叔母は語る
叔母視点。
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福祉局職員達の雑談。
マイラ・アーノートからの聴き取り
はい、わたくしはサクセン伯爵ヘンドリッヒの妹でございます。
わたくしはサクセン領から、離れた場所に嫁ぎましたし、嫁いでからは兄の顔など見たくもないので、実家には一度も帰っておりません。
昔からカッとなると、すぐわたくしや乳母を叩いてくるので。
ええわたくしや乳母が、自分より『下』だと理解していたからですわ。抵抗されたり両親に告げ口したところで、父が兄を庇うのでよく父の後でにやにやと笑っておりました。
アンナ……でしたっけ、福祉局の職員に見せて頂た資料を読むと、あの娘は兄そっくりですのね。
兄は父が甘やかしたせいで、ああなったのですわ。
後継者だった上の兄が、亡くなってしまったのもあるのでしょうけど、ああ言う性分の人間は、甘やかせば甘やかすほど増長するのに。
母が矯正しようとしてましたが、結局自分より上の立場の者には阿り、下の立場の者には高圧的などうしようもない子どものまま育ったようね。
ライラのことですか?
ええ産まれたのは存じ上げております、と言ってもあのこが学園に保護されるまで、わたくしはライラは亡くなったものだと思っておりました。
兄も兄が結婚した義姉も、産まれた赤子に興味を示さず庭師の家で育てられていたとか。
母が発見した時は、皮膚が剥がれて体中が真っ赤で手足が枝のように細く、今にも死にそうだったと聞きました。
ああ、皮膚が剥がれてたり、手足が細かったり、死にそうだったのは、庭師の家でライラが寝かせられていた藁布団に、沸いてた虫のせいだと母が医者に言われたそうです。
さすがにここには置いておけないと、母がライラを引き取って医者の言うとおり毎日毎晩何回も薬を塗り、栄養のある物を少しずつ与えていたら、皮膚も綺麗になり体重も増えて、同年代より少し小さいけれど、普通の子どもらしくなってきたと数年後手紙で伝えられました。
ライラの見た目が普通になる頃に、兄夫婦に子が出来たと聞いて呆れましたわ。
三年も長女を母に預けっぱなしで、顔を見に行くこともなかったくせに、良く二人目を作ろうと思えたものだわねって。
母もそれに憤慨して、自分の個人資産は兄には一切渡さないように、手続きしたとか。
とは言っても母もまだ若く五十前でしたから、ライラが成人するくらいまでは、元気でいるつもりだったと思いますわ……旅行先で起きた崖崩れに、馬車が捲き込まれ十年前に亡くなりましたけれど。
ライラも同乗していたと聞いていましたし、兄の執事からは、葬儀をあげたとだけ報告されたので、てっきりあのこも亡くなったのだと思ってましたわ。
ですから生きていたと知った時は、びっくりしました。
え?引き取ろうと思わなかったかですって?
