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二回目の異世界転移ですが実質ニート  作者: 君影想
第二章 死を呼ぶ宴
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14/15

2‐4

「まったく君はいったいなんなんだ。それでも社会人としての自覚はあるのか?」


 汽車のプラットホームにはたくさんの人が行き来しており、様々な音があふれている…が、隣でブツブツとデミアンさんがいっているのがなによりもうるさい。私が遅刻したことをぐだぐだと説教しているのだ。確かに遅刻はよろしくないし三十分はまずかった。おかげで今私たちが待っている汽車も予定より何本か遅くなった。私が悪いとはわかっちゃいる…が、ここまで言われ続けるともはや開き直りたくなってくる。いや、そんな権利ないんだけどさ。


「すみません…。」


 この謝罪も何回目かわからない。だんだん心もこもらなくなってきたし、ジェイミーさんもずっと苦笑しながら「まぁまぁ」と言ってくれているのでやっぱりそろそろ許して欲しい。


「そんなんだからいつまでたっても依頼者がこないんだ。」

「ドリアンくん以降一回も依頼者どころか来客もなかったもんね。」

「デミアンです。」

「来客はありましたよ。」


 私のことをまるで友達0のボッチみたいに扱うのはやめて欲しい。私にだって来客ぐらいあった。クロムさんとかクロムさんとかクロムさんとかデイナとか。


「来客ってもしかしてそれ僕も含まれてる?」

「はい。」

「へぇ。そういえば、僕いっぱい食事恵んであげたと思うし、だいぶおごってあげたと思うんだけど、そろそろ逮捕されてくれない?」

「いやです。」


 たしかにクロムさんには丁度いいおごりマシーンになってもらってはいるが、交換条件で私の身柄を約束した覚えは特にない。あくまで勝手にクロムさんが私に食事をプレゼントしてくれているだけだ。


「え…。」

「どうしたんですかデミアンさん。」


 なぜかデミアンさんが裏切られたみたいな顔をしている。


「やっぱり君、そこの刑事と…

「やめてください。」


 急にデミアンさんが顔を耳元に寄せてきたと思ったら、こそこそと前から散々否定してきた内容を問いかけてきたので速攻で否定する。本当にその妄想やめて欲しい。クロムさんが彼氏とかもう絶望だわ。彼氏に逮捕されそうになってる彼女ってそれなんていうキャッツ・〇イ?


「…そうじゃないんだったら食事ぐらい僕も誘え。」


 …これはハブられて悲しかったということだろうか。デミアンさんが奢ってくれるというのだったらいくらでも誘うんだけど、どうだろう。というかそっちから誘うという選択肢はないのだろうか。


「なに話してるの~?」


 ぐいっ、とデミアンさんと私の間に無理やりクロムさんが顔を突っ込んできた。クロムさんの頬っぺたがぴたっと私の頬に触れる。…クロムさんの頬は結構冷たい。普段から手袋に長袖長ズボンロングコートだから案外寒がりなのかもしれない。もしや冷え性?手袋と靴下に関しては寝るときも付けてたから末端冷え性?少しだけクロムさんに親近感がわいたが、物理的な距離を縮めていいといった覚えはないので、さっさとクロムさんから離れてジェイミーさんの後ろに隠れる。


「クロムさんがいつも奢ってくれてありがたいなーってお話ですよ。」

「へぇ~。」

 

 そう答えると、クロムさんは興味がなくなったのかすぐに時刻表に目を移した。

 全然そんな話してないけどね。でもこれは事実だしね。これまで生きてこれたのは半分クロムさんのおかげなので、持ち上げておくのは悪いことではないだろう。


「そろそろ汽車が来るねぇ~。」


 クロムさんのその言葉とともに汽笛がホームに響き、汽車が私たちの前に到着した。向かうはベゴウォードがソルト城。合コン会場のまぁまぁ近所らしいけど…どんなのだろう。



  *  *  *  *



「ほ…ん…当に…はぁはぁ…すみ…ません…。遅刻し…て…。」


 私は現在心の底から謝罪している。本当に皆さん申し訳ありませんでした。

 今森の中を私たちはみんなで早歩き中である。本当は走りたかったが、クロムさんの足の遅さの結果早歩きにおちついている。

 なんでこうなったかというと、もともと少し早めに行くはずだったので、私の遅刻段階ではピッタリにつくかな…ぐらいだったらしい。が、なんと私たちが乗った汽車が色々あって遅れたのだ。ジェイミーさんに「これは降りた後、走ることになるかもしれません…。」と言われた時、これはやっちまったなとは思ったが、まさかここまでのがっつり森を走る(という名の早歩きをする)ことになるとは思わなかった。なんとソルト城は森の中も森の中にあった。一応ソルト城については調べていたが、所在地に関しては森の中という情報しかなかったので完全に舐めていた。城といってんだから森といっても庭程度だと思っていたが、がっつり森だった。あたりには木木木木木草木木木川…という感じだ。


