〜第七話 虚無の刃〜
虚無の力を解放したたかもろんはほぼ覚醒状態となった。
宮殿魔術師が張った『王権神授の障壁』の輝きを、
たかもろんの全身から噴き出す禍々しい紫の閃光が押し返す。
空間そのものが軋み、カーム山の木々が恐怖に震えるようにざわめいた。
「開眼……! まさか、ただの首領格ではなく、試練を越えた本物の深淵を知る者か!」
宮殿魔術師の余裕に満ちていた顔が、初めて驚愕に歪む。
『へっ、驚くのはまだ早いぜ。国の秩序が消えたんだ、俺の限界もとっくに消えてるのさ!』
たかもろんが虚無の力を宿したダガーを真横に一閃する。
それだけで、神官が放った激流の斬撃『水華・波紋一閃』が、
まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で掻き消された。
神官「私の神剣の刃が……消された!? 物理的な相殺ではない、あれは存在そのものを無に還す力……!」神官が驚愕のあまり後退りした瞬間、たかもろんの身体が紫の雷光となって爆散した。
「速いっ! 来るぞ、構えろ!」宮殿魔術師の鋭い怒声が響く。
魔法使い見習い「う、動けない……! なにこれ、空気が重くて……!」
見習いの少女は、たかもろんが放つ圧倒的なプレッシャー(虚無の重圧)に気圧され、次の呪文を紡ぐ唇を震わせることしかできない。次の瞬間、宮殿魔術師の結界のすぐ目の前に、紫の残光を纏ったたかもろんが不気味に浮かび上がった。その手にあるダガーは、不吉な紫の光の粒子を撒き散らしている。
『まずはその鬱陶しい鳥籠(結界)からブチ壊してやるよ。――喰らいな!』
たかもろんのダガーが結界の表面へと突き立てられる。
絶対防御を誇るはずの『王権神授の障壁』に、バリバリと紫の亀裂が走り始めた。
宮殿魔術師「くっ……見習い! 怯むな、奴の足止めをしろ! 最大出力で放て!」
魔法使い見習い「は、はいっ……! アルトさんのためにも、ここで負けるわけにはいかない……! 暴走したって知らないんだから!!」見習いは必死に恐怖を振り払い、両手の手のひらをたかもろんへと向けた。彼女の魔力回路が限界を超えて駆動し、周囲の精霊が悲鳴を上げる。
魔法使い見習い「【じゃじゃ馬の火焔】(ワイルド・ファイア)ァァァ!!」それは見習い自身の制御能力を完全に逸脱した、爆発的な紅蓮の火球だった。狙いなど定まっていない。だが、至近距離にいるたかもろんと、宮殿魔術師の結界をも巻き込むほどの圧倒的な質量が、森を真っ赤に染め上げながら膨れ上がる――!




