5[LOG] AM00:20 /
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5話までは毎日更新
6話からは月曜と金曜の週二更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
ガサガサ。ガシャン、ガラガラ。
バサッ!バサッ!
ガタガタ、ドン!バタッ!
室内では、先ほど一戦を交えた【天】の軍人たちが部屋を隅々まで探りを入れている。家電製品やアルバム、挙句の果てにはゴミ箱まで……全て【監視行】という段ボールに詰め込まれていた。
わずかな時間だったというのに、部屋の中は空っぽに近しい有様に早変わりしていた。その様子が、今までの思い出なんて吹けば消えるものだと暗に示されてるように感じて辛かった。
情けないことに俺は、その様子が見てられなかった。だから目の前で起きている現実から目を背け、壁に背中を付けてズルズルと地面に座り込む。
グレモリーはそんな俺を見て、ほんの少し声を落とし話しかけてくる。その声音は俺の心情に寄り添ったものなのか、軍人にバレない為のものなのかは分からない。
「あーらら……随分と大ごとだね……。んで、どうする?お話できるところ無くなっちゃったケド」
グレモリーに話しかけられハッとした。──そうだ、後へ戻れない現実に打ちひしがれてる場合じゃない。
俺は少し考えたのち、彼女を先ほど通り過ぎた小さい橋の下に案内した。橋の死角になって見にくい場所に、水に濡れて腐食が進んでいる木の扉がある。
ここはいわば俺の秘密基地だ。以前、家の中でデカい音を立てながら機械いじりをしてたら大家と李沈にこっぴどく怒られたことがある。それを避けるため秘密裏に作ったものだ。
秘密基地の存在は多分俺しか知らない……はずだ。だから少なくとも【天】の軍人たちから見つかる可能性は、限りなく低いだろう。
彼女は早速中に入れば、苔臭いだの湿ってるとかケチをつけてきた。まぁ、分からんではないけど我慢してくれと俺は諫める。
だがグレモリーは小言を言いつつ部屋の半分を占めているベッドに早速向かうと、何処からか出してきた彼女愛用?のクッションを持ち出しくつろいでいる。
初めて訪れた場所で、緊張せずにリラックスできるのは色んな意味で凄い才能な気がする。俺が同じ立場だったら、恐らく借りてきた猫みたいになっていただろう。少しだけ、そんな大胆な性格を羨んだ。
──しかし、これでようやく話せそうだ。
俺は慎重に言葉を選びつつ、彼女にこれからを話し始める。
残念ながら俺じゃあ、天帝の元まで行くルートが分からないということ。ここはしっかり偽りなく話した。嘘をついても後々困るのは俺自身だからな。それに、嘘ついたら何されるか分からない。
だけど、【天】へ行くルートが存在しないかもしれないことは言わなかった。そんなことを知れば、恐らく彼女はここの人間に頼っても意味がないと判断する可能性がある。下手すれば、そのまま用無しということで俺の命が回収されそうだ。
恐らく彼女は、俺たち人間と一線を画す上位種の存在なのだろう。その気になれば町自体を壊せるのかもしれない。そうなったら、俺だけじゃなく多くの人間が困ることになる。
今のこのやり取りは、いわば今後の命運がかかった駆け引きのようなものだ。失敗するわけにはいかない。
しかし、そんな情報だけじゃ前に進めないのは分かってる。だから俺自身が知らない代わりに、【天】の行き方を知ってる可能性がある人物……この町の代表者である町長の存在をグレモリーへ勧めた。
町長ならば何か知ってるかもしれない。ひとまず彼を訪ねてみようと話を切り出す。彼女はそれに納得したのか、空返事をする。そして欠伸をしながら眠そうに言うのだ。
「じゃ、それでいーよ。もう眠いから細かいことは朝にしよ。睡眠不足は美容の敵だし」
「えっ?今すぐ行かないのか?」
「もう私、クタクタなのっ!」
「そ、そうか……」
駄々をこねるように話を切り上げるグレモリー。これ以上は動く気が無いようで、大きなクッションを寝床にして浮きながら眠りに付こうとする。随分と器用なことをするなぁと変に感心してしまう。
っていうか万能そうな彼女でも、眠りが必要なんだなと思ってしまった。うっかり、一晩中バリバリ動けるものだと誤解していた。俺の変な期待を押し付けてしまい、少し申し訳なく感じる。
俺は今すぐに行くもんだと思って拍子抜けしてしまった。極限まで張りつめていた緊張の糸が、途端に緩くなるのを感じる。
いつまで待っても、グレモリーはベッドあたりから動こうとしない。落ち着かない俺は、ふと一人で町長の元に向かおうかなとも考えた。でも彼女を、ここに置いていくのは流石に気が引ける。
都合よく利用するためだったとしても、一旦交わした約束を無碍にするのは嫌だった。それが例え人外のような怪しい女だとしてもだ。どんな奴が相手でも、筋は通したい。
どうしようかと手持ち無沙汰になってるところへ、上から紙切れがひらひらと数枚落ちてきた。なんだろう?と思い、その紙切れを思わず手に取った。
それはまるで死体を操るときに張り付ける札のように見えた。赤黒い用紙に、目に痛い水色で怪しげな文字?が書かれている。少なくとも俺たちが使っている文字ではないので、何と書いているのかは分からなかった。
しかもよく見れば淡く光っている。どういう原理なのだろうか?中に薄い発光板でも仕込んでいるんだろうか?あ、それともインク自体が特殊なのか。こんな状況だというのに今まで触れたことのない、未知の技術に胸を躍らしてしまう俺がいた。
すると先ほどまで寝こけていた彼女が、眠そうな声でペラペラ語り出す。いつもの軽率さが薄れ、底知れない恐ろしさを感じる声音だった。
「それあげる、”護符”っていうの。君が致命傷を負ったところに貼っておいて。君、生き返ったけど身体は頑丈になったわけじゃないからね
あ!あと色違うやつは”自爆札”ね。何に使うかは君の勝手だけど、無闇に貼るのは止めたほうが良いかもね~?爆発しちゃうよん」
「ば、爆発?!あ、あぁ…………わかったよ」
「そ・れ・と・も、私と一緒に寝たいのかにゃ~?」
「んなわけないだろ!!」
「あははは!!怒鳴る元気あれば明日も平気だね~んじゃ、おやすみ~」
護符と自爆札を押し付けて満足したのか、グレモリーは今度こそ眠りについてしまった。先ほどまで響いていた軽率な声は鳴りを潜め、部屋には川のせせらぎと寝息だけが聞こえる。
俺は彼女とは逆に、眠りにつくことができなかった。胸騒ぎがして、ひたすら心が逸る。そんな気持ちを抑えるために手を動かすことにした。機械を弄っていれば少しはマシになるだろう。
──それに自分の無力さを少しでも補うために何か対策しておきたい。
彼女の言いつけ通りに護符を腹に貼り付ける。随分素直に言いつけを守るなぁと自分でも思う。でも従わないと色々後が怖い。それに先ほどの"身体は頑丈になったわけじゃない"という言葉が、どうしても脳内に残り続ける。
下手なことをすれば、一瞬で死体に逆戻りしてしまうのかもしれない……。一瞬脳裏に、力なく倒れる自分を想像してしまい底知れない不安を感じた。
グレモリーは俺に対して寛容に見える“気がする”。だが、完全に信頼は出来そうにない。警戒し続ける小動物のように、身体を縮こませながら夜通し手を動かしたのだった。
見えない明日を見ないように。




