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最強でなくなった俺がこのゲームをクリアする! 〜ユニークウェポンを手に入れて、周りが俺を放っておいてくれないみたいです〜  作者: 七詩のなめ


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迅雷のアレクサンダー

「——すごい……」


 姫野は見惚れていた。両方とも姫野の特殊能力の影響下にありながら、最高のパフォーマンスを発揮し、互角とも言える戦いをしていた。

 剣戟の火花が散る。正確には雷獣の咥えた短剣の攻撃を弾丸でパリィしているものだから剣戟というには異色だが。アレクサンダーの攻撃に隙はない。その隙を潰すように弓兵10体が矢を放ち、槍兵らも逃げ場をなくすように攻撃を繰り出す。

 重武装した鬼を倒したところまでは良かった。この攻撃の中にさらに重武装した鬼が混ざっていたなら、明らかな敗戦になっていただろう。今はまだ劣勢でいられるのは刃がそれらの攻撃をかろうじて防ぎ切っているからだった。

 必死の防衛に刃は少し疲労感を覚えた。対するアレクサンダーは焦りを見せ始める。


 なんなんだ、こいつは。俺様の攻撃を絶妙なタイミングで銃弾を使ってパリィしやがる。弓兵の奴らの攻撃も、槍兵も掻い潜って死角からの攻撃をしてるっつうのにどうして一撃も当たらない……!?


 重武装した鬼が倒されたことは予想外だが、自らが最強であると自負している自分が参戦した戦闘をかれこれ10分も続けている。刃の位置どりは正しく完璧だった。死角からの攻撃は事前の微かな足音を頼りに対応し、槍兵を盾にするように弓兵の半分の攻撃を無力化していた。

 だが、焦るアレクサンダーと同様にこのままではまずい、と刃も考えていた。

 防御に徹すれば凌ぎきれない攻撃ではない。しかし、防戦に徹してもアレクサンダーは倒せない。

 意識を途切れさせれば死角からのアレクサンダーの攻撃が致命傷を喰らうだろう。ゆえに刃は常に神経を敏感にさせていなければならなかった。それが刃のスタミナをみるみるうちに削っていく。


「——クソッ!」


 刃の位置どりが一瞬ブレた。そのせいでアレクサンダーの攻撃が小鬼の頬を掠める。

 ダメージは少ないが、今まで作ってきたテンポが半拍遅れたみたいなものだ。少しのズレは音楽のように重ねられた攻撃の嵐の中に刃を飛び込ませた。

 槍兵3体の一突きが交差する。それを飛び跳ねることで回避した刃だったが、続けて弓兵の矢が空中の小鬼に向けて射られる。それらを無理な体勢を取ってでも銃弾で打ち落とした。そのせいで無難な着地ができず、初めて刃は隙を見せた。


「——ようやく、見せたな」


 背後の死角からのアレクサンダーの攻撃。狙われたのは心臓だった。これは避けられない。しかし、心臓を壊されれば死亡も免れない。

 刃は左に二丁拳銃を構えて、同時に発砲する。発砲の反動で拳ひとつ分右に体が動いた。そのおかげで心臓を捉えるはずだった短剣の切先は心臓まで1センチというところで突き刺さった。

 次の攻撃をさせないため、刃は無理やり前へと転がり、背中に刺さった短剣を引き抜かせた。流血によるスリップダメージは仕方ない。喜ぶべきは短剣に毒などの状態異常(バッドステータス)が付与されていなかったことだろう。流血に加えてバッドステータスを背負えば、さすがの刃でも勝機が一切なくなる。

 それでも無視できないダメージを見て刃は苦い顔をする。


「……いい武器を持ってるなあ。羨ましいぜ、全く」

「そうだろう。この武器は俺様の素早さの30パーセントを攻撃力に上乗せさせるのさ」


 刃にようやく攻撃が届いたアレクサンダーは我が物顔で語る。

 10分の戦闘の後、アレクサンダーの百鬼影が素早さ特化の暗殺者であると把握した。その素早さの30パーセントが攻撃力に上乗せされているのなら、刃のヒットポイントを半分近く削った理由はわかる。

 チラリ、と姫野の方を見る。両足を失ってから回復していないところを見るに、欠損部位回復系アイテムを持っていないことを刃に悟らせる。となれば、姫野の戦線復帰は期待できない。

 この数、洗練された陣形の敵軍を刃はソロで突破しなければならないということだ。


 まったく……本当に楽しませてくれるよ、このゲームは。


 敗色濃厚な劣勢の中で、刃は不敵に笑っていた。一時的に距離を取ったアレクサンダーの隙を見て素早くアイテム欄を開いて回復アイテムを取り出し、失ったヒットポイントを回復させる。南奈からもらった大量のアイテムがここで効いてくるとは思いもしなかった刃は、密かに南奈に感謝の念を送る。

