二
「本当に、見たこともないくらい美しい目をしていたんだ」
「ほう。さような眼の持ち主とやらに会ってみたいものだな」
赤面する少年は必死に言い訳するも、由ノ進のからかいは止みそうにない。薄笑いを浮かべる顔ですら女子がみたら卒倒するほどの男振りで、様になっているのがなんとも憎らしい。
「あの御方は、仁親殿というんだ」
ユキは、自分を助けてくれたのが仁親だったこと、仁親こそが剣役であることを打ち明けた。そしてあたかも剣役のように振舞っていた大男は風読みの東吾だと教えると、由ノ進は予想通りの反応を見せた。
「これはたまげた!当代の風読みは医術に秀でた博識な御仁と聞いていたから、あんな武人のような見た目とは思わなんだ」
風読みにしておくには勿体ない体格だと、由ノ進は残念そうに笑う。
「そういえば仁親殿も、東吾殿は万物に通じたお方だと言っていたな」
「お前、風仁と話をしたのか!」
お互いの生まれた村の話や、ユキの故郷で見える不思議な月の話をしたこと。剣役の愛馬に乗せてもらったこと。ユキはあの夕暮れの出来事を、それはそれは大事な宝物のように語った。
「剣役と親しくなるなんて、刀守の中にだってそんな奴はいないだろうよ。怪我の功名ってやつだな」
その怪我は、危うく命を落としなかねないものだった。有難いご縁ではあるのだが、水責めは二度と御免こうむりたい。
「是非一度手合わせ願いたいと、伝えてくれよ」
曖昧な笑みで応えるユキ。伝えてくれよ、と言われても、次にいつ会えるかわからない相手だ。もしかしたら、もう二度と会うことはないかもしれない。由ノ進の方も、それを承知で軽口を叩いたに過ぎない。
ユキの元気そうな様子を見て安心した由ノ進は、そろそろ残りの用向きを済ませねばと話を切り上げる。実はこの後、風読みに謁見するのだという。ユキの頭をポンと小突くと、その手を後ろ手に振って立ち去っていった。庭先で待機していた仲間の刀守たちに合流する姿を、ユキは少しの寂しさを抱えて建物の陰から見送った。
「さて、そろそろ昼飯だな」
その後には見回りも控えているぞ、独りごとを言ってみる。己を鼓舞するように、平手で両頬をバチンを叩く。しばらくぶりの談笑の余韻を残したまま、ユキは足取り軽く歩き出した。




