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「えっと、まず幽霊に効くもの…塩でいいだろ。で、魔物に効くもの…今回はとりあえずパセリ関係と退魔の札でいっか。」
ブツブツと呟きながら必要なものをバッグに詰めていく。
今回の事件の原因がなんなのかはまだわからないけど、魔物という可能性は恐らくかなり低いので塩を結構多めに持っていく。私は魔物の方が得意…というかまだマシなんだけど、幽霊率の方が圧倒的に高いから昔も正直役にたたないことが多かった。まぁ、人間にバレるほど大胆な活動してる魔物がそんなうじゃうじゃいたら困るし、そっちの方がいいんだろうけどね。あ、活動って人喰いね?
「…僕がこれを着るのか?」
「はい。そろそろジェイミーさん来るので早く着替えてください。それとも、ジェイミーさんが持ってきてくれた服になにか不満でも?」
「それは…」
コンパの時に約束した日にジェイミーさんが持ってきてくれた執事服を手に取ってデミアンさんが不満そうな顔をしている。
それなりにお洒落だと思うんだけど。というか、メイド服じゃないだけマシだと思って欲しい。デミアンさんの女装が見たくないからやめたけど、二着の執事服と一着のメイド服が渡されて最初はデミアンさんがメイド服の予定だったのだ。
「どう?似合ってる~?」
先ほど私の前で着替え始めたので、慌ててバスルームへと追いやったクロムさんがパツパツの執事服を纏って帰ってきた。真っ白なシャツに黒い燕尾服、ストライプのウェストコート、首元には黒のリボンタイ…どこからどう見ても執事だ。が、今にもウェストコートのボタンがはじけ飛びそうだし、ズボンもつんつるてんだし太腿のところがパツパツだ。似合ってる以前にそこが気になってしょうがないが、否定するのも面倒なので適当にはいと言っておく。
というかジェイミーさん、どうして一回クロムさんと会ってるのに明らかにサイズ合ってないヤツ持ってきたんだ。身長からして明らかにもっと大きいサイズじゃなきゃダメだっただろ。それともこれが一番大きいサイズだったのか。…やっぱりジェイミーさんはコスプレ趣味があってこれはジェイミ―さんのお古なんじゃ…。
「あれ?まだ着替えてないのデンジローくん。」
「デミアンです。」
クロムさんのもはやお決まりのボケにデミアンさんは今日も律義にお決まりの返事を返すが、当然のようにクロムさんは聞いちゃいない。直ることなんてほぼ永遠にありえないんだから諦めればいいのに…。
「ほら、デミアンさん早く着替えてください。」
「君は?」
「え、一緒に着替えるつもりですか?」
うっそだろ、そういう趣味かよ。ドン引き。
私のその返しに、なぜか真顔になったデミアンさんは黙ってバスルームへと入っていった。なにあれ?怒った?
「あ、失敗した。」
クロムさんがきょとんとした顔でこちらを見る。別に大したことではないので、気にしないで欲しい。ただ単に私がバスルームで着替えてデミアンさんにこっちで着替えてもらうという予定が崩れただけだ。…うーん、待つか?でもそろそろジェイミーさん来ちゃう時間だしなぁ…。というかまだ全然準備終わらないんだけどどうしよう。昔から異常なまでの遅刻魔だけど、私の家集合で私だけ準備間に合ってませんって相当ヤバいぞ。
仕方ない。ジェイミーさんが来てから着替えるよりはまだ、他の専門的な準備が間に合ってないんですぅ~の方がマシな気がする。よし、そうしよう。まだ準備できてないの専門的どころかただの宿泊セットだけど。
「クロムさん、あっち向いてください。」
「なに~?」
「着替えるのでこっち見ないでくださいね?」
「え~。」
「え~」ってなにさ。なんだその反応。見るのが当然だとでも思ってるのか。…想像したらキモくなったからやめる。
まぁ、そんな反応をしつつもクロムさんは一応後ろを向いてくれたのでさっさと着替えることにする。
「そんな気にしなくてもいいと思うよ。」
「なんでですか?デブだからですか?」
デブにだって恥じらいも人権もあるんだよ!このアホ!
「よく見てるし。」
「は?」
今とんでもないセリフが聞こえた気がする。気のせいかな?気のせいだと信じたい。
えっ、いや、まさか…ねぇ?
「…ここに監視カメラとかつけてたりします?」
「あはは☆」
こいつには自分の悪事を隠すつもりがあるのかないのか。隠すならもっとがっつりちゃんと隠して欲しい。世の中には知らない方がいいこともあるんだなって、クロムさんと出会ってからたびたび思うようになった。
「なにしてるんだ?」
私とクロムさんの間に分厚い壁が生まれかけた瞬間、デミアンさんの呑気な声が聞こえ、バスルームからクロムさんとお揃いの執事服をまとったデミアンさんがひょこひょことやってきた。
「…ん?」
「君、そんな恰好だと風邪をひくぞ。」
「あ、はい…。」
そういってデミアンさんは先ほどまで着ていたらしいジャケットを肩にかけてくれる。デミアンさんからいつもする白檀の香りがふわりと私を包み込む。
…いや、なんかおかしくないか?
「見たなー!!!!」
「は?なにを?」
「私の下着姿ですよ!!なんてことしてくれるんですか!!ド変態!!」
ここまでいってもデミアンさんは高原の草でも眺めるような顔で普通にこちらを見つめてくる。こいつなんなんだよ…。私のパンツとシャツがそんなに草にみえるのか!!