「お気に…なさらず…。」


 ジェイミーさんが若干息を上がらせながらも笑顔で答えてくれる。なんていい人なんだ…!!というか、私日頃の運動不足がたたってもうそろそろ死にそうなんだけどどうしよう。ついでにいうとデミアンさんも干からびそうな顔をしている。まぁ、明らかに体育会系ではなさそうだし、お坊ちゃんっぽいし当然だろう。まぁ、この中で元気そうなのクロムさんぐらいしかいないけど。クロムさんは涼しい顔をして歩みを進めている。この人だけ異常に元気だ。汗の一滴もたれる様子がない。こんながっつり体力もあって運動神経もよさそうなのに走るのやたら遅いのなんでなんだろう。


「こっちですね…。」


 ジェイミーさんは目印もない森の中をずんずんと迷いのない足取りで進んでいく。


「そろそろ…です…。」


 だいぶ前に限界を迎えた足がそろそろ棒になり始めるといった頃、やっと少し開けた場所に出た。

 そこからは、


「でか…。」


 馬鹿みたいにデカいお城が見えた。ごっつい石でできていて、優美とは言い難いが頑強で守りに関しては果てしなく強そうなお城がポツン、と…これまたゴツイ石橋の向こう側にあった。お城の周りはお堀で囲まれており、石橋以外にお城に続く道はない。そしてその石橋にはこちら側に一個、お城側に一個それぞれゴッツイ門があった。現在は一応開いているようだが、作った人の絶対に入れねぇし出さねぇからな、という強い意志が見える気がする。べつにやたら古めかしかったり汚いというわけでもないのに、なんとなく不気味な雰囲気がこの城からは漂っている。…このソルト城やら、なぜか一切資料写真が見つからなかったのだが、見てたら来てなかったかもしれない。


「…僕たち、帰れるのか?」


 みんながその石橋の門を前に立ちすくむ中、デミアンさんがぽつりとそんな不吉な言葉を零す。

 たぶんそれみんな思ったけど、頼むから口に出さないで欲しい。今デミアンさんがそれを口に出したことによって、なんか嫌な未来が近づいた気がする。ここからもし私たちが帰れなかったら、全部デミアンさんのせいってことでいいかな?デミアンさんのせいにしたとこで別になにかが変わるわけじゃないけどさ。


「なにいってるの?はやくいこうよ。」


 …みんな(クロムさんを除く)だったらしい。この人の精神構造どうなってるんだろう。

 これまでのパーティーに出た人の末路、クロムさんが職権乱用して資料を手に入れて三人で読んだよね?その内容もう忘れた?本当にめっちゃ死んでたよ?それでこのお城って結構きつくない?正直逃げられない感半端ないもん。これ私死んだかもな。


