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最強でなくなった俺がこのゲームをクリアする! 〜ユニークウェポンを手に入れて、周りが俺を放っておいてくれないみたいです〜  作者: 七詩のなめ


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3/30

旧友との再会

「——は?」


 あまりある感情を処理できずに自然と出た言葉だった。

 姫野の兎型の百鬼影には自身よりレートの低い相手の動きを鈍化させる特殊能力がある。加えて、スピード戦に分がある暗殺者のクラスの姫野が、低レート帯の相手に速さで負けるはずがなかった。

 縦横無尽に戦闘エリアを駆け回る小鬼は一定の距離を維持したまま、二丁拳銃で兎にダメージを与えてきた。一発のダメージは大したものではない。ヒットポイントゲージが微小減る程度のもの。姫野の武器はリーチの長い爪で攻撃すれば一撃で小鬼を撃破できるだろう。だが、その一撃があまりにも遠い。

 刃の完璧な間合い管理と、旧式のアイテムである二丁拳銃は一撃の威力を犠牲にリロード時間を最速にする攻撃で、姫野は翻弄されてしまった。

 姫野は気がついていないが、視聴者は1000人を超え、コメントも多数送られてきていた。

 姫野の表情が焦りで歪む。対する刃は目を輝かせて次なる行動を思考し続ける。

 右、左。姫野の攻撃に合わせて大きくジャンプして兎を飛び越える。その1動作に攻撃を絡めて少しずつだが、確実に姫野のヒットポイントを削っていく。姫野もチャンスと見て攻撃を繰り出すが、それが刃の巧妙な罠で僅かに体を後ろに下げると、姫野の攻撃は空を切る。明確に作り出された隙を突いて3打撃が兎を襲う。

 ついには姫野のヒットポイントを削り切り、勝者の称号が小鬼の頭上に現れる。


「……ふう。危なかった」


 危なげなシーンなどどこにあっただろう。姫野の動きを全て読み切ったような位置取り、一度も隙を見逃さない観察眼。誰がどう見ても圧勝と呼べるものだった。

 まだ現実を受け入れられない姫野は敗者の屈辱を味わうことすらできていなかった。

 と。汗を拭った刃が時計を見て、顔色を青くする。

 ついゲームが楽し過ぎて待ち合わせの時間を大きく過ぎていたのだ。時間に厳しい友人ではないが、それにしても大遅刻だった。

 呆然とする姫野を見て。


「すまん! 俺急ぐから!」


 なぜ戦闘になったのかも忘れた刃が手を大きく振って、その場を後にする。ビクッと意識を取り戻したように体を震わせた姫野は何も発することなく、遠ざかる刃の背中をただじっと見つめていた。


 大通りを歩く学徒たちを追い越して、学徒たちが吸い込まれていく門の前に立つ。


「ったく。わかりにくいんだよ、この地図……」


 そんなことを愚痴って門を通ると、下手をすればひとつの村より大きいのではないかと思えるほどに広い敷地を持つ日本最大の学園、極東第一学園がそこにはあった。

 門を通る際に、ここの場所の地図と一緒に送られてきたゲストの通行許可証をタッチして学内へ侵入する。中には学徒と見られる同じ制服を着た若者がたくさんいた。

 色々と見て回りたい気持ちをグッと堪えて、入り口付近に設置されている学内地図を眺めて、待ち合わせ場所へと向かう。

 門の正面に建てられた大きな建物の中に入って、エレベーターに乗って目的の階層で降りる。そこから少し歩いて、目的地である部屋の前に立つ。プレートには学長室と書かれていた。

 数回ノックして、扉を開く。中には久しい顔があった。


「遅いじゃないか。何かあったのか?」


 真紅の長いポニーテールに左目を眼帯で隠す美女が特徴的なギザギザな歯を見せて笑っている。

 とても疲れたように肩を落として、そうなんだと刃は告げる。


「聞いてくれよ、南奈。なんか、変な女の子に巻き込まれてな。大変だったよ……」


 刃と待ち合わせをしていたのは極東第一学園の学長を務める南奈(みなみな)・リカルド・ルーデルファストだった。

 南奈は、ん? と、訝しんで顎を手で押さえて机に肘をつく。


「まさか、戦ったわけじゃないよな?」

「いや? 戦ったよ」

「……勝敗は?」

「勝ったけど?」


 あちゃー、と。顎を押さえていた手で目元を押さえ仰反る。何かまずいことでもしただろうかと考える刃だったが、結論巻き込まれただけの刃にとって間違いはなかったはずだ。

 少し考えた後、南奈は大きなため息をこぼして、まだ立っている刃を椅子へと誘導する。

 ふかふかのソファに腰掛け、刃はようやく一息つくことができた。ふひい、と。エアコンの効いた部屋でのんびりしている刃を見つめて、もう一度息を吐く。


「まあ、やっちまったものはしょうがない、か。ちなみにア(・)レ(・)は使ってないよな?」

「使ってないよ。アレ、一度召喚すると動けなくなっちゃうし」

「なら大丈夫だ。もし、アレを使っていたら説教をしなきゃいけないところだった」


 え、説教……?


