〜第八話 宮殿魔術師の傲慢と誤算〜
たかもろんの至近距離で、見習いの少女が放った【じゃじゃ馬の火焔】が狂暴な牙を剥く。紅蓮の炎が渦を巻き、全てを焼き尽くさんと爆発した。
だが――。『甘い。甘すぎるぜ。そんな不完全な魔力、俺の『虚無』の前に曝け出したのが運の尽きだ』
たかもろんのダガーが紫の軌跡を描き、爆炎の真っ芯を切り裂く。
次の瞬間、吹き荒れていた大火災が、まるで幻音だったかのように一瞬で「消滅」した。熱量も、爆風も、光すらも残らない。ただの不自然な静寂が森を支配する。
魔法使い見習い「嘘……私の魔法が、根こそぎ消された……!?」
神官「魔法そのものを消滅させたというのですか!? なんという不条理な力……!」
見習いが絶望に顔を引つらせ、神官がその異様さに戦慄する。たかもろんは冷酷な笑みを浮かべ、
完全に反撃の態勢へと移行した。紫の閃光を爆発させ、一歩で宮殿魔術師の間合いへと踏み込む。
宮殿魔術師「チッ……化け物め! だが、国の威信にかけてここで引くわけにはいかない!」
宮殿魔術師は自らのプライドを懸け、懐から神聖な刻印が刻まれたオーブを取り出した。
それは神殿の「神力」を直接引き出すための国家特級の魔道具だった。
宮殿魔術師「神の恩寵よ、不敬なる絶無を拒絶せよ!――【王権神授の絶対障壁】(レガリア・マキシマ)!!」
神殿からラインを伝って流れ込む膨大な神力が、宮殿魔術師の魔力と融合する。
先ほどとは比較にならない、黄金の神々しい光を放つ圧倒的な結界が展開され、
たかもろんの接近を力任せに弾き返した。
宮殿魔術師「終わりです、アクシスの首領。神の御前で塵に還りなさい……!」
宮殿魔術師の背後に、天界の門を模した巨大な光の魔法陣が浮かび上がる。
国家全土を揺るがすレベルの最強の戦術破壊魔術が、今まさに放たれようとしていた。
(クソッ、神力まで引き込みやがったか……! あんなの喰らったら、跡形もなく消し飛ばされる……!)肌を焼くような神聖な魔力のプレッシャーに、たかもろんは己の「死」を本能で確信した。
まともに受ければ確実に終わる。ならば、生き残る道はただ一つ。
『へっ……死に土産にしては上等すぎる大技だな。だが、神の力がなんだってんだ。俺の命と、どっちが重いか試してみようじゃねえか……!!』
たかもろんは自らの命を完全に削る覚悟を決め、深淵のさらに奥底へと意識を沈めた。――闇の神の力を、自らの肉体という器に直接宿す。
『開門。……深淵の主よ、全てを拒絶する『無』の帳をここに!!』
たかもろんの身体から、紫を通り越して「光を一切反射しない漆黒の泥」のような闇が噴き出した。その闇の波動が津波となって押し寄せ、空間を、概念を、そして――天からこの場に供給されていた「神力」のラインそのものを、力任せにブチブチと切断していく。
神官「なっ……神殿からの神力が、完全にシャットアウトされた!? 嘘でしょう、神との繋がりが消えるなんて……!」
宮殿魔術師「な、に……!? バカな、魔法陣が、維持できな……がはっっ!!?」
最強の魔法を放つ直前、エネルギー源である神力を完全に絶たれた宮殿魔術師に、
凄まじい反動が襲いかかった。構築しかけた大魔術を維持するため、彼の肉体は強制的に「自らの体内マナ」を限界を超えて激しく消費し始める。
宮殿魔術師「ぐ、ああああああッ!! 馬鹿な……私の、私のマナが……干上がっていく……!!」
宮殿魔術師の顔から一気に血の気が引き、その場にガクリと膝をついた。一瞬にして魔力を吸い尽くされ、立っていることすらままならないダウン寸前の状態に陥る。
神官「宮殿魔術師様!? ……くっ、形勢が逆転したというのですか……!」
魔法使い見習い「そんな……あんな凄腕の人が、一瞬で……」
たかもろんもまた、闇の神の力を宿した反動で激しく息を切らせていたが、
その眼光の鋭さは失われていなかった。ダガーを構え直し、静かに宮殿魔術師たちへと歩みを進める。
神官「……ここまでですね。これ以上の戦闘は全滅を意味します。引きますよ!」
魔法使い見習い「で、でも……!」
神官「命あっての物種です! 宮殿魔術師様を担ぎなさい!」
神官は悔しげに歯を食いしばりながら、煙幕の神聖魔術を展開した。激しい光と霧が周囲を包み込む。
『チッ……逃げ足だけは一流だな』
霧が晴れたときには、既に宮殿魔術師たちの気配はカーム山の森の奥へと消えていた。
静寂を取り戻した森の中で、たかもろんは開眼を解除し、深く息を吐き出した。
ひとまずは、この危機を乗り越えたのだ。
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