「…行きましょうか。」


 ジェイミーさんの声とともに、私たちは石橋へと足を踏み入れたのだった。



  *  *  *  *



「いらっしゃいませ。」


 案外長かった石橋をなんとか渡りきった後、私たちは思いっきりフリーズしていた。そして相手も驚いていた。

 なんと、お城からでてきた執事の恰好とデミアンさん、クロムさんの恰好が丸被りしたのだ。


「こんなことって…あるんですね。」


 ピンクのふんわりとした髪の愛らしい少年執事がにっこりと笑う。


「…ええ。私も驚きです。」


 ジェイミーさんが少し緊張した面持ちで頷き返す。

 …これは驚きだが、まぁよくあるデザインだし仕方ないことかもしれない。もしかしたら、ジェイミーさんもこのお城の人も同じ通販サイトでポチっちゃったのかもだしね。


「…お客様はジェイミー・ホール様…と、そのお連れ様でよろしいでしょうか?」

「はい。」

「承知いたしました。皆様、本日はご足労いただき大変ありがたく存じます。きっと我が主もお喜びになることでしょう。」


 …ほっ。丁寧に頭を下げる執事を見て安心する。どうやら「予定にないですけどぉ!!?」とか言われて追い返されることはなさそうだ。


「…それで、電子機器の類をお持ちですか?」

「え?」

「携帯、パソコンなどをお持ちでしたら少し見せて頂けませんか?」


 …よくわからないが…私は持っていないので問題はないだろう。

 デミアンさん、クロムさんはごそごそとバックを漁っている。たぶんいつも持ってるスマホあたりを探しているのだろう。


「クロム、私の荷物を。」


 ジェイミーさんがそういって目配せする。そういえば、ジェイミーさんの荷物は使用人らしくクロムさんが持ってたんだった。

 クロムさんがペコリと頭を下げて、ジェイミーさんに彼女の荷物を渡すとジェイミーさんはバッグの一番端っこの部分からスッと携帯を抜き出した。

 

「…これで全部ですか?」


 執事さんの手の中にはクロムさん、デミアンさん、ジェイミーさんの携帯が納まった。


「ええ。」

「そちらの方は?」


 淡いピンクの瞳がこちらを見つめる。あ、私のこと?なんにも持ってないのかって?


「電子機器の類はなにも。」

「承知いたしました。…それでは、こちらは預からせて頂きます。」

「えっ。」


 明らかに嫌です、という感じのデミアンさんの声が漏れた。ジェイミーさんとクロムは普通の表情をしているが、これ結構現代っ子にはきついやつなのではないだろうか?


「大変申し訳ありません。この城では我が主の「客人には世俗的なことを忘れて欲しい」という意向のもとこういったものは回収させて頂いているんです。」

「…緊急時などはどうするんです?」

「館に一つ、電話がありますのでそちらを。」


 執事の様子を見るに、こういった受け答えはもう慣れ切ったことなのだろう。なんの澱みもなくデミアンさんの言葉に応えている。


「…そういうことでしたら…。」


 そういって結局デミアンさんは渋々といった感じで首を縦にふったのだった。


「それでは、我らがソルト城へようこそ。」



  *  *  *  *



「…今のところなんにもないですね。」


 お城にも使用人として普通に入れたし、使用人たちも普通だった。お城の中も質素ではあるがそれなりに整えられていた。この城の主人とはまだ会っていないが、使用人によると晩餐の時に会えるらしい。…不思議なところといえばさっきの電子機器回収と、あとは使用人がみんな少年少女ばかりなことだろうか。少年少女といっても15は超えてるだろうって感じだし、この世界では貧しい家だと結構小さい頃から使用人として働きにでることも珍しくないから、まぁこれは日本人的な感覚なのだろう。

  

「僕の携帯もな。」


 デミアンさんは不機嫌だ。スマホが回収されたことがよほど不満らしい。右手で頬杖をついて左手でトントンと永遠と机を叩き続けている。


「それをいうんだったら私の人権もありませんよ。」

「は?」

「なんで野郎二人と同じ部屋なのか甚だ疑問です。」


 部屋は普通にジェイミーさん用、クロム&デミアン用、私用で三部屋あったし、さっきのピンク髪の執事くんことチャールズくんは私のためのお部屋に案内までしてくれたのだ。にも関わらず、馬鹿刑事のわがままにより三人でまさかの同じ部屋になったのだ。本当にふざけている。別に前も三人で同じ部屋…うちの相談所で一緒に寝てたし、今更そこらへんはどうでもいいんだけどさ。この部屋、ベッド二つしかないのがなによりも問題だよね。前三人で同じベッドで寝てたじゃないかって?あんなこと二度とあってたまるか!!


「僕もなんで君たちのような人間と同じ部屋なのかが甚だ疑問だ。」

「そうですか。…クロムさーん!!デミアンさんがこの部屋嫌みたいなんで追い出して、ぐふぉっ!!」


 デミアンさんにもはや張り手の勢いで口をふさがれた。めっちゃ痛い。


「なんですか!」

「君がなんなんだ!そんなこと言ったら、僕を窓から放り投げて堀にぶち込むぐらいアイツだったらしかねないぞ!!」


 ねーよ、と言いたいところだが普通にありそうだ。別に私はデミアンさんがそうなっても構わないけど。


「まぁ、今は別にクロムさんいないし大丈夫ですよ。」


 クロムさんはこの部屋について早々どこかに消えた。

 私が部屋に大量のパセリをばらまいたのが嫌だったのかもしれない。別に同じ部屋になったことが不満だからそういうことをしたってわけじゃない。たぶん。ほとんどの理由は魔物対策だから許して欲しい。もちろん幽霊対策の盛り塩とかもした。

 というか、部屋にいもしない相手への言動にビビるってもうデミアンさんはヘタレすぎると、


「え、僕がどうしたの?」


 筋肉のしっかりとついた腕が、いつのまにかソフトな感じのヘッドロックのポージングで私の首に巻き付いていた。こ、殺される!!

