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最強でなくなった俺がこのゲームをクリアする! 〜ユニークウェポンを手に入れて、周りが俺を放っておいてくれないみたいです〜  作者: 七詩のなめ


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17/30

紅の隠し事

 初日の夜。疲労を回復させるためと口実をつけて姫野は刃と分かれて行動していた。刃はあまりの疲労でまっすぐに寮に帰り休息を取ったが、姫野は違った。姫野は極東第一学園が有する図書館へとやってきていた。

 図書館と言っても実物の本があるわけではない。現代の書籍はそのほとんどがデータで管理されており、管理者権限は必要であるものの個人情報までが数百台ものパソコンで閲覧可能となっている。

 姫野は誰もいない図書館で入り口から離れたパソコンの電源を点ける。姫野のIDを入力し、データベースを開いた。


 不知火刃。一日張り付いて観察してみたけど、やっぱりおかしい。……ううん。あまりにもレートと比例しなさすぎる。


 ”最も古き英雄譚”開館初日。刃を観察するため、極力離れないように戦闘を行なっていた姫野には、刃がどれだけおかしいのかを理解するのに十分だった。

 プレイスキルは初めての戦闘よりもはるかに卓越されており、刃なりに努力をして短期間で予想にほど近くレートを上昇させてきた。それでもおかしいと思ったのは、刃の観察力と戦闘の嗅覚だ。

 刃の観察力は瞬時に敵の弱点を見抜き、どのような体勢でも正確に弱点を突きクリティカルを発生させる。戦闘の嗅覚に関しては、ある程度情報があるとはいえ、初めて挑むグランドダンジョンのマップでモンスターがどこに、どれだけの数がポップするのかを感覚で把握していた。

 そのふたつが、主に姫野の貢献度に追いつけた理由だろう。

 しかし、10年もの間、山奥に隠居していた刃にそれが可能だろうか。普通ではあり得ない。10年のブランクをたった1ヶ月で取り戻せるような人物を、人は天才と呼ぶのだ。


 元軍人……あり得ないわ。10年前なら8歳のはず。でも、8歳の少年をルーデルファスト学長が目を掛けるわけがない。何か……決定的に他の人とは違う何かがあるはず……。


 姫野が図書館に来たのは、本人はあまり使いたくないと思っているが、姫野家の権限を悪用して刃の個人情報を盗み見ようとしたからである。

 個人情報というだけあって、データファイルは迷路のように入り組んだところにあり、セキュリティも他を圧倒するほど頑丈にロックされている。姫野家が刃の個人情報を見たというログは残ってしまうが、そんなリスクをど返ししてでも見る価値はある、と姫野は判断していた。

 ようやく突破できた個人情報を閲覧する。


「………………は?」


 名前、性別、生年月日。

 たったそれだけの情報しかなかった。いいや、詳細に語るならば、それ以外の情報は全て黒く潰されていて、どこの病院で生まれたのか、どこに住んでいるのかなどの情報を閲覧することができなかった。

 思わず漏らしてしまった言葉を飲み込むこともできず、姫野はただ茫然と黒(・)塗(・)り(・)された情報を見つめるしかなかった。


 何よこれ……。姫野家の権限を使っても閲覧できないなんて……。あいつ……本当に何者なの……。


 意図的に消されたとしか思えないページに、姫野は別の角度から少しでも情報を得ようと考える。ページのログを開き、自分の前に閲覧あるいは改竄した者を特定しようと試みる。

 嫌な予感が姫野の脳裏を過った。

 重くキーボードを叩き、ログを開いて素早く得られるだけの情報を得ようとする。辿り着いた答えを見て、姫野はまたしても言葉に出してしまった。


「——最終編集……10年前の6月9日。編集したアカウントは……南奈・リカルド・ルーデルファスト……?」


 10年前の6月9日。

 忘れもしない。姫野が強くなろう、と心に決めた日。すなわち、世界で初めて”ユニークウェポン”が誕生した日だ。

 なぜ、その日に編集されたのか。どうしてここで南奈の名前が出てくるのか。

 調べなければ、と姫野がキーボードを叩いた瞬間。背後から声が聞こえた。


「——あまりいい趣味とは言えないな」


 凛とした女性の声。

 ビクンッ、と背中を仰け反らして、恐る恐る背後に目をやる。そこには真紅のポニーテールを揺らし、左目に眼帯をした人物がしたり顔で立っていた。


「……ルーデル……ファスト学長……。いつからそこに……」


 口元は笑っているが、黄金の瞳には一切の笑いがなかった。

 南奈はゆっくりと姫野に近寄り、姫野の腕を掠めるように手を伸ばす。南奈の手が触れたものはパソコンのタッチパネルだった。少ない動作でパソコンを強制的にシャットダウンさせ、真っ暗になった画面には姫野の顔の横に数センチの距離で南奈の顔が映っていた。

