悪役令嬢のままで6
レイア視点
「レイア、君との婚約は解消だ。私は君のような嘘つきで、悪辣で、非道な人間を妻として迎える事はできない。」
「…そうですか。」
ついに……ついにこの日がやって来てしまいました。
パーティが始まる直前、グレイが持ってきてくれたのは簡素な腕輪でした。
これを装備していざというときに変身と言えば、優秀な防具に変化するという事です。
試している時間が無かったのが不安材料ではありますが、時間の無い中でこの腕輪を探し出してくれたグレイには頭が下がります。
色々と考えている間にもヨハンの口上は続いています。
まさか私から魔族の気配がする……などと世迷言を言うなんて。
ローラさん、ドラゴンと魔族の魔力の見分けもつかないなんて……この先生きていけるのでしょうか。
そろそろですね、私は小さい杖を出しました。
刃物はうっかり☓☓しちゃう可能性もありますので、杖がまあ良い所でしょう。
……
魔法攻撃を躱し、剣を受け止め、適当に反撃する事暫し……そろそろ良い頃合いでしょうか。
強めに攻撃を弾いて一旦距離を取り、声をかけます。
「この短期間であなた方も実力をつけてきたようですね。ならば、私も今から本気でお相手を致しましょう……変身!」
グレイの持ってきてくれた腕輪が防具に変化すると、本来防具に包まれていない頭や手などへのダメージをその防具が肩代わりしてくれるという優れものでした。
これで顔に一太刀貰ったら血糊を顔に塗って戦闘終了ですね。
それにしても、杖を持って「変身!」だなんてまるで前世での魔法少女みたいね。
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ヒノデ行きの船の上
甲板で釣り糸をたらしている男女二人がいた。
「そういえばさぁ、王都でお兄さんにあげた腕輪あるじゃん?」
「うーん?そうだっけ?」
「あれさ、変身中に余計な事考えない方が良いんだよね。」
「なんで?」
「特に何も考えないままなら白いローブとかマントとかそんな程度なんだけど、もし何か明確なイメージしながら変身しちゃうとその姿になっちゃう。」
「つまり……」
「例えば、もしあの腕輪を貰ったお兄さんが変身中に好きな女の人を考えちゃったりすると、その女の人の服装になっちゃう。」
「ヤバ……じゃあ、もし裸を想像したら……」
「透明な服になるかも……」
「oh……」
「ま、変な想像しなけりゃ良いのよ!」
「そうだね!」
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ヨハン視点
レイアが「変身」と唱えた瞬間、彼女の体がまばゆい光に包まれた。
光に包まれながら、何故か一糸纏わぬ姿になって行く。(だが大事な場所は星やリボンで見えない)
次に足のつま先からかわいいフリルのついた衣装が次々に装着されてゆく、胸元に大きなリボンがポンと咲き……段々と光が収まっていった。
光が収束した時、そこに立っていたのは物凄く短いスカートのフリルがたくさんあしらわれたドレスを来たレイアだった。
「み……見た?」
「みみみみ見てない!何にも見てない!」
「嘘つき!顔が真っ赤になってるわよ!」
「そ、そんな事を言われても困る!大体何だ、その破廉恥な衣装は!?」
……手で必死にスカートを下に下ろしているが、ニーソックスとスカートの間から地肌が見えてしまっている。
なんという破廉恥な…だが自然と目が釘付けになってしまう。
クッ、私にはローラが居るというのに、こんな姑息なやり方で男の気を引こうとは……だがどうしても目がそこにいってしまう。
あの計算され尽くしたような見せ方、なんと恐ろしい、男の気を引く絶対的な領域だ。
……不意に私の視線が何者かに阻まれた。
侍従の出で立ちをした褐色の肌の美丈夫だ。
「ご主人、これだけ戦力差があるというのに、男の性的欲求を刺激して動揺を誘うなど必要な事なのか?」
「カ、カズマ、これは誤解よ!こんな変身になるなんて聞いてないもの!!」
カズマと呼ばれた男はレイアを隠すように立ちはだかる……ええい、絶対領域が見えんではないか!
「なんだ貴様は!?部外者は引っ込んでいろ!!」
「ふむ……我はレイアに養って貰っている身なのでな、無関係と言う事もないであろ。それに、主人の身が危険な以上は黙っている事もできん。」
「だったら何故今さら加勢しにきたのだ!?」
「先程までは純粋な戦いであったから問題なかったが、あからさまに下卑た視線に晒されるのは主人の尊厳を守るためにも従者として許容できん。」
「下卑た視線だと!?不敬な!!」
「ならば我に退けなどとは言わぬ事だ。」
こ、この……!!