 デミアンさんにSOSの視線を送ろうとしたが、目が合う前に完全にそらされた。青い顔をして空をガン見している。


「く、クロムさん!い、いつの間に戻ってきたんですね?」

「うん。パトロールが終わったからね~。」


 呑気な声と漂う甘い香りとは対照的に私のヘッドロックは一切解ける様子を見せない。

 行動と雰囲気の不一致をマジでどうにかして欲しい。なんかいつもより甘い匂いがきつい気がするんだけど、どうしてこの人いつも甘ったるい匂いしてるんだろう。香水とかじゃなくてガチのお菓子とかミルクの香りが常にべっとりだ。特に強いのはバニラエッセンスとミルクの匂いだけど。


「ぱ、パトロールってなんですか?」

「えへへ。」


 嬉しそうに笑うと、クロムさんは私の首から腕をほどいて自らの執事服のポケットを漁り始めた。…よく見なくても、彼のポケットは恐ろしいほどにパンパンだ。

 そして何かを掴んだらしい手を机の上までもっていくと、バッとそこでその手を開く。彼の手の中からボロボロと包装されたお菓子が落ちてくる。キャンディボンボンやフィナンシェ、クッキー、ショートブレッドなどもある。


「一緒に食べる?」


 クロムさんはその言葉を発する前にすでに私の口になにかをぶち込んでいた。むせたわ!!殺す気か!!

 

「…頂きます…。」


 なんとか死を回避した後、一応そう返す。…これは、クッキーかな?口にぶち込まれなければ素直に嬉しかったんだけど。


「おいしい?」

「あ、はい…。」

 

 デパートとかで買ったクッキーの味がする。たぶん。ちょっとお高めな感じのする美味しいクッキーだ。まぁ、私これスーパーで普通に売ってるクッキーにも言ったことあるんだけどさ。


「どこから持ってきたんですか?」


 「うふふ」とクッキーを可愛らしくつまんでみたり女子のような動作をしながらも、バクバクとお菓子をすごい勢いで口に放り込んでいるクロムさんにドン引きしつつ、質問を投げかける。

 …なんつーか、この人から甘い匂いがどうして常にするのか理由がよくわかった気がするわ。食事は何回か一緒にしてるから、かなりの大食いであることは知ってたけどお菓子に関しても同じ…いや、それ以上の食欲が溢れているらしい。


「執事くんにお願いしたら出してくれたんだぁ。ありがたいよねぇ。」


 …パトロールってそんなことかよ!くだらな!!

 そーっと近寄ってこっそりとショートブレッドを持っていくデミアンさんを横目にみつつ、私もクッキーを一つ摘まむ。


「ちょっと真面目な話してもいいですか?」

「いいよ。」

「どうぞ。」


 二人は食べるのをやめ、デミアンさんは椅子にクロムさんはベッドに腰かけつつ体ごとこちらに向き直る。

 え、いや、そこまでガチじゃなくていいよ。


「デミアンさん、幽霊とかなんか見えてます?」

「まったく。」


 えっ。マジか。

 ここでは沢山の人が死んでいるはずだ。それなのに幽霊がいないということは…殺人ではなかった?そんなことってあるだろうか?これまでの事件がすべて事故死か自殺…?

 または…


「なにも見えはしない。だが、嫌な感じはする。」


 …嫌な感じ、ねぇ。

 デミアンさんほどの霊感の持ち主に見えていない時点で、幽霊案件である可能性はかなり低いと思われる。だが、デミアンさんはなにかしら嫌な気配を察知しているらしい。カラスも幽霊案件以外の時、時々こういう表現を使っていた。霊感が強い人にはそういうものを感じる能力があるのだろうか?

 ま、今回に関しては、この城のなんともいえない不気味な感じと事前情報に影響されている可能性も高いと思うけど。私だって怖いなと思うし。

 

「…塩、もらってもいいか?」


 え、塩?なんで?あ、もしかして塩は対幽霊用のものだってことを理解してない?