 必然的に近くなった耳に、南奈は囁くように告げる。


「君が刃の個人情報を得ようとしてセキュリティを必死に破っていた途中からさ。そこで諦めておけばよかったものを。……君の好奇心は奴に勝らずとも劣らずと言ったところか」


 その囁きがこそばゆい。鳥肌を立たせて、姫野は視線だけを南奈の方へと向ける。真紅のポニーテールが見えるだけで南奈の表情までは見られなかった。

 その時、南奈の表情は実に無表情だった。何の感情もなく、何の躊躇いもないといったふう。もし、その表情を姫野が見てしまったのなら、それはそれは全身を震わせたことだろう。

 姫野の知る南奈は、どこかおちゃらけていて、掴みどころのない性格だ。このような冷静かつ冷徹に行動を起こすような人物像ではない。

 暗転した画面に自らの顔を見つけ、南奈はスッ、と仮面を被るようにいつもの表情を作り出す。そうして、起き上がり、姫野を見つめた。


「——さて。ここで全てを忘れて明日に備えて寮に戻るか。それとも我を通すか。私としては前者を強く勧めたいが……その表情ではやはり後者を選ぶか。全く。思い通りにならない世の中だ」

「……なぜ、改竄を行なったんですか」

「改竄とは人聞きが悪い。私はただ、奴を守るために情報を黒く染めただけだ。あ、別に奴が犯罪を犯したとか——」

「——不知火刃は何者なんですか」


 口を笑顔で開いたまま固まった南奈。いつもの冗談で切り抜けようとしていたが、姫野の気迫はそれを上回った。そのため冗談を言えなくなり、開いた口が数秒フリーズしていたのだ。

 高速で頭を回転させる南奈は、どうにもならない、と結論をつけて笑顔の仮面を脱いで無表情の冷徹な目で椅子に座る姫野を見下ろした。


「——私はな。実は”アンダーワールド”での日本の順位には興(・)味(・)が(・)な(・)い(・)ん(・)だ(・)。勝とうが、負けようが実に興味がない。私にはもっと大事なものがあってな。それを手に入れられれば、別に国がどうなろうと知ったことではないんだ。わかるか、姫野」

「……答えに、なっていません」


 姫野から離れ、近くの椅子を持ってきた南奈は姫野の前に座り、足を組んだ。初めて見る別側面の南奈に少しだけ気圧されそうになったが、姫野は自分の好奇心に勝てなかった。

 手を振り、そう急かすものではない、と南奈は一蹴した。


「まあ、待て。その欲しいもの、というのがな。……どうも私では手に入らないようなんだ。……実力不足。年齢。天賦の才。人脈という名のしがらみ。要素は他にもあるが、結論から言えばただの一言……”アンダーワールド”は私にとってのク(・)ソ(・)ゲ(・)ー(・)だ、ということだ」

「……」

「私は昔から欲しいものがあったら、どんな手を使っても手に入れる質なんだ。どれだけ”アンダーワールド”がクソゲーだろうと、欲しいものは欲しい。だから考えた。私に足りないものは何だろう、と。その過程で……私は不知火刃と出会った」


 昔を懐かしむように雄弁と語る南奈を、姫野はただ見ていることしかできなかった。


「ここから先を話してしまうと、さすがの君でも不知火刃が何者なのか、がわかってしまうだろう。だから、語らない。それは明確なレギュレーション違反になってしまうからな。だが……まあ、なんだ。今はまだ、奴を公にしたくはないんだ。あまり挑発しないでやってくれ」


 サッ、と立ち上がり、持ってきた椅子を元の位置に戻すと南奈は再び仮面をつけて笑顔を見せた。

 その異様さが姫野に嫌悪感を思わせる。

 結局、姫野は何も得られなかった。謎は謎のまま、南奈によって封をされてしまう。諦めきれない、と立ちあがろうとした姫野の方をグッと押さえて南奈は笑顔のまま告げる。


「これ以上は本格的に私の権力を——」


 言いかけて、南奈の映像型デバイスに着信の音声データが流れた。それを聞き終えた南奈は、姫野の肩を離して解放する。

 何が起きたのか、理解できなかった姫野だが、なおも笑顔のままの南奈が言う。


「やはり、先輩の嗅覚は鋭いな。私が君を威嚇してわざと負けるよう仕向けるな、と言われてしまった。……まったく。先輩は昔から無茶を言う。さあ、行け。明日も早い。今日はゆっくりと休んで、明日以降も活躍を期待している」

「……失礼します」


 刃に隠された真実。南奈の思惑。それらを忘れてしまうくらい、姫野は誰かに助けられた、という事実が悔しくて仕方なかった。

 泣きそうになりながら、姫野はそそくさと図書館を後にする。

 その背を見送って、南奈は眉間に指を当てて、悩ましい種のことを思う。とりあえず映像型デバイスを起動させ、とある人物にメッセージを送る。


 心配しなくても大丈夫ですよ。言われずとも私は彼の勝利を確信していますから。


 数秒前に姫野を脅そうとしていた人物と同一人物とは思えない軽薄な言葉だった。

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