何で俺だけ「彼の不幸」
「ど、どう言う事?あれ?コレ解除できるんじゃないの?こう、すんなりと、光って、パーって?」
このプレイヤーはどうにもショックで震えながら司教にそう訊ねた。しかしこれに返って来た説明は。
「先ず、解呪は呪いで受けた魔力の倍の魔力が必要なのです。アナタの今立っている場所の下には魔法陣があるのですが。その線の全てに強力な赤い魔力が満ちている。コレを押し出し、弾き返すのに・・・最低でも三百人程の魔力が・・・いえ、もっと遥かに多い数が必要になるでしょう。しかも、長く鍛え上げた魔法師程に魔力を蓄えた司教が、です。それでも、数名の死人が、いや、もっと多い数・・・出てしまう程ですね。」
この答えをゆっくりと咀嚼したプレイヤーは悟る。絶望的だと。解呪は実質不可能だと。
「嘘だああああああ!やべえジャン!俺どうなるの?まだまだ見たい景色が沢山あるのに!くっそー!俺は負けないぞ!絶対にレベル上げして・・・え?」
司教は首を横に振る。そのアクションにプレイヤーは言葉を止めた。司教はここで大事な事実を述べた。この時になってようやっとこの司教もこのプレイヤーに起こっている事を理解した。
「残念ですが、それは無理でしょう。アナタの呪いは既に・・・発動しております。」
司教は魔法陣へと指を向ける。その動きに連動してプレイヤーも自分の足元で光っていた魔法陣に目を向ける。
「明滅、してる?ねえ?これどう言う事?めっちゃ不安なんだけど?発動してるってどう言う事!?」
自覚が無い事が怖ろしい。プレイヤーは咄嗟に魔法陣から飛び退いたが、しかし魔法陣は消えない。自らの足元へと付いて来ている。
「既にあなたは発動条件を満たしてしまっていたようです。これでは解呪条件が揃った所で無駄に終わります。発動した呪いへと対抗するのに、先に説明した倍は必要になります。進行を止めるための魔力、そして押し返し弾いてあなたの中から呪いを追い出す魔力、それら一つ一つに莫大な魔力が必要になるのです。もうこうなっては我々にあなたを救う手立てはありません。」
「・・・ねぇ?俺、これからどうなるの?」
震える声、引きつる顔。聞きたくないと思いながらもプレイヤーはソレを司教に訊ねる。
「発動したからには、受けた呪いの内容があなたに降りかかります。今はまだ教会内に居ますので、守られているので効果は出ていませんが。しかしそれも限界となれば・・・」
プレイヤーはコレを聞いて教会内は特殊なフィールドとして判定されてシステムから自分が守られているのだと気付いた。
しかし司教が続けた残酷な事実を理解したら一気に落ち込んだ。守られている、それも時間の問題。その内突然呪いの効果が出て自らは「死亡」すると。
「いやだぁー!もしかしてレベル「1」にまで下げられちゃうんだろ!?今のレベルになるまでにどれだけの苦労があったと思ってるんだよ!くそ運営!恨むぞー!クレーム入れてやる!クレーム入れてやるうううううう!」
司教にとってこのプレイヤーの叫びは神への恨み節に聞こえる。しかし黙っていた。これから呪いで死に行くプレイヤーへと祈りを込めて。
「幾ら神からの祝福を受けているとは言え、これでは余りにも哀れ。私だけはあなたの冥福を祈りましょう。」
自業自得、そんな言葉はこのプレイヤーの中には無い。誰かのせい、自分の行動を顧みる事は無く、この恨みを運営へと向ける。
この場にいつまでも居てもしょうがない。なのでこの部屋を出る事にしたプレイヤーは祈りを捧げる司教の横を通り過ぎて扉から出て行く。
しかし、この時だ。呪いの効果は発動した。ちょっとした段差、そこへと足を軽くひっかけたプレイヤーはコケた。盛大に。
プレイヤーは確かに気が今昂っていて他の事に対して注意が散漫になっていた事は事実だ。コケたのは仕方が無いにしても、だがここからはこの程度で「死亡」する程の事はあり得ない。
受け身だって取れた。しかし司教は咄嗟の事にプレイヤーを支えようとした。ここで悲しい事故が起こる。
いや、これこそが「運が悪い」だろう。
司教が出した手、それにまたしても身体の態勢が変わった事で咄嗟に身動きが取れなくなったプレイヤーは思いもしない程の勢いで床に脳天を叩き付ける形で倒れた。
がごん、プレイヤーはこの時そんな音を最後に聞いた。
次に気が付いた時にはリスポーン地点。ついさっきここで5レベル下がった事を叫んだあの場所。
「・・・うぎゃああああああああああ!?死んでるううぅゥぅゥぅゥぅ!?ちょっと待てよおおおお!?今度は幾つ下がった!てか!あんな事で死ぬとか!どうなってんだよ運営いいいいいいいいい!?」
彼が自分のステータスを見た時、そこにはレベルが「1」しか下がっていない事に一瞬だけ安堵したのだが、次に自分へと降りかかるだろう不幸を視界に捉えた事でソレは吹き飛んだ。
「へ?」
その時のプレイヤーは現実であればきっと全力で鼻水でも出ていたに違いない。呼吸をする事を忘れ、垂れる鼻水を啜る事すらできない位に。
空に赤く燃える石、隕石が遠くに見えたからだ。