 

「塩ってほぼ幽霊にしか効きませんし、今回たぶん幽霊案件じゃないですよ。」

「ああ。だがもたせてほしい。」


 そういって私の答えを待つことなく、デミアンさんは盛り塩から塩を一つまみハンカチに包んで回収していった。

 …これはデミアンさんは幽霊案件である可能性がまだあると思っているということだろうか?いや、たんなるビビりか?


「僕も~。」

 

 そういってクロムさんも塩を回収していく。え、なにこの空前の塩ブーム。つーか、クロムさん今直接洋服のぽっけに塩突っ込まなかったか?それあり?


「はい、君も。」

 

 私が止める隙もなく、クロムさんがなにかを私のエプロンのポケットになにかを突っ込んだ。

 …ポケットの中身を見て絶望する。予想はしてたが、やっぱり塩だ。なんなんだよこいつ!!クロムさんだよ!!このアホ!!


「…最悪ですよ。」

「え、なに?」

「なに塩つっこんでるんですか!!」

「えへへ☆」


 えへへじゃないよまったく!

 塩を突っ込んだあと満足げな笑顔で隣にたつクロムさんから一定の距離をとるために移動先を探す。近くにいるとどんな目に合わせられるかわかったもんじゃない。特に背後なんかとられたら最悪だ。


「おい、なんで僕の後ろに来るんだ。」


 デミアンさんの座っている椅子の背もたれの部分と壁の間で丁度いい感じの隙間があいていたので、そこに移動させてもらう。クロムさんから距離もとれるし、背後は壁だから安全だ。いざというときはデミアンさん壁にできるし。


「なんで二人が塩持ちたがるのかはわかりませんけど、退魔の札持っておきます?」

「僕はいらない。」


 クロムさんには即拒否られたが、退魔の札は魔物に対してはかなり有効だ。これで魔物を殺すことはできないが、この札を使えば通常殺すことがかなり難しい魔物から体力と魔力をごっそり奪うことができ、かなり殺しやすくなる。あと、この退魔の札を使うと魔物に決して消えない特有の火傷ができる。だから、もしその場でにげられたとしてもあとでかなり捕まえやすくなる。


「…もらっておこう。」


 退魔の札はポケットの中にあるが、もちろんそれはまだ出さない。代わりに手を差し出すと、デミアンさんはきょとんとした顔をしながらなぜかその手を握ってきた。その手を振りほどき、もう一度手を差し出すとまた手を握ってきたので、今度は手を振りほどいたあとデミアンさんの手の甲を引っ叩く。


「なんなんだ!!」

「それはこっちのセリフですよ!!」


 お前の手なんかいらんわ!!欲しいのはもっと大事なものじゃ!!


「…アレですよ。アレ。」

「あれ?」

「金ですよ!!代金はお気持ちで結構ですので!!」

「お気持ちか…。」


 いっとくけど、100メルとかだったら生き残りたい気持ち0だと判断するから。


「じゃあ、これだな。」


 1コイン、ポンと置かれる。


「…1メルじゃないですか!!!」


 こいつはもはや私に殺されたいらしい。折りたたんで東京湾に捨ててやろうか!!


「これが僕の気持ちだ。」

「わかりました。殺します。」

「おい。」


 私たちの様子を微笑みながら「ぱや~」と見ていたクロムさんににっこりと笑いかけると、自らに向けられる視線と笑顔にすぐ気づいてぽややんとした笑顔を返してくれる。


「クロム、いけ!!アホデミアンを処分しましょう!!」

「おい!!」


 巨体に似合わない瞬発力でクロムさんはデミアンさんを目指してスタートを決めた。


「わかった!!わかったから!!」

「クロムさんストップ!!」

  

 瞬発力は意外にもよかったが、クロムさんは足が遅いので追いかけっこになったらまずいところだった。

 というか、さっきからクロムさんがにっこにこしながら黙って私の命令聞いてるのが不気味だよ。


「…本当になんなんだ…。」


 そういいつつ、デミアンさんはお財布から1000メルを出して私の手にポンと乗せた。

 おい、少なくないか?


「これは前払いだ。もっと欲しいんだったら先に札を出せ。」


 せっこ。さすがに金だけもらって札渡さないなんてしないよ。

 メイド服のワンピースの方のポケットに入れておいた退魔の札のうち一枚を取り出して、それをデミアンさんの手にのせ、


 バチン!!!


