7[LOG] AM11:10 /
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5話までは毎日更新
6話からは月水金の週3更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
この町にしては立派なドアの前に立っていた。ノックする拳が少し震えてるのを気が付かないふりをして、俺はドアを叩く。
もしかしたら町長たちも【天】の軍人たちと繋がってるんじゃないか?──そんな疑心暗鬼が自らの心を埋めていく。
しばらくすると扉が開き、突然の来客に驚くような表情を浮かべた町長の姿が見える。彼は俺に言葉をかけた。
「ん?可可じゃないか、今日は修理の頼みはしとらんぞ?」
「あ、いや……個人的にお伺いしたいことがありまして……」
「ほぉ……そりゃあ、どういう──うわっ!!なんだソイツは!!」
町長の叫びが、その場を切り裂く。俺は何のことだかさっぱり分からず、頭に疑問符を浮かべる。
すると思いがけない言葉が飛び込んできた。それは今までの信頼やら何やらが一瞬で崩れ去るものだった。
「な、なんということだ……これが西の国で言われる悪鬼憑きというやつか!!こうしちゃおられん!皆の衆さっさと来んか!!」
「はぁ!?どういう意味ですか町長!!」
「悪鬼憑きめ、この期に及んで可可を装うつもりか!!奴の尊厳をこれ以上汚すわけにはいかん!!今ここで成敗してくれよう!!」
俺が動揺している間にも、ゾロゾロと室内から出てきた町長率いる衆に取り囲まれてしまった。貧乏人の癖に屈強な彼らの手には、防具やら武器などが握られており此方を始末しようと躍起だ。
──まずい、相談に来たはずなのに事態が悪化してる……!
すると、グレモリーが形だけ申し訳なさを取り繕いながら謝ってきた。いつも軽薄な奴が謝るのは、ロクじゃない可能性が高いっていうのがお約束だ。
だけど彼女が口にした言葉は、くだらないお約束なんか守らなくていいと叫びそうになるくらい嫌な後出しの事実だった。
「ごめんね、なんか力ある者には私の姿って元の姿に見えちゃうみたい」
「元の姿ってなんだよ!!」
「怖くてゴアな姿のコト♪変装ばっちりしてきたはずなんだけどね~……
ま、私”この世界”じゃ戦えないから頑張って!」
そう言い残すとグレモリーはチュンを勢いよく鷲掴みに捕まえると、巻き込まれるのは御免だと言うように少し高いところにあるビルの屋根に飛び上がり見物を決め込んでしまった。
チュンは一方的に捕まえられてピーチクパーチク鳴いている。そんな中、俺はというと町長と若い衆に囲まれて身動きが取れない。
町長は何かしらの相図を彼らに送ると一斉に向かってきた。傷つけるのは不本意だが、このまま殺されるわけにはいかない。俺は反撃のために一発蹴りを入れようと動く。
しかし攻撃する方向とは反対方向に勢いよく飛ばされてしまった。その勢いで壁にぶち当たる。背中に強烈な痛みが走り吐きそうになる。
──ものすごく痛ぇ……。
状況が飲み込めず混乱する俺に、頭上からグレモリーが話しかけてくる。まさに観客気取りとはこのことだ。ちきしょう、俺に対処を丸投げしやがって!!
