1‐10
「ま、待ってください!!」
ふと大事なことを思い出して私はクロムさんに一度立ち止まるようにお願いする。が、クロムさんは全く立ち止まる様子を見せずに「歩きながら話してよ~。」と笑顔で返してくる。
「懐中電灯とか武器とかいらないんですか!?」
あそこ真っ暗だしヤバくない!?なんかクロムさんは昨日余裕っぽかったけど!あとやっぱり、武器になりそうなものとか持ってくるべきでしょ!
「別に僕が見えるから構わないよ。むしろ明るいとあっちから見つかりやすいから懐中電灯なんていらないよね?最悪僕の携帯のライト機能使えばいいし、なるべく身軽で行きたいし。」
やっぱり見えてるのかこいつ!?こいつはいつの間に暗視能力なんて手に入れたのか!?
「武器は…カサゴちゃんこれ使う?僕は素手でいいから。」
そういって腰のポッケから取り出した黒いものぺっ!と押し付けてくる。いや、素手でいいって…お前は一体どこのゴリラだよ。
って…!!?
「い、いやこれ一般人にもたせていい代物じゃないでしょう!?それに私使ったことありません!!」
なんと、適当に押し付けらた黒い物は拳銃だった。
いやいや、これはまずいでしょ…。
慌ててクロムさんに返そうとするも「別にいらないからあげるよ~。」という言葉しか返ってこない。いらないってこれ絶対私が返さなかったら後で上からお叱り受けるヤツでしょ!!私なくしたりしてその責任おいたくない!!
「まぁ、お守りだと思って。銃は撃つ道具じゃなくて、脅しの道具として意義があるものだからね。」
え、ええ~…。まぁ、銃を持ってない人よりは持ってる人の方が狙われにくそうだし…まぁいっか…。クロムさんには私の肉壁になってもらおう。
「他はなにか…えっと…
「さっさといくよ~。」
* * * *
「き、来てしまった…。」
相も変わらず本当に不気味なところだ。これ解決したら二度とくるもんか!!
現在時刻は午後4時。おそらく、犯人はどこかで犯行を行っているであろう時間帯だ。
「写真はこれでよろしく。」
ぽいっとなにかが投げ渡されたので、慌ててキャッチするとそれはスマホ(もどき)だった。やっぱりこの世界もへたなカメラよりスマホカメラの方が性能よかったりするんだろうか。
「生霊ちゃんは今日のうちにできれば救助しちゃおうね。」
「はい。」
それはそうだ。…それに、今気づいたが昨日私たちはここで恐らく犯人であろう人に会ってしまった。それは彼女の生存にとってかなり不利に働くのではないだろうか。それにこれ以上時間を空けたら、あの男が拠点を移すことだって十分にありえる。もしかして、クロムさんが私たちをせかしたのってこれが理由?
「それじゃあ…行きましょう。」
例の赤レンガの建物の玄関のところには、昨日クロムさんがぶっ壊したドアの代わりにドア枠の向こう側に板?のような物が置いてあった。隙間も少しも見られないため、かなり大きな板なのかもしれない。が、もちろんそれで戸惑うようなクロムさんではなく、足でそれを見事倒し室内へと続く道を確保した。そして私たちが室内に入ると再びそれをもとの位置にもどした。ちなみにでかい板のように見えていたそれはタンスだった。
「え、大丈夫ですか?」
退路塞いじゃってない?
「この中からは匂いがしないから大丈夫。昨日の男はいないよ。」
え、そんなことまで匂いでわかるの?鼻よすぎじゃない?犬のお巡りさんってか?
ま、まぁいないというのだったら外からの侵入を防ぐバリケード(たんす)はあった方が安心だろう。あそこから入ろうとした場合、倒すかなにかしなきゃいけないだろうし入ろうとすれば確実になにかしらの物音がなるから、外から来た人間がきたかどうかわかりやすい。
「僕から手を離しちゃダメだよ。」
そういってクロムさんは私の手を自らのジャージのお腹のあたりの布と一緒に握りしめた。まぁ、よく考えなくてもここを掴んでろということだろう。ちなみに本日も私たちはジャージ三兄弟をしている。デミアンさんはもう帰ったけど。
それにしても真っ暗なので本当に怖い。いつかなにかにひっかかって転んでしまいそうだ。やっぱりこれ懐中電灯持ってきた方がよくなかった?
