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最強でなくなった俺がこのゲームをクリアする! 〜ユニークウェポンを手に入れて、周りが俺を放っておいてくれないみたいです〜  作者: 七詩のなめ


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紅の策略

「「……勝負?」」


 何を考えたのか。南奈は閃いたという表情で人差し指を立てて提案する。その閃きに思考が追いつけていない刃と姫野は同時に首を傾げた。一瞬早く嫌な予感が脳裏を駆け抜ける刃は、南奈が自分と姫野を”アンダーワールド”内で戦わせようとしているのではないかと危惧する。

 姫野との戦いは今朝方したばかりだ。勝敗は刃の勝利だったが、もう一度戦えば、刃の実力を知った姫野に油断はまずない。プレイスキルが一般人よりも高いだけの刃を攻略することは、実は大した労力ではない。

 姫野は腐っても日本が誇る極東第一学園の第8位。加えて百鬼影には特殊能力が付与されている。凡人とは比べるまでもなく、学園の保有する天才の1人だ。

 早々に逃げ出す算段を考え始める刃に、南奈はふたりの中で生まれた疑問符に答えるよう語り始める。


「勝負と言っても百鬼影を使ったシングルバトルじゃない。まあ、見てみたい気持ちもない……わけではないが、それじゃああまりにも刃が不利だ」


 なぜか姫野にキッと睨まれる刃。

 レートの低い刃に黒星を付けられたことでプライドを傷つけられた姫野にとって、もう一度刃とシングルバトルを行なって報復したい気持ちがあった。南奈の言葉通り、姫野の頭の中には次に刃と戦った時の立ち回りが出来上がっていた。

 無論、刃がただで負けるとは思っていない南奈は、ふたりの戦いを観たい好奇心は隠しきれない。かつての友人であり、ゲームをこよなく愛する刃が劣勢になる姿を観てみたかったのだ。

 だが、南奈の希望を確実に叶えるには過ぎた好奇心であることは間違いない。そこで南奈は考えた。公平で、かつ平等に評価するにはどうすればいいか。

 真紅のポニーテールを揺らして右目でふたりを交互に見る。


「姫野は知っていると思うが、1ヶ月後に我が学園が所有するグランドダンジョン”最も古き英雄譚”を1週間限定で開放する年に1回の大イベントが執り行われる」


 7つのグランドダンジョンは全100層で構成され、1層10万平方キロメートルで構成される大規模ダンジョンのことで、10層ごとにボス個体が配置されている。

 ボス討伐で得られるレアアイテムは高値で取引されており、企業と国家が保有する傭兵や軍隊が投入されるほどの超貴重アイテム採掘エリアだ。

 世界7大学園がひとつずつ保有していて、記念日や学園祭と称して開放される、まさに1大イベントである。

 南奈の発言に、刃は心が躍った。まだ見ぬ強敵。攻略の楽しさに打ち震えていたのだ。対する姫野は片眉を上げる。


「それは知ってますけど、まさかその攻略を勝負の内容にするつもりですか?」


 7つのグランドダンジョンはその性質上、クリアした者が未だにひとりも存在しない。まして学徒のふたりにクリアなどできるはずもない。

 首を横に振って南奈は否定する。


「いやいや。そんな無謀なことはさせないさ。グランドダンジョンではモンスター討伐や階層クリアで得られる貢献度が存在するだろう? ふたりにはそこで競ってもらおうと思っている」


 一息。


「だが、それだけでは10年のブランクのある刃が不利になってしまう可能性があるから、絶対条件として50層のボス”荒れ狂う金獅子”を先に討伐できた者が絶対の勝者とする。これなら最低限の公平性が担保されるだろう?」


 現在判明している最高階層のボスである”荒れ狂う金獅子”の討伐は困難を極める。どれだけプレイスキルの高い刃や特殊能力を持つ姫野であっても討伐は難しいだろう。しかし、刃の異常なプレイスキルの高さを知っている南奈からすれば”荒れ狂う金獅子”の討伐は実力的に可能だと踏んでいる。

 モンスターの討伐や階層クリアによる貢献度で争うもよし。最短で”荒れ狂う金獅子”の討伐を狙うもよし。どちらを狙うかで行動が分かれるだろう。

 顎に手を当てて考える姫野。すでにどちらを狙うか考えているのだ。刃はというと、初めてのグランドダンジョン攻略にどのような敵がいるのかなどと妄想をして変な笑い声を漏らす。

