二
沈黙が流れる。相手は、これ以上話を続ける気はないようだ。
口火を切ったのはユキだ。
「あの、聞いてもいいですか」
「内容による」
聞きたいことはたくさんある。ありすぎて、何から聞けばいいのかわからなかった。
目の前にいる人物が剣役なら、ユキを水責めにしていたあの大柄な男は誰なのか。なぜ姫御輿に剣役の仁親が乗っていたのか。それでは本物の姫君はどこにいるのか。そして、平七がなぜあんなことをしたのか。
「……風使いなんですか」
自分の口からでてきた言葉に、ユキ自身が驚いていた。他に聞くことが、もっと重要なことがあるだろうに。
「誰かが言い出したことだ。風使いかと問われても、俺自身では是も非もない」
人づてに伝わる話というものは、得てして不確かなものだ。たしか、由ノ進は刀守である父親から聞いたと言っていた。
――剣を振るう姿からついた通り名らしい。略して“風仁”。なんでも、風を操っているかの如き身のこなしだそうだ
「でも、風を操っているみたいな剣技だって」
「俺は風森村の生まれだ。風と共に生きてきた」
答えになっていない答えに、何と返せばいいのかわからなかった。困惑するユキの様子を横目でちらりと見て、風使いは言葉を重ねる。
「風読みが生まれる唯一の村だ。俺は風読みではないが、風を利用して立ち回ることはできる」
「風読み?」
「風読みは、殿のそばで助言を行う重要なお役目だ。風森村には、風を読める者が多からずいる。風を読むというのは、天気の先触れをつかむことだ。その能力の高い者が、風読みとして殿に仕える」
これがこの男の話し方なのだろう。要点だけを淡々と口にする。なにせ通り名でしか存在を知られていない男だ。普段は奥屋敷で姫君の御守りをしていて人と接する機会がない故に、人に話すということがあまり得意ではないのかもしれない。
鍛錬中のおしゃべりで色々なことを知ったつもりになっていたが、ユキにもまだ知らないお役目があったようだ。
「郷を繁栄させるには、天気を読んで正しい行動をせねばならぬ。天気はあらゆるものに影響を及ぼす。作物、疫病、船出、そして戦」
物騒な言葉に、ユキは思わず身を固くする。草むらをひゅうっと吹き抜ける風が、濡れた衣服を乾かしていく。
「戦なんて滅多にないが、最近きな臭い動きが見えていてな。お前の兄貴分がそれだ」
そう言いながら、仁親は先ほどまで前を見つめていた顔を、再びユキの方に向けた。
「村々を襲っては、殺戮とはく奪を繰り返している集団がいる。領内の見回りを強化しても、被害は増えるばかりだった。どうも郷守のなかに内通者がいるということまでは掴んだが、そいつがなかなかしっぽを出さない。調べを進めるうちに、怪しい者が数名でてきた。それを今回の郷巡りで炙り出す計画だった」
一気に言い終えると息をつく。その先は、言うまでもない。
「それが、平七のアニキだった……」
「そうだ。そしてお前も疑われていた。平七が外から連れ込んだ人間だからだ」




