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40[LOG] PM/DATA CORRUPTED

月水金の週三更新


大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます

 色んなものが削られながら落下する感覚が消え、どこかに降り立った俺は恐る恐る目を開ける。

 そこは真っ白い空間が、ひたすら広がるところだった。足元には無機質なコードが床一面に敷き詰められており、一層不気味に感じる。下層区画の真っ暗な路地裏とは、また違う恐怖だ。

 思いがけない景色が広がっていて俺は驚く。ここは多分、根源プログラムの中……だと思うのだが、まさか意識を保ったまま来ることが出来るとは思わなかった。あの空間に落ちた時、自身の身体が分解されるのを感じたから何もできず根源プログラム内へ溶け込んでしまうんじゃないかと思った。

 

 俺はコードを踏まないよう避けながら、慎重に歩みを進めていく。この先に何があるか分からない。もしかしたら、何もないかもしれないと弱気になる。だが折れかける自分の心を叱咤しながら、天帝と根源プログラムに致命傷を与えられる"何か"を必死で探す。

 その間、誰ともすれ違わなかった。ガラス越しに根源プログラムを見た時、人々の身体から強制的に情報……つまりは脳みそだけを摘出しているようだった。だから俺は思わず【天】の住民たちが情報体として、この場にごった返してると思ったんだが……。

 彼らは何処に行ったんだろう?【天】の住民専用の別室とやらにでも移されているんだろうか?

 

 

 カツン、カツン、カツン


 

 俺はどれくらい歩いたのだろう?永遠と思うほど永い時が流れたような錯覚を覚える。ありがたいことに疲労は感じないが、自身の意識が徐々に削られていく感覚がして長居できなさそうだ。どうやら色んな記憶や思い出、それから知識などがサラサラと流れ出してるのかもしれない。

 さっきまで覚えていた、自分の家が思い出せない。大切な記憶が、名前のない文字の羅列に変換され、足元のコードへと吸い込まれていく。

 俺という人間が、ただの『情報』へと成り下がっていく恐怖に、歯の根が合わなくなった。まるで新鮮なエサが入ってきたと言わんばかりに、流れ出す俺の情報を根源プログラムが意気揚々と喰らいつくしてる感覚がする。

 虫けら、ゴミ、その次はエサ扱いか。どうやら、ここの連中はつくづく人間扱いができないようだ。高品質な立場や環境の前に思想教育でもしてほしいもんだ。自身の冷たい感情が、容赦なく【天】を見下す。同時にそんな自分の無様な思想が嫌になる。

 その時、突如目の前に大きな柱が見えてきた。その聳え立つ柱を瞳に収めた俺は、咄嗟に疑問を感じる。


 ——なんで根源プログラムの中に根源プログラムがあるんだ?


 俺はその柱に駆け寄る形で近寄った。一旦観察のためにジッと見つめる。しばらく経っても何も起こらないのを確認し、恐る恐る柱をそっと触る……が何もない。ただただ、血管のような青い閃光が所々走っているだけだ。

 その様子に頭を悩ましながら、周辺をぐるっと回る。一か所、誰かが弄ったような小さなデバイスの姿を確認したが残念ながら焼き切れていた。多分、無理に何かを繋いだんだろう。負荷をかけすぎた様子が見受けられる。

 この景色は幻覚なのか……?と疑い始めたその時、誰かが声をかけてきた。その声は聞きなじみのある、懐かしい声音だった。




「やっぱ来ちゃったんだ」




 それはノイズで見にくいが確かに久しぶりに見る李沈(リーシェン)の姿だった。しかし、一言ごとに音程が微妙にズレ、背景の白い空間と境界線が溶け合っているように感じる。まるで、この場所そのものが彼女の形を借りて俺に語りかけているような……そんな薄気味悪さが背筋を撫でた。

 俺は一目見た瞬間、驚いてしまった。咄嗟に何かを言おうとしたが、言いたいことが沢山あって大声で叫びそうになる。だから、必死に歯を食いしばって声を出さないようにする。

 

 そして、ここに妹がいるって言うことは……天帝の言っていたことが真実だったということが明確になってしまった。思わず李沈(リーシェン)がどうやって根源プログラム(ここ)に来たかを想像してしまい、涙が滲みそうになる。駄目だ、今は感傷に浸ってる場合じゃない!!

 俺は何も出来ず悔しい気持ちと、会えて嬉しい気持ちがごちゃごちゃになってしまい、思わず力強く手を握りしめてしまう。

 

 李沈(リーシェン)は俺の反応を見て察したのか、沈黙は時間の無駄だと言わんばかりに強い言葉を投げつける。相変わらず強気で早口で畳みかけるような物言いが、機能を停止したあの小さな機械のように感じる。




 「アンタさぁ、やんなきゃいけないことがあるからここに来たんでしょ?ほら早くしなって!

 …………アンタ自身にも時間がないんでしょ」




 そうだ、根源プログラム内で身体や意識をいつまで保ってられるかも不透明だ。お得意の沈黙で時間を使ってる暇はない。

 俺は必死で言葉を紡ぐ。今までのこと、そして……これからやろうとすること。李沈(リーシェン)はそれを黙って聞いていた。生まれてから十数年、一緒にいたはずなのに何を考えてるのか分かりづらくて少し困惑する。

 おかしい……妹を視界に収めるたび、虹色のノイズが結構な頻度で邪魔をしてくる。くそっ!何だっていうんだ!!まるで、李沈(リーシェン)と話すことを根源プログラム自体が拒絶しているように感じる。

 

 本当は根源プログラム(こんなところ)で再会なんてしたくなかったんだ。できれば、青い空が広がる場所で沢山話したかった。それで景春(ケイシュン)と合流出来たら、どれだけ嬉しかったことか。あと今まで何だかんだついてきたグレモリーがいてもいいかもな。

 けれど、現実はそうじゃなかった。眼前に広がる真っ白な風景とノイズ交じりの妹が、残酷な今を証明してくる。


 それがとても悲しくて寂しかった。

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