「え、変態がいるの?」
「います!デミアンさんです!逮捕してください!」
「わかった。じゃあ、まず君を…
「やっぱいいです!!」
その先は絶対逮捕だろ!というか、私が逮捕される代わりにデミアンさんも逮捕されるってどういう状況よ。ゴミみたいな交換条件だよ。
「…とにかく、デミアンさん見ないでください。」
「え、ああ。すまない。君にも羞恥心はあったのか。」
デミアンさんはそういいつつ一応天井に目を向けて、私のセクスィーな下着姿からやっと目を離したのだった。
いや、デミアンさん女性耐性たしかゴミレベルだったよね?なんで私の下着姿はガン見できるの?もしかして、私のこと女だと思ってない?じゃあ私はなに?ニュータイプ?
脳内に様々な疑問と感情が通っていくのを感じつつなるべく早く着替える。ジェイミーさんが持ってきてくれたメイド服は日本人が妄想するメイド服そのままという感じだ。マジでコスプレする気分。まぁ、コスプレ用にしてはかなり質のいい感じと明らかな本物感があるんだけど。え、このヘッドドレスも付けるの?…まぁ、仕方ないか。つけよう。
「できま…
私がこっちを見てもいいという以前にクロムさんもデミアンさんも普通にこちらを見ていた。おい、こいつらいつから見てたんだ。私への遠慮とかなにかはないのか。このド変態無神経野郎め。だったら私にもお前ら着替え見せてみろ!!見たくないからしなくていいけど。
「馬子にも衣装って感じだねぇ。」
「似合ってないな。」
二人して酷いことをいっているが面倒なのでガン無視を決める。こういうのは無視が一番だ。というか、似合わないことは許して欲しい。なんたって平たい顔の民族なんだ。がっつり日本人顔の私にこんなバリバリヨーロッパ系のメイド服なんて似合うわけないだろう。そしてメイクしてないんだからさらに絶望的に決まってる。こちとらメイク買う金もないんだ。文句あるんだったらお前らがメイク用品買ってこい!!
「デミアンさんもちゃんと着替えてきたんですね。」
「ああ。」
変な顔をしながらこちらを見つめるデミアンさんに声をかける。
クロムさんはともかく、デミアンさんはよく似合っていると思う。厨二病みたいで。執事服で眼帯って完全にあくまで執事な世界の住人だよね。
「なんで僕がこんな格好をしなくちゃいけないのかはさっぱりわからないが、この中で一番似合っている自信はある。」
なにこいつナチュラルにマウントとってきてるんだよ。
うっ、さむ!…と思ったら隣でクロムさんが満面の笑みで冷気を発していた。デミアンさん下手な人まで巻き込んで怒らせるんじゃないよ!!
「…やっぱり刑事さんの方が似合ってると思います。はい…。」
その冷気に対して一瞬で敗れたデミアンさんは青くなりながら発言を撤回しクロムさんに媚びた笑顔を向けた。そんなデミアンさんの言葉にクロムさんは照れるなぁ~といいながら冷気を霧散させる。デミアンさんの行動はとても情けないが正解だったと思う。むしろ土下座してもよかったんじゃない?私はデミアンさんが土下座してるとこ見たかったよ。
「ところで、それ臭いんだけど本当に持ってくの?」
そう言いながらクロムさんが私のつくったパセリパックを指さす。この中にはパセリの精油とか、単純にパセリとか色々なパセリグッズがはいっている。
「パセリの匂い嫌いなんですか?」
「嫌い。臭いもん。」
えー、そうなのか。まだ他の人に好かれる香りのものかな、と思って選んだんだけど。まぁ、それなりに癖のある匂いだよね。
「対魔物のやつなんで許してください。」
他のやつ用意することもできないこともないけど、面倒だし。そもそも、部屋汚すぎて他のヤツ見つかる気がしないし。
合コンの依頼の時にデミアンさんが部屋を片付けてくれたんだけど、まーたすぐ荒れたんだよね。なんで部屋ってこんな汚くなるんだろ。
「対魔物ねぇ~。今回魔物なの?」
「いや、知りませんけど。こういう相談の原因って七割幽霊、二割魔物、残りがその他って感じなので。メインは対幽霊ですけど、万が一の二割のためにパセリ持っていきます。」
「ふぅ~ん。」
やっぱりメインは幽霊なんだよね。そうじゃなかったらデミアンさん連れて行かないし。
あ、どうして私が対魔物の方が強い(まだマシ)かっていうと、幽霊は普通に見えなかったりすること多いから。対幽霊だとやっぱカラスとかデミアンさんみたいな霊力ある人がいないとキッツいよね。え、じゃあもし今回…二回目のトリップでデミアンさんと出会えなかったらどうしてたかって?…そこはまぁ、ガッツだよ。
コンコン
ノックの音が部屋に響く。
「ジェイミーです。お迎えに参りました。」
ジェイミーさんが来た!!…が、今更思い出したけど準備まだできてねぇ!!しまった!!困った!!呑気におしゃべりなんかしてる場合じゃなかった!!まだお泊りセットの準備できてないんだよ!!
「クロムさん!!ドア開けてきてください!!デミアンさん!!準備手伝ってください!!!」
当然のように私の準備は間に合わず、結局私たちは予定時刻の三十分後に出ることになったのだった。




