50 気が付けば月曜日
翌朝、天は今日が月曜日なのだと教えられた。
階段から落ちたのが木曜日。本当に二日眠っていたらしい。そこまで重傷だったのかと思うと、今更ながらに震えが来る。
昨日に比べると、体の調子は良くなってきた。痛みはあるが、ちゃんと動かせるようになった。
ただ、月曜日、と思うと気になるものがある。
先週の土曜日は、真波と一緒に出掛けるはずだった。せっかくの約束を果たせず、天は少し落ち込んだ。
真波には謝らなければならないだろう。今日も見舞いに来ると言っていた。その時に。
痛みは厄介だ。何度も震えるスマホにも手が伸ばせず、悶々とする。
きっと、海智留や真波からだろう。すぐにでも返信したかったが、腕を上げるのも辛い。
時間の流れを遅く感じる。暇で仕方がない。早く、あの二人に会いたい。
午前中は、母が見舞いついでに服を持ってきてくれた。なんでも、まだしばらくは入院が必要とのこと。
そろそろ定期試験がある。いつまでも寝てはいられないのだが。さらに定期試験が終われば、また海智留と映画に行く約束がある。
目を閉じ、眠るわけでもなくぼんやりとする。
午後になり、数時間が過ぎ、時計を見るとやっと授業が終わる時間になった。
そろそろ、海智留と真波が来てくれるかもしれない。天は少しでも元気な姿を見せようと、看護師に頼んで上半身を起こした。
それから一時間もしないうちに、海智留と真波が来てくれた。
「こんにちは、天さん。お加減はいかがですか?」
「ちわっす、天センパイ。無理とかしてませんよね?」
二人共に、天の容態を心配してくれる。それを嬉しくとも、申し訳なくとも感じて、
「うん、だいぶ良くなったよ」
言うと、二人の顔が少しだけ明るくなった。
「食事はできましたか? お見舞いにパンを買ってきたのですが」
「あ、それは嬉しいなあ」
「あんぱんです。その……今日は、ちゃんとこしあんを選びました」
「えっ? 海智留さんに、パンの話したっけ?」
「いえ、店員さんに聞きました。天さんはこしあん派だと」
海智留が、ビニール袋を傍らに置いてくれた。メロンパン、チュロス、そしてあんぱんだ。
「天センパイって、あんぱんが好きなんです?」
「うん。シンプルだけど、美味しくて。あそこのパン屋のは、特に」
「へえー。アタシも食べてみたいっすね」
「あ、じゃあ、食べる? 海智留さんも」
せっかくの機会だ。天も小腹が空いていた。パンはちょうどいい。
「いいのですか?」
「もちろん」
あんぱんを出してもらい、早速、三人で分けた。天の好きな物を分ける、というのは何故だか気恥ずかしく感じる。それでも、この二人には、好物を知ってもらいたかった。
海智留がちぎり、分けてくれる。二人はすぐに口にして、
「これは……」
「うわ、これウマッ」
「でしょ? あそこのは格別なんだよ」
高評価を貰えてうれしい。今度、あのパン屋に立ち寄った時は二人が褒めていたと伝えよう。
ただ、今の天には少し問題があった。
「天さんは召し上がらないのですか?」
「ああ、その、食べたいんだけど、今は手が上手く使えないから」
苦笑いすると、何故か海智留の目が光った、気がする。
「……ほう? でしたら、私が食べさせてあげます。あーんしてください」
「あっ、コラッ。抜け駆けすんな!」
「天さんの恋人なら、当然の行為です。はい、天さん、あーん」
「待てって! ……ってか、勝手に恋人になんな!」
「ふ、二人共、病院なんだから、静かにね?」
場を収めると、結局、
「あーんですよ、天さん」
「え、えっと、天センパイ、口、開けてください」
二人に食べさせてもらうことになった。これは素直に恥ずかしい。
「あ、ありがとう、二人共」
照れながら、食べさせたもらう。何故だか、いつものあんぱんが、さらに美味しくなった気がする。
「天さん、そう恥ずかしがらないでください。妻ならば当然の行為です」
「テメッ! またってか、いきなり妻になんな!」
「だから、静かにね?」
二人のやり取りは、
「そこの二人、病院ではもっと静かにしたらどうだ」
新たな見舞い者が来るまで続いていた。




