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 敵の死体が大橋に転がる。この中の何人、自分が手にかけたのかと思うとユキはぞっとした。ユキが脳天を一撃して倒れた男の死に顔が目に入り、顔を背ける。胃の腑がぬらぬらと持ち上がってくるようだ。こみ上げる吐き気を気力で堪える。人を殺したという事実が現実味を帯びる。しかし、やらなければ自分がやられていたのもまた事実。 

「助太刀感謝致す」

 高虎が、正体不明の男たちに頭を下げる。

「何処の何方か存ぜぬが、助かった。儂は萌黄郷刀守一等、高虎と申す」

 男たちの視線が一斉に、筋骨隆々の若くて逞しい男に集まる。先ほどユキと組んで戦った、野太い声が特徴の男だ。どうやらこの男が長らしい。

「“風使いのジン”の文通相手、と言やあわかりますかい?」

「シン太か!」

 高虎は得心が行ったようで、表情が明るくなる。頭に疑問符を浮かべるユキの肩に手を置き、仁親が黒夜叉集団の調査に際し協力を仰いでいた相手で、内通者の多喜治を突き止めた男だと打ち明ける。

「シン太は仁親の昔馴染みの男だ。多くの手勢を抱える、風森村一の豪勇だ」

 そうなのか、とユキも納得した。たしか仁親は風森村の生まれと聞いている。姫君以外と交流のなさそうなあの男に、故郷の朋友がいたとは意外だった。

「お初にお目にかかります」

「助かった。しかし、よくわかったな」

「へえ。こいつが矢で射られた飛燕雀の骸を見つけたんでさ」

 促されて、赤ら顔の若者が照れくさそうに鼻の下を人差し指でこすりながら一歩前へ出る。若者の頭をがしっと掴みながら、シン太は話を続ける。

「飛燕雀が狩られるなんて、こりゃ只事じゃねえと夕月郷へ様子を見に行くところでした。そしたら天王川で大立ち回りをやってるんで、慌てやしたぜ」

 飛燕雀の方は、と若者が笑顔で口をはさむ。

「幸い、文は盗られていなかったんで大丈夫です。連中、飛燕雀を撃ち落としたはいいが、肝心の獲物を見つけられなんだようで」

「いや、読んだ上で、あえてそのままにしたのやもしれぬ」

 高虎の鋭い指摘に、はっとする一同。

「不味いな、萌黄郷へ送った飛燕雀も狩られたかもしれん」

 つまり、保護を求める先の萌黄郷に、火急の知らせが伝わっていない可能性がある。

 本物の姫君と剣役は、風森村経由で萌黄郷を目指している。天王川の大橋を渡らずして萌黄郷へ到達するには、二つの郷をまたぐ有洲山(ありすやま)を越えて迂回するしかない。有洲山は風森村にあり、風森村生まれの仁親とっては庭のようなものだ。

「天翔馬が追いつかれることはまずないと思うが……」

「仮に伝書を盗み見されたとなりゃ、事態は一筋縄でいきますまい」

 高虎とシン太のやりとりを聞くにつけ、ユキの心に不安が広がっていく。シン太の舎弟達も、固唾を呑んで聞きに徹している。

 シン太の心中もまた心許無かった。幼い頃別れたきりの友が、折角自分を頼りにしてくれたのだ。なんとしても仁親の力になりたかった。

「俺は風森村へ戻ります。仁親の山越えを手伝いに」

「しかし、人の足では追いつけまい」

 高虎の指摘に、得意げな笑みを浮かべて返答する。

「心配御無用、俺たちだけの特別な抜け道があるんで。但し、馬は通れねえですが」

 そうか、と一言呟いた高虎はユキの方へ首を回らす。悩ましげな表情でユキを見つめる。まっすぐに見つめ返すユキ。その顔を見て決心がついたようだった。

「よし、ユキはこの者たちについて姫様たちの所へ向かえ。仁親と共に花里様をお守りしろ。知らせが届いていない恐れがある故、儂はこのまま馬で萌黄郷を目指す。儂は孝信様と面識がある、話はすぐ通せるはずじゃ」

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