2‐1
「…お腹減ったなぁ…。」
女児連続失踪事件を解決してから一か月、私はまたもや貧乏ニート生活に戻ってしまっていた。仕事ない。ちょっとなんか仕事っぽいかもなと思えることは、一週間に二回ぐらいのペースでくるクロムさんを撃退することぐらいだ。クロムさんは思いつく限りの手を使って私を逮捕しようとしてくるから恐ろしい。やたらお裾わけをくれるおばさんのふりをしてカレーを届けにきたときは、あらゆる意味で恐怖を感じた。そもそもうちの近所にそんな優しいおばさんいない。いたらもっと前からその人の家に居候してるわ。ちなみにそのカレーは普通にもらって食べた。
「…。」
今日はクロムさん来ないのかなぁ…。来てくれればうまくやれば奢ってもらえるんだけどなぁ…。逮捕の可能性もおごってもらうたびにどんどんあがるけど。
え、デミアンさんの依頼料はどうなったのかって?あいつ1000メル(1000円ぐらいの価値)だけしか払わなかったんだよ!!三か月分の家賃払ったから十分だろうって!!1000メルなんてマジ四日あれば尽き果てるよ!!くっそ!!デミアンさんマジ許せねぇ。ついでにあの打ち上げ以降なんの音沙汰もないので、デミアンさんとの縁は切れたといって構わないだろう。
「デミアンさんゴミ、デミアンさん滅びろ、デミアンのアホ…。」
「誰がアホだって?」
「クロムさん!来てくれたんですね!!待ってました!!
「誰があの刑事だ!!僕はデミアンだ。」
「…ああ、デミアンさんか…。なんだ…。」
別に正直デミアンさんに用はない。
「って、デミアンさん!?」
「久しぶりだな。ヤタ。」
いつの間にか私のことを名前で呼ぶようになったデミアンさんだが、私本当はヤタじゃないから、ヤタって呼ばれてもなんか慣れない。
というか、デミアンさんスーツじゃない。なんか新鮮だけど…
「…服、だっさくないですか?」
「君にはいわれたくない。」
いや、お前にもっとも言われたくない。
デミアンさんはどこがおかしくなったのかわからないが、短パンに文字Tという小学生のような恰好をしている。しかもそれにピカピカの革靴を合わせているので余計異様だ。標準装備の眼帯も大変ヤバさを助長している。つーか文字Tの「圧倒的感謝」ってなんだよ。お前はなにに感謝してるんだ。
「…まぁ、あんまり置いときたくはないですけど、洋服が死ぬほどダサいのは置いといて、なにか御用ですか?」
「合コンパーティーにつきあ
「いやですよ。なにが悲しくて知人の合コンに同伴しなくちゃならないんですか。」
保護者同伴レベルとまではいかないまでもかなりの地獄だろ!!気まずいよ!!
「どうせ君は日々の食事に困ってるんだろう。ここでは、食事などもでるんだが…。」
「へぇ?」
「参加費などは僕が代わりにだしてやろう。」
「で?
「…。」
私はそんな安い女じゃないのだ。食べ物を出せばすぐ釣れると思わないで欲しい。
「…君はまともな洋服を持ってないだろうから、僕が洋服代ぐらいは…
「あっそう。」
「パン三日分…
「毎日パンじゃあきますよぉ。」
「わかった!!依頼料として5000メルだすから!」
「請け負いました!」
よし!!さすがはデミアンさん!!こういうところが大好きです!!!
「とりあえず、今から服を買いに行こう。会は来週だ。」
* * * *
「…え、ここですか?ガチ豪邸じゃないですか。」
遠目に見えるのは白を基調とした洋風のとんでもない豪邸だった。現在私が立っているのはその豪邸の前の門なのだが、正直邸宅までが遠すぎてそこまでよく見えない。門から邸宅までの道は美しいタイルが敷き詰められており、その道の周りには偽物ではないかと思うほど青々とした芝生が広がっている。噴水とかもあるけど、これ公園とかじゃないの?マジで?やべえ。
「だから言っただろう。」
そうだけどさぁ。ここまでとは予想しないよ。お金持ちの邸宅で合コンパーティーで、そこの家めっちゃすごいよとかって言われてても、合コンぱーりー開く時点で大したことなさそう…ってなるし。
「ちゃんとした服を着てきてよかっただろう?」
「まぁ、そうですね…。」
そこまでじゃないだろうと思っていたから、先週の私は私の洋服を買うぐらいだったらなにか食べ物を買ってくれといっていたのだが、デミアンさんの説得により一応ドレスっぽいものを買ってもらった。まぁ、これで正解だったのだろう。ひえー、浮かずにすんでよかった。
「やっぱりスーツの趣味は普通なんですね。あの私服ってやっぱふざけてます?」
「は?」
…特にふざけているわけではなさそうだ。
私服はゴミだが、デミアンさんのスーツは前回に引き続き今回もイカしている。今回のスーツは前回の青基調のものから、黒と赤基調になった。どちらかといえば、こちらのスーツの方が私は好みだが、デミアンさんの標準装備である眼帯と一緒になると中二病感が半端ないなとも思う。今日のデミアンさんのタイトルは魔王とかどうだろう。
「眼帯って寝るときも付けてましたけど、なんかあるんですか?」
「ちょっと…な。」
「ちょっとってなんですか?」
「…こういうのは聞かないのが普通だ。」
あ、そうなのか。私はまたKYなことをしたらしい。
「すみません。」
「…少し異常がある。それだけだ。」
やっぱ中二病なのか?