レイアの従者だけあって口だけは達者と見える。
「レイア、何処でこんな馬の骨を拾ってきたのか知らんが、私という婚約者がいながら他の男を連れ回すなど、淑女として恥ずかしくないのか!?」
「……え?」
「……ご主人、この男、自分が何を言っているのかもあまり理解していないらしい。婚約破棄して正解だったのだろうな。」
「なんだと!?」
使用人と言う事は身分は高くないのだろう、ならば!
「不敬な!首を刎ねてやる!」
一気に近寄り、男の首筋に向って剣を横薙ぎにした。
連日の鍛錬の結果、最近ではオークの首すら落とせるようになった、優男の首など物の数ではない!
しかし、ここでありえない事が起こった。
男をかばうようにレイアが前に飛び出したのだ。
男の首の高さは丁度レイアのこめかみ辺り……そこに、私の振るった剣が吸い込まれて……
「……腕を上げましたね、ヨハン様」
「レ、レイア!?」
レイアは目元からこめかみの辺りを手で押さえているが、その隙間から血が滴り落ちてきている。
「顔を傷つけられてしまうとは、私も予想外でした。でもこれで、貴方の婚約破棄をすんなり受け入れる事かできます。顔に傷のある女など、社交界に出られる訳もありませんからね。」
「わ……私は、こんな事になるなんて思わなかったのだ。」
「と、言うわけでご主人は治療の為に俺が連れていく。文句はないな?」
レイアの従者が主人を抱き上げ、出口へ向って歩き始めた。
「ま、待て!レイアが魔族と内通しているという嫌疑もあるのだぞ!そうか、従者のお前が魔族だな!?」
「魔族なら……“ディスペル”、そいつだ。」
我々の真後ろに立っていた学生の肌が、みるみる紫色に変化していく。
「あとはお前達で相手をしてやることだ。」
「はあ!?な、ちょ、お前!?」
「まさか俺の変身を見破る者がいるとは……この姿を見たものは生かして返さん!!」
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「……ローラ達だけで大丈夫だったかしら?」
「弱そうな個体だったし、大丈夫だろ。それより……ご主人は大丈夫か?」
「私は無傷よ。カズマの血のおかげでうまく誤魔化せたわ。」
「完全に斬撃が当たっていたように見えたが?」
「そっちはこの変身衣装のおかげね。グレイが言っていた通り、生身の位置への攻撃を肩代わりしてくれる効果が付与されているみたい。そんな事より、カズマの血ってやっぱり不思議な効果でもあるの?顔に塗りたくってた時にちょっと飲んじゃったんだけど、あれからずっとお腹がポカポカするのよね。」
「………………そうか。飲んでしまったか。」
「え!?もしかして、生で飲むのは毒とか!?」
通常、古龍の血を飲んだところで問題は全くない、お腹が温かくなるという事もない。
しかし、古龍には番を見つけた時の求愛行動として、相手の血を飲むというものがある。
相手を屈服させ、お前を傷つけられるのも守れるのも自分しかいないという意志を見せつけるのだ。
求愛を受けた側がそれを受け入れると、飲み込んだ血が反応して魔力のパスが繋がる。
そして今、カズマはレイアと魔力のパスが繋がってしまったのを感じていた。
レイアの感じている温かさとはそれのことだ……本人が無自覚なのが救いとはいえ、レイアの求愛に応えてしまった形となったカズマはなんとなく面白くない。
「いや、全く問題はない。単純に魔力が含まれているからそう感じるのだろう。」
「そうなの……ところで、もう下ろしてくれても良いわよ?」
既にパーティ会場からは出てきてしまっている。
衆目の集まる中、お姫様抱っこのまま連れ出されてしまったレイアは羞恥でなのか顔が赤くなっている。
「いや、負傷したという事になっているのだから、馬車まではこのままの方が良いだろうさ……どうした?」
「い、ちょ、近い、顔が近い!」
「抱き上げているのだから仕様がないだろうに。」
「だ、だからあまりこっちを覗きこまないで!カズマかあんまり綺麗な顔だから直視できないの!」
「ほう……。」
人間に恋慕など……と思っていたが、これならまだ勝ち筋もありそうだ。
「もう大丈夫!下ろして!!」
「ダメだ。」
なんにせよ、これから暫くは退屈しない日々を送れそうだ。
「この鬼!」
「古龍だ。」