 回復し切ったのはいいが、刃に今を打破できる策は思いついていない。


 アレクサンダー……だっけ。あいつが高速移動の類の特殊能力を持ってるのはわかったけど、高速で移動されるのはわかっていても対応しづらいな……。


 この戦闘のキモとなるのはアレクサンダーの特殊能力の克服だ。特殊能力と言っても”アンダーワールド”における特殊能力はパワーバランスを崩すものではない。メリットが大きければ、その分デメリットも存在する。

 ゆえに、アレクサンダーの高速移動にもデメリットが存在する。それを看破することができれば、刃にも勝機が芽生える。


「ほらほら、どんどん行くぞ!」


 再び始まった攻撃の嵐を刃はテンポよく回避する。そこに雑音を立てるようにアレクサンダーの攻撃が行われるが、それもどうにか回避することができた。

 刃は戦い方を変える。攻撃を回避するのは変わらないが、変えたのはより正確にアレクサンダーの動きに注目するというものだった。

 初動。移動終わりから、攻撃に移るまでを目で追う。その過程で、刃は引っ掛かりを覚える。アレクサンダーの動きはこうだ。立ち止まり、雷のような光に変化、移動を終え1拍置いて死角からの攻撃。まるで移動する線を頭の中で描いてから動いているかのよう。もうひとつ気になったのはな(・)ぜ(・)雷(・)の(・)状(・)態(・)で(・)攻(・)撃(・)を(・)行(・)わ(・)な(・)い(・)のか。


 ……何となくわかったぞ。アレクサンダーの特殊能力のデメリットが——。


 再三の死角からの攻撃を銃弾でパリィし、距離を取る。

 疲弊した脳を休ませることなく、笑った小鬼は告げた。


「あんた、移(・)動(・)中(・)は(・)攻(・)撃(・)が(・)で(・)き(・)な(・)い(・)んだろ。移動中でも攻撃ができるならとっくにそうしてるはずだ。舐めプをするような性格だとも思えないし……どうだ。当たりか?」

「……ハッ。それがわかったところでどうだっていうんだ。てめえの劣勢には変わりないだろうが!」


 その通りだ。デメリットがわかったとしても、状況を打破できるだけのデメリットではなかった。否、デメリットを補うようにアレクサンダーはこの陣形を組んでいた、というのが正しいだろう。

 移動中は攻撃ができない。1対1の戦いであれば或いは大きなデメリットになり得たかもしれないが、数的有利を得ている今の状況ではそのデメリットは潰されているようなもの。それをわかっているから、刃は笑ったのだ。


 姫野だけでも逃がせたら、と思ったけど結構難しいぞ、これ。さて……どうしたもんかな。


 防戦も疲労から徐々にダメージを負うようになってきた。このままでは負けは確定的。アレクサンダー攻略はソロでは酷く難しい。追い詰められる刃を見ていた姫野は、やっぱりあいつでもダメだった、と諦めて叫ぶ。


「——逃げなさい! あんた1人なら逃げ切ることくらい——」

「何言ってんだ。こんな強敵を前にして逃げる選択肢なんてあるわけないだろ。それにあと少しで、倒せそうな策が思いつきそうなんだよ」


 絶望的な状況でも刃は考えることをやめない。常に勝ちの目を探し続けている。アレクサンダーの特殊能力は看破した。あとはこの陣形をどうにかして崩すことができれば、風向きが変わる予感があった。


 あと一手。あいつがミスをするか、周りの奴らがミスをしてくれればそれを起点に陣形を崩せるかもしれない。でも……ミスりそうにねえなあ。


 激しさを増す攻撃をパリィも交えて回避を続ける刃は、ここに来て天運に任せた。すでに刃の頭は奥まで焼け付くように披露していた。ミスを誘発させるような高度な動きはできない。かといって、この陣形に慣らされているアレクサンダーたちがミスをするようには思えない。

 この際、リポップしたモンスターでもいいから、この状況に波紋を起こしてくれ、と刃は願う。

 その願いに意識を奪われた一瞬が、致命的なミスを招いた。そのせいで刃は着地体勢を誤ったのだ。光が走り、小鬼の背後を雷獣が取る。咥えられた短剣が弧を描いて振られる。

 狙いは首。下手をすれば頭が飛ぶ軌道だった。ミスに気がついた刃は、ダメ元で大きくその場で跳ねる。


 ちくしょう。やらかした……!


 首が飛ぶのは回避できたが、右足を切断された。ダメージもヒットポイント半分強削られ、弓兵の一斉掃射が行われる。アレクサンダーはその攻撃から回避するため再び雷となり、刃から距離を取る。

 後ろに倒れた刃は、迫る弓矢を撃ち落とす。……が、次の瞬間目の前に雷獣が現れて、勝ちを確信した笑みが小鬼の瞳に映った。


「終わりだ、クソや——」


 最後の攻撃が振り下ろされようとしたその時、雷獣の右頬を突然現れた白い獣の尾が弾いた。

 おかげで刃は生き残ったが、刃とアレクサンダーの間に立つ白い獣はその存在を色濃く語る。敵か、味方か。圧倒的な存在感の前に刃はその判断をしかねていた。

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