やがてクロムさんは足を止め、しゃがんで足元のなにかをいじり始めた。
「地下室への入り口ですか?」
囁くような声で尋ねると、これまた米粒レベルの小さな声で「うん。」とだけ返ってきた。
やがて、ガゴンという音が響くとヒューっという風の通るような音が足元から聞こえてきた。おそらく、地下への道が開いたのだろう。
「梯子だから気を付けて。」
これやっぱ絶対懐中電灯持ってきた方がよかったやつ。光なしで梯子とか無理だよ…。スマホのライト使っちゃだめ?
そんなことを思いつつも、真面目な私はクロムさんが梯子を下りきるまで周囲に銃を構えつつ、クロムさんが下りたことを確認すると、なにもいわずに梯子をおりた。
「ぎゃっ!!」
そして途中まで下りた段階で私は足を踏みはずし、地面にドスっと落ちた。が、その地面はおおよそ地面とは思えない触り心地をしていた。なんというか…べとべとしていた。なんとも言えない気持ちわるい感じがする。まるで…潰れたバナナと納豆をまぜたものに手を突っ込んだみたいな…。そして、ここにきて私はこれまでクロムさんがいっていた臭いの意味を理解した。たしかに…ここは果てしなく臭い。おそらくは生ものが腐ったような…。
「ここは…。」
「静かにして。僕たちが君を助けるから。」
クロムさんの限りなく抑えた声がどこからか聞こえる。もしかして、生霊さんの本体に会えたのだろうか。私もできれば会いたい。
「あの…クロムさん…
ガゴンッ!!!!
私の頭の上から、なにかが閉まるような音がした。
「えっ…。」
「しまった…!!!」
珍しくクロムさんの焦った声が聞こえた。だけど、真っ暗で私には状況が理解できない。でも、今の音はもしかして…。
「あの、クロムさん…。」
「地上への扉が閉められた!!」
ま、マジか…。犯人帰宅したってこと?いやいや、でも音とかは特に聞こえなかったし…。
カンカンカンとクロムさんが梯子を駆け上ったのであろう音がした後、ドンドンと扉を叩く音がしたがそれが開いたような様子はない。クロムさんでも壊せないって…。
「たしかに室内にはいなかったはずなのに…。なんで…。」
『縺斐″縺偵s繧医≧』
不思議な声が聞こえたと思った瞬間、部屋が異様な雰囲気に包まれた。
そして、室内に哄笑が響きわたる。その声は天井から聞こえるようにも、地下から湧き上がってくるようにも感じた。
ここに何かがいるわけではないことはわかる。だが、なにかの強烈な存在感がそこかしこからしてどうにも落ち着かない。今すぐここから逃げ出したいのに体が動かない。
「カサゴちゃん、」
梯子から降りてきたらしいクロムさんが私をなにかから守るように抱きしめる。こんなときでも名前を間違えているクロムさんに思わず乾いた笑いが漏れそうになるが、そもそも体が少しも動かないのでそれも叶わない。これは恐怖かなにかのせいなのだろうか?それとも…
『繝舌き迥ャ』
認識できそうでできない不気味な言葉がたしかに私たちに向かって吐かれた後、地下からその不気味な気配はふっと消えた。そして私はやっと動けるようになった。
「い、今のは…?」
絶対にデミアンさんがいたら気絶してたレベルの恐怖を感じましたが!?あれなんだったんすか!?あれ本当に人間すか!?えっ、こわっ!!
「…さぁ?」
えー!!!クロムさんでもわからないのかよ!!あんた暗闇でも目見えるんだからなんか見えたんじゃないの!!?
「あの…スマホのライトつけてもいいですか?」
私からさっさと離れ、地上への扉をガンガンと叩くお仕事に戻ったクロムさんに尋ねる。あんま聞いてなさそうだけど、大丈夫だよね?
「別にいいけど、あんまりこの光景見ない方がいいんじゃない?」
えっ、なにそれ。怖いこと言わないでよ。ま、まぁなにも見えないよりはマシだしライトつけるけどさ。
私はスマホをぱぱっといじり、ライト機能にする。というかリアルな世界の方のスマホにマジそっくりだな。現実世界のみなさ~ん!パクられてますけど大丈夫ですか~?
