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「ここが裏手の関門だ」

 息ひとつ上げずに風森村へ到着したシン太と、流石に疲れの色を見せる舎弟たち。ユキも肩で息をしているが、日ごろの鍛錬の成果かすぐに治まった。村の関所に詰めている郷守たちと親しいのか、シン太が腕を一振りするだけで通じたようで、よそ者のユキもすんなり通過することができた。

「お前らは関所全てを見張っていろ。仁親が来たら『約束の場所にいる』と伝えてくれ。もし黒夜叉集団が来たら……わかってるな?」

「おう!村へは一歩も入れねえよ!」

「任せてくれ、お頭!」

 シン太が煽ると、舎弟たちは先ほどの疲れはどこへやら、意気揚々と声をあげる。誰も彼もがシン太を慕っている様子が手に取るようにわかる。孤高な仁親とは対照的に、抜群の統率力で仲間を動かすシン太の力もまた、ユキにはない強さであった。

「ユキは俺と来い」

 意外な指名に目を見開くユキ。威勢の良い男たちに見送られ、シン太と並んで歩きだす。住居が立ち並ぶ道を、寝静まった人々を起こさないよう音を立てずに足を運ぶ。風森村は、夕月郷の辺境にあるという点ではユキの故郷と同じだ。しかし村の様子はまるで違う。ユキの村は小さく、村の端から端まで見通せるくらいだったため、人が出入りする関門は一つしかなかった。風森村は村と呼ぶには広大で、先ほどシン太の舎弟たちが各々の配置について話し合っているのを小耳に挟んだところによると、関門は四つあるらしい。何より目を引くのは、村の中央にある巨大な塔だ。

「あれは “風見ノ塔” だ。吹き抜け構造の立派な塔だろう?あそこじゃ風の番人たちが、昼夜問わず風を読んでいる。確か今、風読み様が逗留していると聞いたな」

 遠目に見える塔は五角形が交互に組み合わさったような奇妙な形をしていて、月明かりに照らされてより一層神秘的に見えた。あの建物に東吾がいるというのも、なんとも不思議な気分だ。そもそも一介の郷守が風読みと知り合いであること自体、不思議な話なのだが、ユキはそのことに気が付いていない。

 二人は村の奥に広がる森に足を踏み入れた。なだらかな傾斜を登ってゆく。

「これから向かう場所は、仁親と俺の秘密の場所だ」

 そんなところに自分も行って良いのだろうかと、ユキが不安を口にする。

「お前は、あいつが認めた男なんだろ?」

 果たしてそうだろうかと思い悩むユキの頭を、シン太は平手でぽんと小突いて笑う。仁親に認められたかまではわからないが、今回の逃走劇に際し、囮の役目を任せてもらえた。それはユキにとって、間違いなく光栄なことだ。姫君の為に命を懸けろと言った仁親の眼差しを思い出し、熱いものがこみ上げてくる。

 森の奥深くまでやってくると、素朴な小屋があった。ここが目的地らしい。

「まだ来てないか」

 やっぱりな、と呟くシン太。有事の際はこの隠れ小屋で仁親と落ち合う約束をしているという。シン太に続いてユキも中へ入る。こまめに手入れをしているのか、こざっぱりとしてなかなか居心地が良い。薪や炭に簡単な寝床、そして食料も用意してある。つまりは、このような事態を想定して、いつ何時でも動けるよう準備していたのだ。ユキが仁親とシン太の周到さに圧倒されていると、シン太の顔が一瞬曇った。ユキの耳にも、何かが遠くから近づく音が届く。二人は顔を見合わせて、怪訝な表情で小屋の外に目を向ける。それはとてつもない速さで小屋に向かっており、小さな影はたちまちはっきりとその姿を浮かび上がらせた。

 それは、天翔に乗った花里姫だった。

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