一切思いませんでした。
だってわたくしは、もうサクセンとは縁を切っております。
それにわたくしの足をこうした兄の子どもなぞ顔も見たくありません。
─マイラ・アーノートに杖を突かなければ歩けないほどの傷を負わせたのは、当時七歳だったヘンドリッヒ・サクセンである。
「ニコライ室長。サクセン家の件、加害者側のレポートと使用人と叔母の聴き取り報告あがりました」
部下のリチャードがバサバサと紙束を振る。
「サクセン伯爵家って長女は虐待して、次女は躾も教育もしてないバカ親でしたっけ?」
別作業をしていたハンスが半笑いで、紙束を覗きこみ顔を顰めた。
「きったねぇ字だな。これ十三歳が書いたって嘘だろ?」
「マジだよ、でも字は汚いけど両親よりは、自分と姉についてこっちに伝えようとしてる。……まあほぼ自分は両親に可愛がられてて、姉より上だってマウントだけど」
どうしようもないと笑いながら、ハンスはコーヒーを頼むためにベルを鳴らした。
渡されたレポートに挟んである職員のメモに目を通す私の横で、リチャードとハンスが雑談を始めた。
「つうか、この次女。マリア?アンナ?」
「アンナ・マリア・ローズな」
「どれが本名だよ」
「全部。だけどアンナ・マリア・ローズと呼ばれることは滅多になくて両親が好きなように愛称つけて呼んでたって」
「ペットの愛称が増えてく〜みてえだな」
「言えてる」
笑い合う二人に心の中で頷く。
サクセン伯爵夫妻は、長女に比べれば次女を可愛がっていたと言われているが、次女は貴族子女としてのマナーも、家庭内で習うべき初歩の読み書き計算も、人間としての最低限のルールさえ理解してない。
だから次女は、気に入らないことがあると泣き喚き、暴力を振るい自分の主張を周囲に認めさせようとする。
ガヴァネスのミス・クロウラーの証言に、再度目を通す。
─夫妻は彼女を一人の人間としてみていない。
連れ歩くのに適した服を着てお喋りするペット。
実質そうだっただろう。
可愛がる以前の問題だ。
「リチャード、サクセン伯爵のほうは?」
「父親はレポート用紙二枚程度です。妻子についての文句が三分の二、あとは初恋の相手らしき女性について、なんかこう気持ち悪く語ってます」
「……母親は?」
「こっちはレポート用紙三枚ほど。長女についてはまあまあ書いてあるんだけど、次女については殆どなし。自分の好きな小説については行数使ってますね」
サクセン一家は親子揃って、自分の罪に一切向き合ってない。
何故自分が労役をしなければいけないの、何故自分が矯正施設に入所しなければならなかったのか、本気でわかっていない。
「リチャード、両親は労役年数を十年に増やすよう法務局に連絡を」
「ですね、一切反省してないようですし」
「出所したあと、またライラ・サクセンに、危害を加えさせるわけにはいかんからな。ハンス」
「はい」
「君は、カーライル女子矯正施設に空きはあるか調べてくれ」
「カーライルっすか……三段跳びくらいキツいとこ行かせるんですね」
「他害が酷すぎる。
一度は自分より年上で力が強く優しくない者に囲まれて、姉にして来たことを身を持って知るべきだ」
使用人と叔母にも思うところはあるが、被害者であるライラ・サクセンは、積極的に自分を害した家族は兎も角、後者には大した罰は望んでいなかったのもあり、罰金刑で済むことになるだろう。
「なんでこうことする連中って、自分達がしていることを正しいと思い込めるんですかね」
ゲンナリとした顔でリチャードが、コーヒーを啜りながら言う。
「自分達がしていることを正しいと思っているから、こう言うことが出来るんだ」
私が返すとハンスは、救いようがねぇバカじゃんと吐き捨てた。
全くもって私もそう思う。
時系列
ライラは十六年前に誕生。
産まれて一ヶ月たたないうちに、庭師の家で育てられる(ライラを育てる為の資金や、ライラ用の衣服寝具などは一切渡されず、庭師一家は自分達が出来る範囲でライラを養育してました。低栄養状態+皮膚疾患にわざとしていたわけではないです)。
生後三ヶ月経った頃、前サクセン伯爵が屋敷に訪れ、この馬鹿共の家に孫を置いておけない!と、領地にある別邸に連れて行く。
ライラが二歳あたりで、同世代に子どもが増えて来たし次子を作ることを夫婦で決めます。
ライラが三歳になった夏、崖崩れに捲き込まれ前伯爵が亡くなり、ライラはサクセン家に戻される。
サクセン家に戻されたばかりの頃は、まだ前伯爵に仕えていた使用人もいたのでライラは、それなりに母屋で世話されていましたが、次女が超安産&手が掛からない赤子だったので、母親が世話のかかったライラに強く当たり始め、父親は面倒くさいので放置。
両親にライラの扱いについて意見する者は、紹介状なしで全員やめさせられ、今現在の使用人達が勤め始め、ライラは裏庭の小屋で、寝起きさせられるようになりました。
母方の親戚は、本家の娘が次女に指を噛まれてから絶縁状態です。