「…。」
私はライト機能を一瞬にしてoffにした。色々みたくない物を見た気がする。ここの地面は腐ったバナナかなとか思ってたけど、どうやら土に中途半端にストロベリージャムと白い棒が埋められていたものだったらしい。その風景が一面に広がっている。なにこの地獄絵図。…まぁ、多少は予想してたけどここまで酷いとは。
「…電話かけられるかやってみますね。」
「無理だと思うけどね。」
正直スマホの画面の光によって見える光景すらも見たくないけど、この状況から助けだされるのだったらまぁ致し方ないことだろう。
「すいません、この世界で警察の電話番号って…
「011。」
まさかの110番の逆!!ふざけてるのか!!とか思いつつも一応かけてみる。が、通じない。
「通じませんね。」
「だろうね。」
なんて用意周到な犯人なんだ!!!
「あ…あの…。」
小鳥の鳴くような小さな小さな声が私の後方から響いた。この声は…
「い、生霊さん…。」
扉が閉められたことに夢中になってすっかり忘れそうになっていたが、私の目的は彼女だった。私は彼女を助けるためにここに来たのだった。
私はスマホのライトをonにして、慌てて人影に駆け寄る。色々見えたくないものも見えたが、まぁ些末なことだ。
「だ、大丈夫ですか…?」
「は、はい…。」
生霊の本体さんは思いなしかカタカタ震えていたので、私のジャージを羽織らせる。怪我はない様子だが、生霊の時の姿と同じく全身血まみれだ。…まぁ、こんな地面の上にずっといたら血まみれにもなるだろう。
体もガリガリで明らかに栄養はたりていない。食べ物や飲み物をなにかあげたいが、生憎なにも持ってきていない。クロムさんの言うことなんか聞かずに一度家に帰って色々もってくればよかった。…まぁ、結果論だけど。それに一度戻ったところで食べ物なんか持ってこなかった可能性高いけどね。すぐ帰る予定だったし。
「か、かならず助けますから…。だから安心してください…。」
「…。」
…ま、まぁこの状況明らかに安心できないよね。わかるー!!私も生きて帰れるかわからないもん。というか、このままクロムさんが開けられなかったら確実に死ぬ。
…デミアンさん帰さなければよかったなー…。デミアンさんが上にいればこんなことならなかったかもなのに…。
「リングさんとか助けにきてくれたりしませんかね?」
「二日ぐらい連絡なかったら警察に通報してとはいっといたけど。」
二日かぁ…。私とクロムさんは生きてるかもね…。でも、この本体さんはなぁ…。結構ギリギリかもよ?
というか、さ。さっき気づいたんだけどさ、玄関のとこのタンスの置き方って建物の中にいないとできない置き方だったと思うんだよね。外にいたら絶対にできないかといわれれば、そんなことはないだろうけどかなり難しいと思うんだ。少なくとも家の前でかなり長時間ウロウロすることになって、かなり目立つ。いくらここの通りに人通りが少ないとはいえ、そんな行動はかなりリスキーじゃないだろうか?外からあの玄関を塞ぎたいのだったらもっと他の方法があっただろうし、タンスをどうしても使いたいというのだったら、凹凸面がある方を室内側ではなく外側に向けた方が絶対にやりやすかったはずだ。
…ということはさ、最初から犯人はこの建物の中にいたって考えた方が自然なんだよね。アー、私もうクロムさんの鼻信じねぇ。つーか匂いで人間いるかどうかわかるっていうクレイジーな言葉信じた私が一番偉大なる馬鹿だよ。
「…なんか変なにおいする。」
「へー。」
クロムさんが鼻をすんすん言わせているが、もうクロムさんの鼻を信用しないことに決めた私にはまったく関係のない話だ。というか、ここの地下では変なにおいしっぱなしだよ。腐った匂いとかね。
「…通気口から毒放り込まれたみたい。」
「あっそう。…えっ!!?」
いやいやいやいや!!なにそれ!?死ぬよね!?うっ、確かに思いなしか息が苦しく!
「ど、どうすればいいんですか!?」
「こっから出るしかないんじゃない?」
なるほど!それは名案だ!!!…って、それができたら今困ってないよ!!
なにか考えなきゃ、なにか考えなきゃ、なにか考えなきゃ…。
「通気口から出ることは?」
「だいぶちっちゃな穴だしもう塞がれているように僕には見えるけど。」
無理だぁっ!!
「クロムさん、そこの周りと塞がれたものを破壊したりは…
「ここの地下、変な力かかっててなんにも壊せない。」
なかばなんそ!!