 急に話が大きくなったことでゆったりとした気持ちにひんやりとした感情が乗る。18歳になった今でもお説教が苦手な刃は、話題のアイテムを使わなかったことで大いに安堵した。

 南奈は席を立って、テーブルを挟んで刃の前に座る。


「ひとまず、ここまで来てくれてありがとう」

「なんか、南奈らしくないな。友達に呼ばれれば集まるだろ、普通」

「お前はまだ、私を友人と呼んでくれるのか……。いや、それでもお礼を言わせてもらう」


 現実世界でも”アンダーワールド”でも刃が南奈に会うのは10年ぶりになる。ネット世界から完全に足を洗っていた刃の下に南奈から今時珍しく手紙が届いたのが2日前。何やら話があるということだったが、その内容までは書かれていなかった。

 単刀直入に、なんの話があるのか。刃は南奈に問いかける。


「それで? 急に連絡してくるなんてどうしたんだ?」

「その話なんだが……まあ、なんだ。コーヒーでも飲むか?」


 立ち上がり、コーヒーマシンからコーヒーを2杯入れていく。

 それを刃と自分の前に置いて、一口飲む。

 刃の覚えている南奈は快活で凛とした性格だった。今のように疲れ果てた社会人のようではなかった。子供目線ではあるが、重責で動けないような南奈を見て、少し心配が生まれる。

 刃もコーヒーを飲み、南奈から話してくれるまで待つことにした。


 それにしても……これが10年前日本の誇る上位プレイヤー”移動砲台”の今の姿か。覇気のあった姿はどこへやら、だな。


 刃は持ち前の観察眼で南奈の今を見通す。化粧で誤魔化してはいるが、肌艶が落ちている。とても28歳の女性だとは思えない。指先は乾燥しており、おそらく机の上に置かれた大量の書類を処理する過程で水分が持っていかれているのだろう。

 そこまで考察して、ハッとなる。

 山籠りで何か観察することが日常だったとはいえ、友人である南奈を観察してしまった。バレてはいないだろうが、罪悪感が刃を襲う。

 視線を逸らして部屋の中の備品を見る。


「はあ……いざ、話すとなると気が重いな」

「な、なんだよ。……まさか、婚活に失敗して、俺と付き合おうとか言わないよな!?」

「言うか、阿呆! 婚活に失敗したわけじゃないわ! これでも今、いい感じの彼氏が——って、そんな話をするためにお前を呼び出したわけじゃない!」


 ぽりぽりと朱に染めた頬を掻きながら婚活事情を話しかけた南奈が大きな声で否定する。

 ひとまず山籠りしていた年下男子を彼氏にしようとしたわけでないことがわかって安心する刃。コーヒーを飲みきり、カップをテーブルに置いた。

 10年前から何も変わっていない刃に呆れた息を吐いて、背もたれに大きくもたれて天井を見つめる。かと思えば、急に意を決した形相で姫野がつけていたものと同じ映像型デバイスを渡してくる。


「……これは?」

「この学園で提供してる映像型デバイスだよ。つけてみな」


 言われるがまま耳に装着する。初期認証画面が開き、自動で情報が更新されていく。最新機種の情報処理の速さに感動していると、見慣れないテキストが現れる。


 ——2401個のアイテムをダウンロードします。


 刃の覚えている限り、そんなにアイテムを所持していない。多くても数百個程度だったはずだ。

 気になってアイテム欄を見ると既存のアイテムは全てダウンロードされていた。では、今からダウンロードされるアイテムは一体なんだろう。


「おい。なんだよ、このアイテムの量は……」


 驚きながら視線をアイテム欄から南奈へと変える。

 両手を顔の前で組んだ南奈が真剣な表情で静かに告げる。


「2000個のレアアイテムと400個の装備品、1000万バーツを以て、不知火刃——」


「——君を極東第一学園へ勧誘したい」

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