閑話「何で僕だけ」
久々に取った有給休暇の休み明け。一人の監視スタッフはあくびをしながら自身の仕事机の椅子に座る。
「さてと、交代してくれた奴がちゃんと見てくれてただろうから問題は無いはずだ。」
ここ最近は運営に何ら問題は起きていない。悪魔王編を組み入れてからは想像以上に順調にゲームは進んでいる。
いや、一部は進んでいない。まだまだ第一悪魔が倒されただけで第二、第三がプレイヤーの壁になっている。
「第一もあれはちょっとなあ。ちゃんとヒントもあったし、そこを捜索すれば弱点も見抜けるはずなんだけど。あーあ、最前線プレイヤーたちは焦るべきじゃ無かったんだけどなあ。」
彼はぼやきながら自身の作業へと取り掛かろうとし、しかしそこに奇妙な、いつもは見ないプログラムを発見、異変をその目にする。
「・・・おい、何で無職が動いてる?待てよ、待てよ、おい、待てよ・・・」
彼はとある、あり得ないジョブがまたしても動き出している状況に焦りを覚えていた。そして唖然としてしまい一瞬動けなくなる。
第一悪魔を最前線プレイヤーたちがレイドでゴリ押し、力技で討伐した事など忘れて脳内が混乱に陥りかける。
「チーフ!ちょっと聞いて良いですか!?無職が動いてるんですけど!?」
大声を上げて監視チームの責任者を呼ぶ。この呼びかけに他の監視を同じくしていた者たちが振り向いた。誰もがその顔に「え?」とか「は?」とか言った表情を浮かべて。
「・・・おい、今なんて言った?無職が動いてる?どう言う事だ!」
「え?だって昨日に交代に入ってくれた奴が報告をしてるんじゃないんですか!?」
この声で周囲に混乱が伝播した。魔王の時の再来とでもいえそうな混乱が少しずつだが広がっている。
そんな報告は聞いてない、そうチーフが述べると急いで昨日の交代担当者を呼び出して事情を聴き始める。
「え?あの、何でそんなにその「ジョブ」が問題になるんですか?」
その事情を聴かれた女性は無職が何で動いていると駄目なのかが一切分からない。
「・・・そうか、最近になって別部署から移動になってこっちに来たんだったな君は。」
チーフはその女性監視スタッフがまだまだこのゲームの事情を深い所まで知らないと言うのを理解した。
そこからは新人教育とばかりにその「無職」が如何にイレギュラーなのかを説明し始める。
これを聞いた女性監視員は「それは、ま、不味いですよね・・・」とやっと状況を理解した。
そこからはチーフが監視スタッフ全員に声掛けをする。
「今日からは魔王だけでなく、この「無職」も徹底的に監視対象に入れて作業をしてくれ。コードは「1049877」良いか?もう一度言う。「1049877」だ。間違えない様に今直ぐにコードを自身のコンピューターに組み込め。」
「あーあ、魔王が最近になって大人しいから大丈夫だと思ってたのに・・・」
有給休暇明けの監視スタッフが大きい溜息と共にボヤキを吐き出す。
コレは岩田健司と言うプレイヤーが戦闘可能と判断され、冒険者ギルドに登録後に街の外に出た事で発覚したのである。
無職と言う「ジョブ」は始まりの街の中で動いている間は全くの「無害」であった。
しかし街の外に出て一人で魔物を倒すと言う行動をとり始めてからこの世界でやっと「プレイヤー」と言う認識へと変わったのだ。
このプレイヤーの師となったNPCが同行して街の外に出ていた時には観測「外」とスーパーコンピューターは判断を下していた。
あくまでも「魔王編」「悪魔王編」にはこの時にはまだ全くの影響は出ないと言う点で。
しかし独り立ちしたこのプレイヤーはやっとストーリーに関わると言った形に切り替わったのだ。
ソレが昨日の事であり、有給休暇を取った監視スタッフが見ていない時に起きたのである。これでは分かりようも無い。報告もできるはずが無い。
彼の代わりに監視をしていた女性スタッフは新人でこちらに移動になったばかりの事情知らずである。これにはチーフも頭を抱えたくなった。
「今の所は魔王は大人しい。しかし油断はするなよ?いつ何時に動き出すか分かったモノじゃないからな。気合を入れ直せ。最近は弛んでいたからな。全員でこの「無職」はどのタイミングでゲームに入ったのか調べるぞ。」
ここは毎日毎日膨大な情報を扱う部所である。ゲーム内に新しいプレイヤーがどんどんと新規参入している中で一人のプレイヤーだけを監視する事は不可能な事だ。
しかしここで特定の注視しなければならない監視対象が増えた。一つはもう分かり切った事で「魔王」。そこに「無職」が加わった。
何故このゲームに無職が実装されており、そしてここまで問題視されるのかと言うと、ぶっちゃけてしまえば「魔王」と大体の中身が同じだ。
このゲームはそもそも「ジョブ」を必ず決める。しかし「ジョブ」に設定されているとは言え文字通りに「無職」なんてモノが実装されていいはずが無いのだ。
この矛盾を面白がった者が一人居るのだ。もちろん「魔王」を大絶賛した者である。
『無職?良いねえ!それじゃあ何色にも染められて面白そうだ。「無」なら特定の縛りなんてのも無いんだ。ならば何でもアリだろう?』
ジョブに「縛られない」と言う解釈。コレを前面に押し出して鶴の一声でまたしてもこの「無職」は決定された。
もちろんバランスブレイカーになる。そんなジョブは実装できないとしてこの時に反対した社員は多い。
だけどもひっそりとこれに賛同したスタッフ、社員が居る。魔王の時と同じであるこれも。魔王の作り込みをした社員である。
だがこれも「それなら「魔王」と一緒のやり方でいいでしょ?」と言う提案でまたしても落ち着いた。
だがこの後に追加でひっそりと「大問題」を追加され、その内容を事後報告といった形で社員たちは受けた。
その大問題、これが無職が今回に特殊監視に選ばれる理由のもう一つで、この部分が特に大きいのである。
有り得ない事がまた起きた。この事は上司に報告を上げなくてはならなない。
この報告に大喜びするのは一人だけだ。その人物が「ロマンは追及してなんぼ!」と小躍りする所が頭に思い浮かんでチーフは嘆息する。
「もう嫌だ、こんな会社・・・」
その嘆きは誰の耳にも入らなかった。