 小さく頷いた姫野が言う。


「とてつもなく嫌ですが……わかりました。はあ、なんだかルーデルファスト学長の策に乗せられているようで納得しかねますけど、そこの男に負けっぱなしは嫌なので」

「そうかそうか! 姫野ならわかってくれると思っていたよ!」


 わっはっは、と。豪快な笑いをして刃の背中を強く叩く。女性にしては強い力で叩かれて、呼吸を乱される。

 やめい、と。叩く手を払いのけて、刃は嘆息した。

 刃の意見を全く取り入れない話が、どんどん進んでいく。とはいえ、刃も学園生活を夢見ていたし、何より他称されるくらいにはゲーム好きだ。たとえそれが南奈の思惑が絡んでいることであったとしても、ゲームを楽しまない理由にはならない。

 出会ったばかりだというのに、負けず嫌いがよくわかる姫野は刃をキッと睨みつけている。思い当たることが多過ぎてどれで怒っているのかわからない刃は一歩引いて、南奈の影に隠れる。その様子を見ていた姫野がずっと疑問に思っていたことを口にした。


「いくつか確認させてください」

「なんだ?」

「ルーデルファスト学長とそこの男の関係は? それとあんた……不知火刃だっけ。あんた一体何者よ」


 刃はスッと視線をずらす。南奈もんんと低い唸り声を上げた。

 別段答えられない内容でもない。ただ、南奈は刃のことを公にしたくない理由があった。というのも南奈の権力を全て使って刃を学園に編入させる方法がいわゆる裏口入学のような形で行われる予定だ。それだけならよくある話なのでバレてもどうとでもない。

 真に問題となるのは、刃という特別な存在がまだ世界に公開されていないことだった。いずれはバレてしまうことだとしても、それを極限まで遅らせたいと南奈は考えていた。

 さて、どうしたものか、と。頭を捻らせる南奈が、再び閃いた。


「じゃあ、こうしよう。1ヶ月後の勝負で刃が勝てばパートナーを続けてもらう。姫野が勝てば刃に関する全ての情報を開示しよう」

「……隠すほどの男……という認識でいいんですね?」

「すまないね。仮とはいえパートナーを組んでもらうのに隠すのはみっともないとわかっている。だが、どこで噂が広まってしまうかわからないから、極力隠しておきたいんだ」

「……わかりました」


 渋々了承した姫野は難しい話を飲み込んだ。そうして、刃の前に立って手を差し出した。

 その意味を知らない刃は戸惑う。姫野の手と目を交互に見て、どうすればいいんだ、と。無言の問いかけをする。

 こんなことも知らないのか、と。大きく息を吐いた姫野が説明する。


「誓約(ゲッシュ)よ。お互いに握手をして勝負内容を復唱し、最後に自分の名前を宣誓することで契約を交わすの。誓約の内容は自動的にデバイスに保存されるわ」

「な……なるほど……。進化したもんだな」


 不思議がりながら差し出された手を握る。

 姫野に続いて復唱した。


「ルーデルファスト学長の提示した勝負を、私——姫野香織は正々堂々と行うことを誓います」

「み、南奈の提示した勝負を、不知火刃は正々堂々と行うことを誓います」


 映像型デバイスが自動的に起動し、誓約のテキストが浮かぶ。

 これで終わりと、言わんばかりに姫野は握手を解く。誓約を結んだふたりを見て、南奈はふたりの方を軽く叩いた。


「よし。お互い熱い戦いを期待しているよ。それはそうと姫野。仮のパートナーとはいえ、案内役も任せたよ」

「……はい」


 とても不服そうだ。南奈からのお願いじゃなければ、おそらくは引き受けなかっただろう。

 まだ敵意のある視線で刃を見つめられ、刃は萎縮する。


「ほら、行くわよ」

「ど、どちらに……?」

「学内を案内するのよ。着いてきなさい」


 そう言って踵を返して歩き出してしまう。刃は南奈をチラリと見て、助けを求めるが、南奈は不自然なほどに微笑んで、行ってこいと言いたそう。

 仕方なく、先を歩く姫野の後ろをついて行くことにした。


 ——さて、第一関門突破というところかな。問題は……。

 

 学長室を出て行こうとするふたりの背を見て、南奈は腹に抱えた黒い感情を押さえ込んで不敵に笑っていた。

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