四
薄明の空が、ぼんやりと夕焼けの余韻を残している。
気が済むまで涙を流し、ユキの両目は泣き腫らして赤くなっていた。
「これを使え」
いつの間に用意したのか、仁親が濡らした手ぬぐいを差し出した。
「ありがとうございます」
手ぬぐいの冷たさが心地良い。両目を瞑ってまぶたを冷やし、昂った心を静める。こんな風に人前で大泣きしたのはいつぶりだっただろう。
顔を上げると、隣でずっとユキを見守っていたであろう仁親の目線とぶつかった。ユキは、その瞳に映る自分の姿になぜか懐かしさを覚え、しばらく見入っていた。
「なんだ」
訝しげな声で問われ、ユキは慌てて視線を下げる。
「仁親殿の目は、お月さまみたいだなって」
「そんなこと、初めて言われたぞ」
眉根を寄せる仁親に一瞬怯むも、少年は果敢にも話を続ける。
「昔、村のはずれにある森の奥で泉を見つけたんです。月光できらきらしてて、今にも女神さまがでてくるんじゃねえかってくらいきれいな泉でした。……その水面を照らしていた青い月みたいだ」
思いっきり泣いた後の一種の清々しさも手伝って、ユキは少し饒舌になる。
「おいらの生まれた村では、時々青いお月さまが見えるんです。おっかあが、『山が呼吸しているからだ』って言ってました。山が呼吸するって、おいらにはどういうことかわからなかったけど。おっとうは、『寝息を立てているんだろ。山だって夜は寝たいさ』って」
もう会うことの叶わない顔が浮かび、思わず涙があふれそうになって慌てて袖で拭う。
「ああ、山吹村か」
また泣きそうになったユキの様子に気づかないふりをして、相槌を打つ。
「知っているんですか」
「ああ。あそこは珍しい地形で、山の息吹の影響で月が青く見えるんだ。何故かは知らない。知りたければ、東吾にでも聞けばわかるかもしれない」
初めて聞く名前に首をかしげる。ユキの知る限り、郷守にも刀守にも “東吾” という名の人物はいない。そもそも、一介の郷守であるユキに、剣役と繋がりのある知り合いなどいるはずがない。
「お前を水車に括り付けて回していた男だ。あいつは風読み、森羅万象に通じている。この世の不思議を知る男だ」




