四
さあ謝罪は済ませたぞ、と言わんばかりにがらっと表情を変える。胸を反らし、堂々とした態度で話を続ける。
「もっと早くお前に会いたかったのだが、生憎時間が取れなくてな。仁親から、あの時のお前の行動を聞いた。平七を止めようとしたことも」
久々に聞く名前に、心臓が跳ねる。
「彼奴はしぶとかった。お前と同じ水車の刑や、その他色々と試してみたが、てんで口を割らなんだ」
何を色々試したのか気になったが、ユキは深追いしないことにした。
「それでもいくらかの手掛かりは掴めた。まず奴は黒夜叉集団の一味で間違いない。ここまではお前も知っての通りだが……」
姫君に謁見して以来、ユキがずっと気になっていたことを、この男は確定している事柄かのように話を進めていく。何か探りを入れられているのではないかと不安そうに見つめるユキを、東吾は首をかしげて見返す。
「なんだ、仁親から聞いていなかったのか」
「いや、そうかもしれないと高虎様がお話されていましたが、はっきりとそうだとは……」
何度か尋ねようとしたが、毎日はそれどころではなかった。一向に苦戦続きのユキに対し仁親は、気難しい顔をして有無を言わせず打ち込ませていた。とてもではないが、鍛錬に無関係な話題など切り出せる雰囲気ではなかった。
あいつらしいな、と小さく笑って東吾は話を続ける。仁親がユキに稽古をつける時、傍にはいつも花里姫がおわすのだ。事は郷の花を弑する者について、穢れを厭う郷の花に聞かせて良い話ではない。どうやら、ユキの知らないところで話はいくらか進んだようだった。
「お前が姫様にした話と、奴が微かに漏らした言葉から、我らはそう判断した」
やはり、平七はユキの村を襲った賊の一味だったのだ。
「お前も一応、事情を知る立場なのだ。耳に入れておいた方が良かろう。……姫様の守りとなるつもりなら、尚更」
“姫君の守り”、自分が目指すものが何であるか、その一言をユキは胸の中で反芻した。寝る間も惜しんで毎日厳しい修行に耐えているのは、何もできなかった過去の弱い自分と決別し、姫君を守るに足る力を身につけるためなのだと。
東吾曰く、平七はおそらく単身で潜入し、姫君に手をかけるつもりだったようだ。尤もその目論見は、仁親と東吾の策によって阻まれたが。それだけの大役を任され、且つ、責めを負っても口の堅い忠臣ぶりから、首領に近しい人物だったと考えられる。そして度重なる尋問――具体的な手段は濁されたが――の最中、平七は気になる言葉を残した。
「“我ら、血より強き結束、血より濃き闇黒、血より赤き猛火を以て必ずや花を枯らさん”とな」
くれぐれも他言無用で、と真剣な顔つきで東吾が念を押す。お前にだから話すのだ、そう言われてユキは誇らしいような、恥ずかしいような気持ちになり、自然と口元が緩む。
「ところで、仁親直々に剣術の指南を受けているらしいな。どうだ、上達のほどは」
痛いところを突かれたとばかり、一転して渋い表情になるユキ。
「さっぱりです。未だに一本も取れません。……おいら、剣は向いてないのかも」
東吾は豪快に笑いながら、あからさまに落ち込む少年の肩にその大きな手を置く。
「しょぼくれるな。あいつが強すぎるんだ」
武人のような見た目の武人でない男に励まされ、ユキはなんとも言えない気分になる。




