何で俺だけ「勇気の前進」
盾を構えて進む。その速度が上がっていた。それは先程迄の亀の進む速度では無い。
「奴ら、体力の減少を顧みずに全力で前へと進むつもりか・・・その気概、称賛する。」
ライドルはプレイヤーのこの行動に眉根を顰めて褒め称える。
「行くぞお前ら!誰か一人でも良い!塔に侵入するぞ!ここで撤退してもロクな情報は得られない!せめて塔の中に入れなかったとしても相手の攻撃手札をもっと引き出して次回に繋げる!」
ライドルがされて今一番嫌な行動だった。プレイヤーに今以上の足止めが狙えない。遠距離狙撃、及びそれに追加の貫通攻撃、それしかライドルには今の状況で攻撃手段は無いのだから。
しかしこの攻撃が常軌を逸した強力な物であったからこそ、今プレイヤー2パーティしかここに攻め入ってきていないのだ。
他のプレイヤーは「無理ゲー」とこの狙撃に対して嘆きをこぼしてこの塔への攻略を諦めていた。
強い力で近付けさせない。それは防衛としては理に適っていた。しかしそこにはちゃんと弱点もあると言う事だ。
今のプレイヤーの装備、それと行動が全てだった。その遠距離攻撃を完全に防がれてはライドルは塔へと近づかれるのを止める事ができない。
今のプレイヤーの盾が不完全とは言え、この状況はライドルを苦戦させるに充分な、大いなる要因だった。
貫通攻撃へと使う魔力の温存、その攻撃で開けた穴へと足止めを狙った一撃。その威力は最小に抑えているとは言え、狙撃を通す為の集中力の限界は近い。
それらの攻撃を受けても怯む事無く前進を続けるプレイヤーはライドルにとって強敵だった。
だから称賛する、だから自身の苦戦を読んで眉根を顰める。時間稼ぎが間に合うかどうか。
塔へプレイヤーに侵入されれば撤退も視野に入れなければならない。今の所、運悪く貫通攻撃はプレイヤーへと致命傷が与えられていない。
今この時、戦闘の流れはプレイヤーへとぐんぐん流れていた。その距離は最初、相当に離れていたと言うのに今はもうかなりの距離へと近づかれている。
(次は・・・必ずこいつらは塔に入って来る。魔王様へと防衛計画強化をお願いしなければ・・・)
今回はいい。だが次には自分だけの力で抑えきる事はできない。ライドルは直ぐに覚悟を決めた。
「プレイヤーたちよ。俺も少々加減を忘れて本気を出そう。・・・ふゥぅゥぅゥぅゥぅ!」
ライドルは魔力を高め続ける。貫通攻撃は距離が近ければ近い程に、食らえば威力は高い。今まではプレイヤーへの距離があったからこそ、それで威力が減衰された、盾を貫いてもプレイヤーへと当たった時のダメージが減っていた。
しかし今はライドルも無理をする場面だ。意地を張る所だった。
白く輝く魔力の弾丸は細く一筋の光を一瞬だけ残しプレイヤーの盾を貫く。その光景は傍から見ればさぞ美しかっただろう。
ソレが連続で無数に放たれたのだ。これを食らう方は堪ったものでは無い。それらは全て「貫通攻撃」の雨。
そして距離が縮まっている状況である。威力減衰はほぼ無くなり、盾を貫通した後の攻撃でプレイヤーの受けるダメージは上がっていた。
「ここに来てコレかよ!?これじゃあ・・・」
リーダーのプレイヤーは今回も負けた事を確信した。しかしこの盾を改造し、次に攻める時には塔まで辿り着ける事も同時に確信する。
仲間たちが次々に白い光跡を残す美しい雨に消されていく姿を見てリーダーは漏らす。
「絶対に次は負けない!くっそおおおおおおおお!」
プレイヤーが全滅した後には穴だらけになってもはや使い物にならなくなった金属の塊が二つ。それと同時に遠くの空に増援の姿が小さく見える。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ふゥぅゥう~。かなりの無理をしてしまった。暫くは動けんな。彼らに防衛を暫く任せよう。反動で腕が痺れて使い物にならん。」
ライドルは無理を押した攻撃を繰り返した反動で動けないでいた。腕だけでは無く全身が痺れたようになっていたのだが、気丈にも立ち上がってきりりと顔を引き締めて援軍たちを出迎える。
「魔王様に感謝を。増援の方々、遠路はるばるご苦労。先程プレイヤーは撃退をした。しかし少々無理をしてしまってな。しばらくの間私が回復をするまでこの森での警邏をお願いしたい。宜しく頼む。」
ライドルは軽く頭を下げて一礼を増援の魔族たちにする。この魔族たちはライドルの直接の部下では無い。
なのでライドルは礼儀をしっかりと守ったのだ。自分は助けられている立場だと謙虚な姿勢でいる。
「魔王様より現地到着後はアナタの命令を聞いて行動せよとの事です。遠慮はいりませんよ。では、先ずはコレをお飲みになってください。多少は回復の助けになるでしょう。」
派遣された魔族のリーダーだろう者が青い光を出す液体を差し出してきた。ソレをライドルは何ら疑いもせずに受け取り、即座に飲み干す。
「有難う、で、コレは何だ?」
「・・・妙な所に剛胆な方ですね。その言葉は飲む前にお聞きになられる事では?」
魔族の方は皆ちょっと苦笑いをしつつライドルのいきなりのその行動に驚く。
「魔王様を疑う事などこれっぽっちも無い。その証拠だ。・・・どうやら魔力の回復を上げる薬品だった様だな・・・」
「はい、新しく開発、生産されたものです。安全性も確認されております。こちらは物資としてこちらの塔へと配備された物ですので、今後は遠慮無く使用してください。それと我々はこのまま塔の守備を頼まれております。この先もこちらに滞在する事になります。どうぞよろしくお願い致します。」
「塔には空き部屋が大量にある。そこを使ってくれ。あ。すまない。掃除は出来ていないんだ。その道具も無い。いや、すまないな。私一人で居たものだからな。」
ライドルは俺と言う一人称を使わずに「私」で通す。遠慮はいらないと言われても最低限そこは線引きが必要だろうと。
「私たちは四天王の方々に敬意を持っています。私、などと畏まらずに「俺」で良いんですよ?」
「何でそんな事まで知っているんだ?まあ、それならそれでいいか。・・・君たちはそのまま俺の部下、という扱いで良いんだな?ならば君は副官に任命するとしよう。」
「はい、何なりと。それでは・・・先ずは塔の掃除、からですかね?」
コレにライドルは思わず笑う。この魔族の遠慮の無さに。互いに遠慮は無しで、それぞれがそれぞれのままに付き合って行こう、そう言った態度なのだ。部下になると言っておきながら、命令を受けると言っておきながら。
こうしてより一層この塔は攻略難度が上がった。次にまたプレイヤーが攻めてきた時もこれなら必ず撃退を出来る。そうライドルは確信を持つのだった。




