三
水責めにあっていた理由がわかった。簡単なことだ。自分を引き入れ、常に行動を共にしていた男が姫君に切りかかったのだ。仲間だと思われない方が難しい。
「どうして、おいらが加担していないってわかったんですか」
「あの時のお前の様子を見ればわかる。むしろ、よく咄嗟に動けたものだと感心した」
剣役ともあろう男に褒められ、むず痒い気分になる。ユキが平七の異変を察知できたのには理由があった。
「あの時、平七のアニキに初めて会った時のことを考えていたんです」
闇夜を一人で駆けた、悲しい記憶をぽつりぽつりと口にする。
「おいら、賊に追われて森の中を走っていたんです。途中でこけて、逃げなきゃダメだって、追いつかれるぞってわかってても、身体が動かなくて。平七のアニキが、行き倒れてる俺を見つけてくれたんです。だから、アニキはおいらの恩人だと思っていたんです」
話すほどに記憶が鮮明になり、嗚咽が漏れ、だんだんと呼吸がせわしなくなる。
「今まで考えないようにしてきました。思い出そうとすると、すっごく辛くて。でも、よく考えるとおかしいんです。……だって、アニキの持つ明かりはおいらの足元を照らしたんです。見回り番なら、郷屋敷の方からやってくるはず。それならおいらの頭上を照らすはず。それなのに、おいらの逃げてきた方向から来たんです。それで……」
「それで、平七に不信感を抱いたと」
無言で首を縦に振るユキ。涙があふれて止まらない。
「アニキを疑うなんてどうかしてる。鍛錬だってよくしてもらってたのに。だから信じてた。それなのに……ぐすっ……命の恩人だと思っていたのに……」
「結果的に、お前の勘は正しかった」
ユキの肩に、骨ばった手が乗る。
「お前の行動は、お前自身を救った」
「でもおいら、おっかあたちを救えなかった。村のみんな、おいら以外殺されちまった」
ひとたび流れた涙はとどまることを知らない。頬を撫でる風も、とめどない涙を乾かすには力及ばず、袖口が再び濃い色に染まる。
少年の慟哭はしばらく続いた。




