使用人たちは語る
執事・第一メイド・下働き・ガヴァネスの覚え語り。
ロナルド・モンドからの聴き取り
はい、私はロナルド・モンドと申します。サクセン家で執事を十年勤めさせて頂きました。
私達使用人は一番長い者で十年前に雇われたのです。それ以前に働いてた者は、旦那様が伯爵位を継がれたと同時に解雇されたと聞いています。
なんでも旦那様の意見を、聞かない者が多かったからと。
旦那様と奥様についてですか。
まあ、あまり会話はなかったかと。高位貴族ともなれば、別段珍しくもないご関係だと存じます。
何か困ったこと……そうですね。お二人共自分が経験してないことは、頑なに信じないと言う部分がありました。
それによって他家への謝罪も、度々せねばならず難儀致しました。
特に試験を受けずにお嬢様が、魔導学院に通うと言いだした時など、私ども使用人は悪質な冗談だと思っていたのですが、お二人はお嬢様のしたいようにさせろ、と言うばかりで。
はい貴族学院からの入学書類が届いていることは伝えたのですが、魔導学院へ入学するのだからそれは放っておけと。
なぜ魔導学院は、入学試験のある学校だと教えなかったのか?
言ったところで『嘘だ』と叱責されるか、鞭で殴られるかですから。
ええ、執事の『私』がです。
ですのでお二人の前では、どれだけ間違ったことを言われたとしても、賛成しておくのがサクセン家で波風立てず働くコツですので。
そうしておけば、給金が減ることはありませんからね。
お嬢様ですか。
……お嬢様はなんと言いますかとても自由奔放で。
幼い頃はその奔放さも可愛らしかったのですが、年を重ねれば重ねるほど『可愛らしい』などと言うレベルではなくなりまして。
お嬢様付きのメイドは、仕打ちに耐えられず雇っても雇っても辞めてしまうので、第一メイドのニナが怒りを上手く庭の娘に行くよう誘導するか、下働きのマイヤを使うかで、日々なんとかやっておりました。
あの……庭の小屋に住んでいた娘がサクセン家の正統後継者だと言うのは事実でしょうか?
ではあの娘は、旦那様がメイドに産ませた庶子ではなく次期サクセン伯爵……。
─真っ青になったあと、自分は本当に知らなかったのだとロナルド・モンドは弁明を繰り返していた。
ニナ・オードからの聴き取り
はいあたしはサクセン家で、メイドとして八年働いてました。
ちょっとでも失敗したら、旦那様に鞭で打たれるから人が居着かなくて、毎日朝早くから夜遅くまで働いてましたよ。
良い職場ではなかったけど、サクセン領では一番高いお給料貰えるんで我慢してました。
お嬢様?……ええと、確かローズ?様でしたっけ。
旦那様と奥様が、毎日適当な名前で呼ぶんで本名がなんなのか、分からなくなるんですよね。
犬猫じゃないってのに。
あのワガママ娘はなにかって言うと、癇癪起こして大声上げて、クッション振り回して。あたしや他のメイドを打ったりけったり。
旦那様も奥様も全然叱らないもんだから、ワガママがどんどん酷くなって。
うちの父ちゃんや母ちゃんなら、ぶん殴って縄で縛って一晩外に出してますよ。
え?もう一人お嬢様がいる?
いや、そんな方居なかったですよ。怖い冗談言わないでくれます?
庭に居た娘?
アレは奥様がお嬢様の癇癪のぶつけ先と、旦那様のイライラの解消の為に買った貧民でしょう?
─十二歳からサクセン家でメイドとして働いていた彼女は、長女をサクセン家の人間だと一度も認識していなかったようだ。
マイヤ・バーンズからの聴き取り
わたしはマイヤ・バーンズ、十歳です。
ええと、サクセン伯爵家で下働きをやってました。二年くらい。
毎日朝早くから夜遅くまで怒鳴られて、ぶたれて働いてました。
サクセンの御屋敷にいたひとはみんな嫌いです。
あそこで働くのは、いじわるなおばさんちでもいいから帰りたいくらい嫌だったです。
裏庭の小屋にいたひと?
あのひとは、ずるいと思います。
だってわたしは毎日毎日、旦那様やお嬢様に怒鳴られてぶたれて、執事さんやニナさんにもぶたれて、くたくたになるまで働いて、やっとごはんが食べれたのに。
あのひとは、怒鳴られてぶたれるだけで、ごはんをもらえてたから。
あのひとが、サクセン伯爵家のもう一人のお嬢様?
嘘だあ。
お嬢様ってお姫様みたいにふわふわのドレス着て、毎日美味しいもの食べてるんだもん。
わたしが着てたおばさんとこのメアリのお下がりよりぼろぼろの変な服着て、わたしが食べてたスープとパンより、具がないスープと硬いパン食べてたあのひとが、お嬢様なわけないじゃん。
大人でも嘘は言っちゃだめなんだよ。
─我が国では十三歳以下の児童労働は禁止であり、労働者に対する暴力は刑罰の対象である。
ヘンドリッヒ・サクセンと、ロナルド・モンド、ニナ・オード、マイヤ・バーンズの保護者については別件で調べる必要あり。
ブルーベル・クロウラーからの聴き取り
ブルーベル・クロウラーと申します。
七年前に一ヶ月ほどサクセン家で、ガヴァネスとして働いておりました。
……私の眼が気になります?
ああ、謝らないでください。謝られると私が惨めな気分になりますから。
この傷は、ええと……アニーでしたかしら、リアだったかしら。ごめんなさい、あの娘は両親に好きな愛称で呼ばれていたから、使用人や私はお嬢様と呼ぶようにしてましたの。
ええこの傷は、サクセン家次女につけられたものですわ。
行儀作法を教えていた時です。
自分の名前を言ってスカートをつまんで足を引いて挨拶する、それが出来ないと癇癪を起こして、私の顔に本を投げつけて来ましたの。
当時は眼鏡をかけていましたから、レンズが割れて眼球に刺さりました。
私が目を抑えて蹲ると、あの娘は言いましたわ。
今流行りの『ライラのせいよ!』と。
……サクセン夫妻は、次女を愛しいとは一切思っていません。
ただ、自分達と同時期に結婚した方々が、子どもを連れ歩く姿をおおく見て、自分達にもそれが必要だと思ったから、仕方なく次女を成したのでしょう。
長女が健康でサクセン前伯爵に引き取られていなかったら、次女は産まれてなかったと思います。
長女も次女も周囲の者も、次女が両親に可愛がられていたと思っているみたいですが、本当に可愛がっていたのだったら、次女はもう少しまともな性格をしているはずでしょう?
夫妻は彼女を一人の人間としてみておりません。
連れ歩くのに適した、服を着てお喋りするペット程度の認識しかしていませんでした。
小さくて可愛いペットなら、多少躾されてなくてもまあまあ許されますからね。
もっとも成長した今では、連れ歩くのに適さないペットに成り果てたようですけど。
─ブルーベル・クロウラーの右目の視力は、ゼロである。
なお七年前彼女にサクセン伯爵家から、支払われた慰謝料は給料二カ月ぶんだった。
彼女が加害者である線はかなり薄いが、サクセン夫妻について興味深い意見を述べていたので、重要証言として記録に纏めた。
ガヴァネスは厳密には、使用人ではないのですが、
区切りが良いので一括りにしました。