なにか…方法方法…。
「クロムさんなにか思いつきませんか!?」
私たちはもうちょっともつかもだけど、このままだと生霊さんの本体さん死んじゃうよ!!
ジャージを口の周りに巻かせてはいるが、こんなもの気休めにしかならないだろう。生霊の本体さんの顔色はなんだかとっても悪く見える。
「…。」
「クロムさん!!」
なんでそこで黙る!!
「…占い師。」
「はっ!?」
なんだこいつ!?ふざけてんのか!!?この期に及んで!?占い師がどーしたよ!?私の今後占ってくれるの!?そりゃほぼ確で死ぬだろうし、今占ったらほぼ当たるだろうよ!
「占い師に力貸してあげるって言われたんでしょ!」
「えっ、いや…。」
そういや言われたけど…。
あんな適当な言葉信じる馬鹿いる…?
「すぅって消えたんならなにかすごい存在かもよ?もしかしたら、魔法使いかも。」
「えぇ…?」
魔法使いか…。それは考えてなかったな。
まぁ、名前呼べばいいだけだし大して時間は使わない。試してみることぐらいはかまわないだろう。
「か、カ…か…
まて。あいつの名前忘れた。カは思い出せる。そうだ私は昔から固有名詞を覚えるのが苦手だ…。でもなんたってこういう大切な時に…
『カ、ぺ?』
「カぺ助!!!」
す、すげえ!!ひらめきの力ってすげえ!!まぁ、思い出して名前を呼べた所で…
ガチャッ!!
「ぎゃんっ!」
なにかが外れるような音がした後、硬いものが硬いものにぶつかる音が聞こえた。そして、クロムさんの悲鳴が聞こえた。
「クロムさん!?」
「うあ~…。」
ライトで照らしつつ梯子のあたりまでいくと、落ちてきたらしい地上への扉とのびているクロムさんがいた。これは地上への扉が外れて、その扉が梯子のところにいたクロムさんの頭に直撃しちゃったやつだろうか?なんて痛いピタゴラスイッチ。さよならクロムさん。南無南無。一応息はしてるっぽいのでたぶん生きてると思うけど。この人のことだしすぐ起き上がってくるだろう。
とにかく今は本体さんを連れて今すぐここから出て、電話を使って警察に助けを求めるべきだろう。で、電話をしたら(あれば)救急車かなにかを呼んで本体さんを病院に連れていく。これで完璧だ。クロムさんのことは警察に助けてもらえばいい。地上への扉は開いていることだし、毒がこもって死ぬことはないだろう。たぶん。
「本体さん。私が先に行くから、オーケーっていったら手を伸ばしてください。なんとか引き上げます。」
本体さん私より身長はでかいけど、ガリガリなのもあって体重は私の何倍も軽そうだし引き上げられるはず。はず。
梯子をできるだけ早く上り、クロムさんの携帯を地面に置き地上へと顔をだす。久しぶりの地上…
「動くな。」
…首になにか冷たくて鋭いものが突き付けられている。
…どうやら、犯人はまだ出て行ってはおらず、悪趣味にも私たちが地下で毒によって死ぬのをわざわざ地下室の扉の目の前で待っていたらしい。もしくは、こういった事態も想定していたのかもしれない。こんな奇跡みたいな事態をどうやって想定したのかは知らないけど。
そして、私はその奇跡みたいな事態を一瞬にして潰されそうになっている。
「カジカちゃん?」
クロムさんの声が下でする。もう復活したらしい。…あー、もう少し早く復活してくれてたらなぁ…。クロムさんだったらこの状況もなんとかできたかもだけどなぁ…。私じゃなんも対抗できないよ…。もしかしたら、私が死んだあとクロムさんが出てくれればなんとかなって本体さんは助かるかも…。
「カジカちゃん!なにがあったの!?」
私が返事をしないことに対してクロムさんが怒りのドラミングでもしているのか、ドスンというすごい音が聞こえた。ヒィ!!私はカジカでもカツオでもなくてカヤコだから許してくれー!!あー、犯人もクロムさんもどっちも怖いよぉー!!!でも今だったらクロムさんのドラミングしている胸の中に飛び込んでもいい!!そっちだったらさすがに殺されないだろうし!
「死ね。」
し、死にたくねぇええええええ!!!!!!
