままでは過ぎるだけ。腹を決めてしまわねばならない。
「アイスニードル・・・少しだけ威力を上げるのに魔力をしっかりと指先に・・・」
僕はピースサインを作り、その二つ指先へと意識をしっかりと向ける。これまで使ったアイスニードルを放った時よりも指先が圧倒的に熱くなっていく。
(師匠から魔力の制御もみっちりと仕込まれた。これでいける!)
僕は緊張感で震える手をもう片方の手で抑え込む。そしてタイミングを合わせて魔法を放った。
それと同時にもう一度アイスニードルの準備をする。今度撃つのは一本だ。
そこにもう一度魔力を集中させて別のゴブリンを狙った。
先に放った攻撃が命中して「ギャアア・・・」と断末魔が上がる。ドサリ、と地面にゴブリンが倒れる音が二度。
成功した、その事を音で確認している僕は集中力を途切れさせずに次の魔法を放つ。
「アイス・・・ニードル!」
仲間の異変、それで恐慌に陥った残り三体は周囲を見渡して慌てるが、遅い。
そこに放った魔法が飛び込んでいく。そして狙ったゴブリンの鳩尾を氷の針が貫通した。
同時に僕は隠れていた草むらから飛び出す。腹に穴の開いたゴブリンの叫び声と同時にだ。
相手の叫び声で僕が出した音が掻き消されて残り二体のこちらへの発見が一拍遅れる。
師匠には「戦場では何でも使え」と教え込まれた。その「何でも」の中にはこうした形の無いモノも含まれる。音などはこうして簡単に別の音を重ねれば誤魔化しの効果が大きい。
「しっ!」
強く、そして短く息を吐き、剣を抜き放つ。その僕が放った居合斬りモドキは一体のゴブリンの腕を切り飛ばした。
コレは失敗したんじゃない。魔力が無くなったので替わりの攻撃である。
魔力が残っていればここでファイアーボールをまた放っていたはずだ。だけども先程の魔法で魔力はソレを撃てるだけの残りがもう無い。
暫く休めば自然回復分が加算されて一発くらいは放てるだろうが、もちろん今はその時間が無い。
ここで僕の攻撃力、或いは武器の攻撃力で上手く一撃死を狙える自信があったなら、腹を切っていたのだが。
そう言った事はもっと強さを上げてからだ。安易に自分自身の強さを信じ過ぎるのは危険だ。それができるだけの経験をまだ僕はこのゲームの中で積み重ねてはいない。
腕を切り飛ばされて痛みで混乱をしているゴブリンを蹴り飛ばして残りの一体と対峙する。
残りの一体は無傷。とは言え、このゴブリンは最初に居た五体と言う有利な数をここまで減らされた焦りと混乱で狼狽えていた。
「悪く思わないでくれよ。・・・そして、死んでくれ。」
大上段で斬り掛かり、そのゴブリンの頭を一撃で割る。次は振り返って蹴飛ばしたゴブリンへと剣をかざして突き刺す。
「・・・ふう、終わった、よな?辺りを警戒。それと、生き残りが居ないかしっかりと確認を・・・」
僕は意識を周囲へと向ける。微動だにしない。僅かな音も聞き逃さない様に神経を尖らせる。
ここまで来て死に戻りで街へと帰還は笑い話にもならない。
五体居たゴブリンは光と消えていた。この場には僕以外に存在しない。
そこでようやっと僕は安心してその場に座り込んだ。