俺は睨みつけるように彼女を視界に収めると、両掌をくっつけて謝るポーズをしながら言葉を紡ぐ。見た目だけはお茶目だが、生憎そんなポージングだけじゃ許せない更に追加の後出し情報をポロっと吐き出す。
「ごめーん!言うの忘れてたけど渡した護符って対象を守るために、傷つける行動を避けさせるんだよね~!つ・ま・り!君が暴力振るおうとしたら跳ね返って反対のところに吹っ飛んじゃうってこと!」
「はぁああああ!!??先に言えよ!!そういうことは!!」
まさしく今言うことじゃないガヤに反応しているうちに、不本意ながら距離を引き離したはずの彼らが目前に迫ってきてしまった。
町長が率いる若い衆の危険排除能力は非常に高いと、ついつい感心してしまう。いや分析している場合じゃない!これは本当にまずい!!だが護符のせいで攻撃も下手にできない。俺があらぬ方向に吹っ飛んでしまう。
彼らは迷いなく始末しようとしてくる。前や後ろ、そして死角から突き刺そうと躍起だ。俺はそれに対して反撃できず、ひたすら躱し続ける。
しかし、体力は無限じゃない。躱すたびに体力が削られていく。最初は耐えられると思っていたが、ものの数分で俺の息遣いは荒くなっていく。今や、はち切れそうな肺を押さえながら無理してる状況だ。
──正直今の自分では正直捌ききれない。このままじゃ、悪鬼憑きとして処分されてしまう。
そんなのは嫌だ。まだ軍人たちの行方も、李沈と景春の行方だって分かってない!でも、一人じゃダメだ。どうにもならない。
だから他人を頼ることにした。俺は攻撃をひたすら避けながらデカい声をあげる、悠長に観客決め込んでいるグレモリーへ届くように。できる限り分かるように。
「グレモリー!!お前、俺を利用する気なんだよなぁ!!」
「うん、そうだね」
「っっ……じゃあ俺もお前を利用してやるよ!俺の命なり何なり使って、さっさと逃げさせろ!!」
それを聞いたグレモリーは一瞬驚く表情をする。だがすぐに不気味な笑みを深めた。その表情は、いかにも悪鬼と呼ばれるに相応しいものだった。
彼女は軽々しい動きで俺の前に降り立つ。飛び降りた動きにあわせて、黒いスカートがふわりと舞い上がる様子は美しささえ感じた。それはまるで、絵画のように絵になる瞬間だった。
──そして、ゆっくりとした動作のまま眼前に迫る若い衆へ向けて指を鳴らす。
俺はその一瞬、時が止まったかのように錯覚した。それに呆気に取られているのも束の間、俺の胸に何かが刺さるような痛みが走り立ち竦む。巨大な得体のしれない何かが、俺の心臓を握りしめたような感覚だった。
だが同時に若い衆も力を無くし、その場に崩れ落ちる。どうやら彼らは強烈な眠気で立ち上がれない様子だった。勢いよく倒れこむ者もいれば、必死に耐えるが眠気に抗えず蹲る者まで千差万別な有様だった。
それはまさしく集団催眠の如き異常な光景で、俺は恐れすら抱いた。自分の胸の痛みが軽いものだと錯覚するくらいに。
目を丸くしたまま動けずにいた俺の存在に気付いたのか、グレモリーが急に声をかける。
「ほら、やったよ。早く逃げよ」
「ま、待てよ!逃げるったって、もうどこにも……」
「私は良い飼い主だから、これ以上君を弱らせたくないんだよね。お詫びを兼ねて素敵な休憩所に招待するから、四の五の言わずに行こうね♪」
彼女は綺麗なウィンクを決めながら、さっさと歩み始めてしまった。チュンはようやく彼女の掌から抜け出せたのか、俺へ一目散に寄って来て何やら言っている。
しかし、その言葉は今の俺には届かなかった。町長が言ってたことや、若い衆が一丸となって俺を殺しに来たこととか……衝撃的なことがありすぎて正直心が付いてこない。どうしても他人事のように思えてしまう。でもこれが現実だ。
俺みたいな貧乏なガキが大人と対等に渡り合うため、長い時間をかけて少しずつ関係性を築いてきた。しかしそれは瞬く間に崩れ去った。
二人を取り戻すために再起を誓ったはずなのに、少しずつ自分を構成してたものがボロボロ剥がれ落ちて息苦しさを感じる。でも耐えなくてはいけない……耐えなきゃ何も取り戻せない。
俺は痛む胸を押さえながらフラフラとした足取りで、何処かに向かうグレモリーの後を追った。生き返ったとして、やはりこの世界は思った通りにいかないことばかりだ。