 …退魔の札とデミアンさんの間に稲妻が走ったと思った瞬間、札は一瞬にして消し炭になった。デミアンさんは少しだが吹っ飛ばされて、今は地面から呆然とこちらを見つめている。

 これはデミアンさんが消し炭にならなくてよかったと思うべきだろうか。それとも「てめぇ!!」とデミアンさんに殴りかかるべきだろうか。

 とか考えていたが、結局出た言葉は全く違うものだった。


「…え、デミアンさん魔物じゃないですよね?」


 一応聞くけど、大丈夫だよね?これ完全に魔物にする反応だったんだけど。いや、クロムさんの時も誤作動あったしたぶん誤作動だと思うんだけど。

 

「魔物だったらこんなものもらってないだろう…。」


 だよね。ここのところ誤作動多いけど、これ一体どういう基準で動いてるんだろう。


「ちょっとすみません。」


 未だに腰を抜かしているデミアンさんに近寄り退魔の札を触れた方の彼の手を見る。

 薔薇の模様のような火傷の跡が痛々しく浮き上がっている。だが、その傷口には細かい光の粒が集まり少しずつその傷口を癒していく。…なんだこれ?退魔の札の誤作動の謝罪みたいな感じ?

 とにかく、魔物にはその傷口を直すことは不可能なのでたぶんデミアンさんは違うだろう。単なる誤作動だ。


「札が暴発しちゃってすみません。たぶんこれはすぐ治ると思います。」

 

 そもそも退魔の札はある程度気持ちというか、力をこめないと発動しないはずなんだけどな…。私、いつの間にそこまでデミアンさんの死を望んでたのかな…。


「…札、もう一枚よろしければ無料で渡しますけど…

「いらん。」


 だよねぇ…。ポケットに突っ込んだ右手で残りの札に触れる。今回持ってきてるのはあと二枚だからできれば節約したい。二枚中一枚はジェイミーさんに渡したいし。

 …むかしはこんなことなかったのになぁ。やっぱりカラスが死んだから色々この札たちにも問題が発生しているのかもしれない。これからはもうちょっとこの札の扱いを気をつけよう。

 

「謝罪代わりといってはなんですが、パセリの香水をプレゼントです。」


 お金は返すつもりはないが、パセリの香水は大量にあるのでプレゼントしたいと思う。

 シュッシュとかけると、デミアンさんは顔を顰めながら逃げて行った。やっと腰が戻ったらしい。おめでとう。 


「…あ、忘れてたんですけど、もっとまじめな話してもいいですか?」

「いいよ。」

「どうぞ。」 


 こんな感じの話、前もしたことある気がするんだけどさ、


「ベッドどうします?」


 結構重要な問題だよね。この部屋にはなんていったってベッドが二個しかないんだから。ちなみに他の部屋からベッドを移動させるのは難しいらしい。まぁ、見る限り一個のベッドで二人寝られるくらいには大きなベッドだし運ぶのはきつい…というか扉のとこで入らなそうだよね。


「私はクロムさんとデミアンさんが二人で寝るべきだと思います。」

「は?」


 性別的に考えて普通そうじゃん?なにデミアンさん不満そうな顔してんの?確かにさっき怪我させて悪かったなぁとは思ってるけど、それとこれとは別問題だから。


「またはクロムさんが床でいいと思います。」

「え?」


 え?


「だってクロムさんが三人一緒がいいっていったんじゃないですか。もしクロムさんがそう言わなければ、私たちふっかふかのベッドで広々と眠れました。」


 デミアンさんが首を大きく振りながら小さくパチパチと拍手をしている。さすがデミアンさんわかってる。クロムさんにビビって拍手の音がやたら小さいのが腹たつけど。


「そもそも、バラバラの部屋で寝ようとする君たちがアホなんじゃないの?」

「「は?」」


 アホにアホ扱いされたんだけど、どうしよう。


「一人部屋だと普通に考えて危なくない?なにかあったとき、ゲジアンくんもカイコくんもどうするつもり?」

「デミアンさんです。」


 今回は魚じゃなくて虫らしい。いや、そんなことはどうでもいい。

 