「カぺ助ぇええええ!!!!」
ダメだ!!今回はなにも起こらない!!終わった!!目をつむり、丹田にぎゅっと力を入れてきたる激痛に耐えるための準備をする。
ああ、もうちょっと首回り鍛えておけばよかった…。首だけボディビルダー目指せばよかった…。
「ぎぃやあああああああああああああああああ!!!!!」
ドンッ
マヌケな絶叫とともに、なにかを打撃するような音が聞こえた。首元が解放されたのを感じ、パッと目を開く。すると、私の首元にナイフを突きつけていた男の体がぐらりと揺れ、梯子の方へ落ちてくる。えっ!?
「ごぁああああああああああ!!!!!」
もちろん成人男性の体重なんぞ私の鍛えていない腕では支えきれるはずもなく、犯人ともども私は地下室へと突き落とされた。が、ストロベリージャムな地面に落ちる直前私はなにやら温かいものに包まれた。
「大丈夫?」
「あ、はい…。」
なんとクロムさんが下で受け止めてくれたらしい。そちらこそ、さっきぶつけた頭は大丈夫なのだろうか。
いや、クロムさんの心配をしている場合ではない。一体なぜ犯人は落ちてきた?さっきの絶叫と打撃音はなんだ?疑問はつきないし、下手したらさっきの打撃音も絶叫も私たちの新たな外敵によるものかもしれない。
警戒しつつ地上への穴を見つめていると、誰かが覗き込んできた。恐らく私がさっき地上に置いたクロムさんの携帯の光が逆光になってイマイチだれだかわからない。
「だ、大丈夫か!?や、ヤタ!!」
こ、この声は…!!!
「デミアンさん!!!」
ここにきて初めて私の名前(苗字)を呼んだけど、本当はそれ私の苗字じゃないとかは置いといて、これは驚きだ。
「来てくれたんですか!?」
さっきのドスンというすごい音はクロムさんのドラミングでもなんでもなくて、もしかしてクロムさんが玄関の前のタンスを倒した音だった!?
「あ、ああ。…その、今僕が殴ったのって…
「犯人です!!本当にありがとうございます!!」
無実の人ぶん殴りましたとかっていうオチではないから安心して欲しい。むしろデミアンさんが殴ったこいつは成敗されるべき人間だ。
「怪我とかは…?」
「あんまないです!!たぶん!!」
あるかもしれないけど、生きてるだけで万々歳だ。
「生霊と刑事は?」
「生霊さんの本体さんもクロムさんも無事です!!」
「よかった…。」
ここで私はクロムさんに地面へと降ろしてもらい、クロムさんには本体さんを持ち上げてもらう。
「デミアンさん!!引きあげてあげてください!!」
デミアンさんに声をかけて、クロムさんから本体さんを受け取ってもらう。私はなにもしていない気がするが、私が無理して持ち上げたり引き上げたりするよりは成人男性にお願いした方が全然マシだろう。
「うおっ!?き、君!!?」
バターンとなにかが倒れるような音がする。おそらく生霊さんそっくりの本体さんを見たことによって、デミアンさんは気絶したのだろう。
さっきまでは勇敢だったはずのデミアンさんのいつも通りの姿になんだか安心しつつ、私とクロムさんは地上への梯子を上ったのだった。
* * * *
「いやぁ、おごりだなんて申し訳ないですねぇ!!クロムさん万歳!」
今日はクロムさんのおごりでお疲れ様会at相談所だ。別に外に行ってもよかったのだが、思い出の一部としてデリバリーを注文している。ま、生霊さんにデリバリー全然関係なかったけどね!!