「いいか、僕たちはあくまで他人のふりだ。わかってるな?」
「はーい。」
デミアンさんにはデミアンさんの周りに、もし、万が一、億が一人がいなくなったら、よろしくしてくれと言われている。そんな心配しなくてもデミアンさんは顏だけはいいんだし、人がいなくなることはなさそうだけど…。
* * * *
「…。」
これまた豪華な建物の中で合コンぱーりーが始まって一時間。デミアンさんは撃沈していた。
最初はよかったのだ最初は。デミアンさんは当然のように女性に囲まれて、そりゃあもうモッテモテだった。正に会場中の女の子がデミアンさんに夢中で、男どもは死ぬほど歯ぎしりしていた。なので、私は壁の花に徹して美味しいお食事をもぐもぐしていた。ここの食事は本当に日本の高級レストランぐらいにおいしい。サーモンとろけていったもん。
だが、なぜか知らないが徐々にデミアンさんの周りから人は消えていった。私が思うに、色んなお姉さんに「名前でよんでぇ♥」といわれてそのたびにデミアンさんが「な、名前呼び!!?」と顔を真っ赤にしながら「ま、まぁ、あなたがそういうのならば…。」と告白されたみたいな反応するのがキモかったのだと思う。名前を呼ぶときもイチイチ顏真っ赤にしてめっちゃどもってたし。名前呼びのハードルそんなに高いかよ。じゃあ、私が呼び捨てしてるデイナとかなに?夫婦レベル?あんな姑息なばあさんと夫婦とか嫌だよ。
「…えっと、お名前は…?」
「デミアン・ミーティアです…。」
ま、知ってるけどな!!!お通夜モード&これまでの流れでなんか敬語なデミアンさんは、この世の不幸をすべて背負ってます感があって大変面白い。
「私はカヤコ・ヤタです。名前で呼んでください。」
別にこれは嫌がらせとかではない。またどもる&顔真っ赤なデミアンさんがみたいだけだ。ついでにいうと、ヤタ呼びがややこしくて仕方ないので変えて欲しいというのもある。
「…はいはい。カヤコさんお元気ですか…。」
…チッ、どもらなかった。顔も赤くならん。あれ面白かったのにな。
「…ここ、めっちゃ素敵な建物ですよね。」
「…はい。」
デミアンさんは全くこちらどころか建物も見ていない。あきらかに適当に返事をしている。なんでこの人こんなにすぐにお通夜モードになるんだろう。もしかして私が幽霊に見えてたりする?
「このお屋敷はここの館の主人であるアラン・ガスターさんが自ら設計した特別なお屋敷なんですよ。」
デミアンさんにだる絡みという名のお仕事をしていると、後ろから誰かに声をかけられた。
「本当に素敵なお屋敷ですよね。」
そういいながら、私と同い年ぐらいの美人なお姉さんが私の隣の席に座った。亜麻色のウェーブのかかった髪を緩く横結びにしており、その髪の色にサーモンピンクのドレスがよく似合っている。どこか冷たい印象のある美人だが、その穏やかな雰囲気により特に威圧感はない。
「で、ですよねぇ。」
こんな美人なお姉さんに話しかけられると少しドギマギしてしまう。というか、これはどう反応すればいいのだろう。一応、デミアンさんに建物のことを話していたが、実際のところ私は全くもってこの建物には興味がない。なにかいい感じで建物トークをしたいものだが、そもそも知識もない。
「えっと…
「お二人はお知り合いなんですか?」
「えっ?」
これは困った。ここで素直に「はい」といえばデミアンさんさよなら案件だし、「いいえ」と嘘をつくのもこんな綺麗な人に対して罰当たりなような気もする。うーん…。やっぱここはデミアンさんさよならで、美女優先かなぁ。いやでも、金の方が大事か。仕方ない。美女よりもデミアンさんを優先しよう。
「さっき会ったばっかなのですが、少し話が盛り上がっちゃって。」
「なるほど。」
全く盛り上がってないけどね!!!デミアンさんお葬式してるだけだし!!あれほぼ私の独り言でも通用する気がする。
「あなたのような素敵な女性でもこんなところに来るんですね。」
「ふふ、ありがとうございます。ちょっと人探しも兼ねてきているもので。」
「へぇ、人探しですか?」
「はい。カヤコさんとデミアンさんという方を探していて。」
私の近くの椅子に不貞腐れた顔で座っていたデミアンさんが、思いっきりオレンジジュースをふき出した。汚いな!!と批判したいところだが、これは私も飲み物を飲んでいたら確実にああなっていたと思うのでこれは許すことにする。
いや、え?
「大丈夫ですか!?」
お姉さんが慌ててデミアンさんに駆け寄り、オレンジジュースのついた洋服を手元に置いてあったおしぼりでぽんぽんと優しく叩く。そんなお姉さんの姿にデミアンさんは顔を真っ赤にしているが、そんなことはどうでもいい。なによりも大事なのはあの高そうな服にシミが残らないか…でもなくて、えっと、えっと…なんだっけ…?オレンジジュースもったいないでもなくて…
「あ、あの…なぜ僕たちのことを…?」
そう!!それだ!!
デミアンさんは顔を真っ赤にしつつも私が一番聞きたかったことを尋ねる。というかあの顔絶対に惚れたな。もう目がとろっとろだもん。チョッロ!!
「…やっぱり、お二人がそうだったんですね。」
お姉さんがデミアンさんの服を拭う手を止めて、こちらを見つめる。
「とある占い師の方にあなたたちを紹介されてここに来ました。私のことを…助けてくださいませんか?」
『昔拾った人外から自立したいっ!!!』も同時に投稿しておりますので、そちらももしよろしければよろしくお願いします。




