二
実際に持ち場に就いてわかったことだが、ユキのいる位置と姫御輿は思っていたより近い。真横に配置されている刀守の少し前、姫御輿から見て左斜め前。華美でありながら上品さを持ち合わせた、精巧極まる装飾の細かな部分まではっきりと見える距離だ。
少し丸みを帯びた三角の面が四つ集まって張られた屋根、その頂に八重の花がしつらえられている。柱や轅には花や草木の他、月の満ち欠けの彫刻が施されており、熟練の職人技を思わせる。そして四隅の柱から薄紅色と藍色の二種の薄布を重ねた帳が下ろされ、中は見えそうで見えない作りになっている。
「郷の花の御成りである!」
上役が高らかに叫ぶ声が響き、郷守・刀守一同がその場でさっと平伏する。さっきまで男たちの談笑でにぎわっていた場が、嘘のように静まりかえる。
(姫様がきた……!)
ユキは、身体全体が脈打っているのを感じていた。自分の心臓の音だけがこの場に響き渡っているのではないかと心配になる。
頭を上げないように上目でそっと衣擦れのする方を見やると、いつぞやの若竹色の長布を纏った姫装束が、剣役と思わしき大男と並んでいるのが見えた。俯きがちにゆっくりと歩みを進める様子は、あの渡り廊下にいた姿と同じものだ。
手が震える。頬が上気する。滴り落ちた汗が目に染みる。目を伏せて、姫君の歩みに聞き耳を立てる。
砂利を踏む音が少しずつ近づき、やがて止まった。姫君の気配を背中で感じ、汗がじわっと手のひらを濡らす。
しばし無音の時間が続く。今、まさに姫御輿に乗り込んでいるはずだが、一切の足音も聞こえない。もしかして姫君には羽でも生えているのだろうか……などと考えていると、またしても上役の号令が響いた。
「面を上げよ。これより出発と相成る」
「「はっ」」
郷屋敷の重い門が開き、郷の花を乗せた姫御輿が外界へ飛び出した。