「私、ちゃんと色々グッズあるんで。一応身は守れますよ。」

「もし今回の騒動の原因が人間だったらどうするの?ぶん殴られておしまいじゃない?」


 …まぁ、確かに。


「だったらデミアンさんに地面で寝てもらいましょう。」

「は?」

「だって私は対人外に役に立って、クロムさんは対人間に役にたつ。デミアンさんは一体なんですか?」


 幽霊レーダー?でも、デミアンさんは幽霊が見えなかった時点でもうほぼ仕事は終わったようなものだし。さよならデミアンさん。


「…。」

「ねっ?」


 床だよ君は。諦めるんだ。

 

「…ベッドをくっつけよう。」

「家族かよ。」


 その場合だとクロムさんが夫になってデミアンさんが息子という最高の悪夢が完成する。こんな夫も息子も少しも欲しくない。

 

「…床…。」


 デミアンさんが諦めた目で床を見つめ始めた。ちょっとかわいそうで面白い。まるで娘を生贄に差し出した村長みたいな雰囲気を醸し出している。ふふっ。

 

「僕は君と一緒に寝てもいいよ☆」


 これまで静観していたクロムさんが、下手をすれば誤解を生みそうな発言をする。きっと優しさ(?)故の発言だろうが、デミアンさんの顔は真っ青だ。


「…いや、その…

「いや?」

「なんというか…

「うれしいよね?」


 クロムさんがデミアンさんの頭にぽんと手を置く。一見軽く置いているようだが、デミアンさんの顔はとんでもない力に耐えるようにぷるぷると震えている。


「う れ し い よ ね ?」


 耐え切れなかったのか、デミアンさんの首がついにストンと下におちた。こういうとデミアンさんの首が飛んだみたいだが、頷いた(強制)だけだ。


「そっか~☆よかったぁ。じゃ、一緒に寝ようね?」


 ついに抵抗をやめたのか、デミアンさんの首は今回は素直に縦にふられたのだった。

 …いつもだったらざまぁ!と思うが、ここまでくるともはや可哀そうだ。ま、やることはいっぱいあるから、同情してる時間はあんまないけどね。


「さ、そろそろこの館の探検に行きますか。」


 なにかが起こる前に色々見ておくべきだろう。ま、なにも起こらないのが一番なんだけど、なかなかそうはいかないだろうし。


「クロムさんかデミアンさんにジェイミーさんのそばにいて欲しいんですけど、どうします?」


 私は論外だ。パワー的な意味で。

 今回はおそらく幽霊じゃないから、誰の目にも見られるものの確率が高いからどちらでも構わない。魔物か人間か…レアすぎるその他か。レアすぎるその他の場合、見えない可能性もあるけど。


「デミアンくんよろしく。」

「えっ。」

「…あ、今更思ったんですけど、できれば一緒にいくのはデミアンさんがいいです。」


 後だしでごめん。でも、やっぱデミアンさんの方が都合がいい。一応幽霊探しをしてみたいのだ。いた場合もうちょっと色々わかるはず。いないにしても、幽霊案件である可能性を完全に潰せるのはいい。あとは、パワー的な意味で。なんかあったときデミアンさんがジェイミーさんのそばにいても役にたたなそう。体力なさ男だし。そもそも高確率で気絶ってゴミすぎるし。


「デミアンさんがいいというより、クロムさんにジェイミーさんのとこに居て欲しいですね。」

「え。」

「デミアンさんは頼りないですからね。クロムさんがジェイミーさんのそばにいた方が圧倒的に安心感があります。」


 外見的にも職業的にも、ジェイミーさんが一緒にいて安心度とかが高いのはクロムさんだろう。実際の安全度も高いだろうし。デミアンさん女の人と話し始めるとキモオタみたいになってまともな会話できなくなるし。その点クロムさんは逮捕行動さえなければ、いつもにこにこ笑ってて時々サイコみたいな行動する人程度だろう。…いや、それ結構ヤバくないか?


「え~、でも僕非力だよ?大丈夫?」


 何言ってるんだろう。私正直クロムさんのことゴリラだと思ってるから。そういうよくわからない謙遜いらない。


「クロムさんじゃないとダメなんです。」


 とりあえずクロムさんを納得させるためにちょっとイイ感じの言葉を使ってみる。

 すると、にこぉっと嬉しそうに笑ったクロムさんは「わかった~!」と私の両肩をぎゅっと握った。え、なにこれ。私なんかもしかして脅されてる?


「それじゃあ、まずはジェイミーさんのところに行きますか。」


 ま、隣の部屋だけど。とりあえず、クロムさんと退魔の札をプレゼントしに行こう。あと、探検に行く旨を伝えよう。




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