あ、あの生霊の本体さんの名前はジニー・バーディーさんで16歳の少女だった。現在は病院で入院中でカウンセリングやリハビリを受けつつ徐々に快方へ向かっている。特に目立った外傷もなく、衰弱していたこと以外は特に体に問題がなかったことが幸いしたらしい。私も何回かお見舞いにいったが、きれいに体を洗った彼女はとんでもない美少女で、初めて私がお見舞いに行ったときはうっかり他の病室に間違って入ってしまったのかと思い焦った。そんな彼女は性格も大変よろしい。だが、なぜかクロムさんに一目ぼれしている点だけはちょっと理解できないなと思う。
そういえば、彼女には生霊になっていた記憶もなにもないらしい。だけど、なぜ六時か八時の間だけ消えたのかに関しては、犯人が帰ってきて死体の処理をする時間がそのあたりの時間だったからではないだろうか、といっていた。それ以外の時間はただ死んだように過ごしていたらしい。恐らく、生霊になれるということは霊感がそれなりにあるということなので、なにかあったらぜひうちの相談所を頼ってほしい。ジニーさんのことを生霊だって全く気付かなかったダメ相談所だけどね!あ、デミアンさんの席の周りの人たちは無事復活したらしいよ!よかったね☆
そして、これはそんな生霊系美少女に惚れられているクロムさんに聞いた話だが、逮捕された男はジル・クルーガー。やはり彼は失踪事件…正確には連続殺人事件の犯人であったらしく、彼の逮捕以降女性失踪者の数は激減した。あそこの地下に埋められていた亡骸の数は現在調査中らしいが…かなりの人数であることが予想されているらしい。動機はまだ口を割っていないらしいが…狙われていたのは美少女ばかりだったので…まぁ、そういうことなのではないだろうか。どうしてジニーさんだけ殺さなかったのかという質問に対しては「人手が欲しかった」とのことらしい。ジニーさんへの事情聴取の結果、彼女は地下でずっと死体の埋葬をさせられていたらしく、その証言との矛盾はないらしい。
で、こっからは私が個人的に気になっていること。
あの赤レンガ建物の中にあったものの数々だ。ジニーさんを連れ、あの建物の中を照らしながら歩いた時に見えたものはまるでなにかの宗教組織のようだった。花が置かれた祭壇のような物、天体模型の数々、古ぼけた部屋にはあまりに不釣り合いな豪華なタペストリー。☆のマークの中に羽のようなものが描かれたマークがそこら中にあったのもなんなのか気になる。あれらがなんなのかクロムさんとデミアンさんに尋ねたが、二人とも一体あれがなんなのかはわからないらしい。が、デミアンさんは「どこかで見たことが…」と、つぶやいていた。
あともう一つ。これはクロムさんから聞いたのではなく、私に事情を聴取してきた刑事さんから聞いた話。地下室に私たちが放り込まれた時、通気口から入れられたのはスキュトーアという花から作られた精油だったらしい。が、それに全く毒性などはなく、むしろアロマテラピーなどで使われるものらしい。まぁ、かなりレアな花らしいが、それでもこの国でその匂いをかいだことがない人間はあまりいないらしい。でも、だったらなぜクロムさんはあの時放り込まれたもののことを毒だといったのだろうか…。クロムさんレベルの鼻の良さだったらそれぐらい嗅ぎ分けが付く気がするけど…。ま、所詮は犯人が思いっきり家にいるのに、いないと言い張った程度の鼻の良さということか。
「この馬鹿鼻がっ!!」
「え?それ僕のこと言ってる?」
「なんでもないでーす!そういえば、あの時聞こえたあの不気味な声はなんだったんでしょーかねー?」
「さぁ?でも、僕も聞こえたし幽霊じゃないことは確実なんじゃない?」
「ぶ、不気味な声!!?」
またデミアンさんが気絶しそうになっている。妄想だけで気絶しそうになるのはマジで訳が分からないのでやめて欲しい。あの時私たちを助けてくれた勇気はどこの星にとんでいったんだか。
「地下にいた時に聞こえてきたんですよ。」
「ヒィ!!…そ、そういえば、僕が犯人を殴る前にカぺ助と叫んでいたが、一体なんだったんだ?」
「…魔法の呪文ですよ。」
「あの占い師の名前をなぜ…。」
まぁ、色々あったんだよ。
「とにかく今回のMVPはデミアンさんで決まりですね。ありがとうございました!!」
「あ、ああ…。」
「でもさ、ちょっと遅くなかった?もっと早く来てくれれば、僕たちが地下に閉じ込められることもなかったかもなのに。」
「それは六時すぎるの待っ…いやっ、なんでもない!」
…これはもしかして、あの時点でほぼ確で消えていた生霊さんに怯えて六時まで相談所の外に出られなかったということか…?なんというビビり…。まぁ、それでこそデミアンさんだな。あの時、あの赤レンガの家に突入できたのはマジで奇跡だったってことだ。
「…ごはん美味しいですね…。」
「それはよかった。最後の晩餐を楽しんでくれたようでなによりだよ。」
「最後…?」
「うん。だって事件はもう解決したし、美味しい食事も食べられたし逮捕しかなくない?」
「で、デミアンさーん!!!!」
こ、ここまで来て捕まってたまるかよぉおおおおおお!!!




