39[LOG] PM14:40/
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
俺は自分の震えを心の中で咎めながら、根源プログラムへ歩みを進める。
すると、その様子を見て何かを察したグレモリーが珍しく真面目そうな口調で声をかける。天帝との会話へ一切入らなかったくせに、随分と察しがいい。そんな機敏な対応を毎回してほしいが……まぁ今更言っても無駄か。
「ふーん、その先に行くんだ?まぁ、何やろうと勝手だけど……くれぐれも忘れないでね?私とのケ・イ・ヤ・ク」
彼女は、俺の身より契約の方が大事らしい。確かに最初紡いだ契約でここまでついてきたのだから、当たり前っちゃ当たり前か。ひとまずグレモリーの契約も忘れないようにしよう。この先、自分を保てなくなりそうだからな。
果たして根源プログラムの中に"神の遺骸"というファンタジーじみたものがあるとは、到底思えないが。その前に俺たちの存在も似たようなもんかと、心の中で自嘲する。映像が心を宿すなんて半分ファンタジーでしかないもんな。
グレモリーの押し付けにも等しい頼みを聞いた俺は、呆れにも似た感情を抱いた。だが、終始こんな調子だから妙に安心感がある。ここだけ、出会った頃の「いつもどおり」を感じて少し感慨深い。いつまでも形のないものに縋ってて自分ながら馬鹿みたいだ。
また同時に、こんなところまで来てしまったなという物寂しさも感じる。だがまだだ、まだやることが残ってる。俺は天帝を騙し切らなきゃいけない。
李沈に一目会うことは…………できなかったけど、それと同じくらいやらなきゃいけないことが出来た。本当は、一言でも話したかったんだけどな。
そりゃあ悔しいし、今にも天帝をぶん殴りたい。だけど、こんな奴をまともに相手するより内部に忍び込んで1つでも大きな傷跡を残したほうがマシだって思ったんだ。こっちだって、ただ馬鹿にされるために来たわけじゃない。見下してたら痛い目を見るぞということを証明してやる。
重苦しい思惑を胸に、行かなければと決意を固めると根源プログラムの入り口に立った。本来ここは生身で飛び込むようなところじゃない、正規の道具を使用し頭脳だけを送り込む場所だ。人から頭脳を取り出す一連の作業はあまりに血生臭いが、逆に言えばそんな手間のかかることを行わないと安全性を保障できないんだと思う。
…………もしここに身体ごと沈めこんだら、どうなってしまうんだろう。そんな漠然とした不安が脳裏を過ぎる。
だが、不安がってる暇はない。俺は意を決して足を踏み出そうとする。が、最後の一歩が踏み出せなかった。
いや……誰かが俺の手を引いて、その場に引き留めているから身動きが取れない。振り返って見れば、景春が深刻そうな顔で思いっきり俺の手首を掴んで離さない。
珍しい……俺が何をやろうと、どうでもよさそうな顔をしてたくせに。あ、それは記憶を飛ばす前からだったか。とりあえず何か言ってやらなきゃと言葉を紡ごうとしたが、彼の言葉にかき消されてしまった。
「もういい」
そう言いながら、俺の手首に痛そうな指の跡を刻んでいく。少し痛くて顔が少し歪む。毎回とんでもない馬鹿力を発揮していたから、こちらの手が折れるくらいまで握り占めてくると思ったが……そうじゃないらしい。ちょっとだけ力を調整しているのだろうか?
彼の指先から、熱すぎるほどの体温が伝わってくる。記憶は消えても、この『熱』だけは俺を知っていると言わんばかりに。
彼の行動は少し、というか結構分からない部分が多いのだが……引き留めるくらい止めたいってことだろうか?俺の名前すら忘れてしまったはずなのに、止めてくれるくらいの存在になれたことは喜ばしい。
いや……もしくはこれ以上、勝手な行動をするなって意味かもしれないな。直前まで逸れてたわけだし。どこまでも気に食わない相手だったんだろうなと申し訳なく思う。
——だけど、ここでやめるわけにはいかない。
恐らく…………最期の会話になるだろう。でも最後に向き合うことができて良かった。お前の李沈を取り戻せなくてごめんな。……お前が必死に守りたかったのは、李沈だったはずなのに。それすらもできなくしてしまった。全部、俺が中途半端なせいだ。
多分そのことすら覚えてなさそうなのは、怪我の功名かもしれない。恐らくずっと忘れたままだろう。今となっては、一番幸せなのかもしれない。……勝手に人の幸せを決めるなと過去の本人に、ぶん殴られそうだが。
そんな予見した未来も今後一切実現しやしないというのに……未だに想像してしまう自分が馬鹿みたいだな。苦笑いしか出てこない。
色んな感情が混ざり合い、何と言ったらいいか迷いながら俺は言葉を振り絞る。最後だというのに短い言葉しか出てこなかったのは、あまりに情けないが……まぁそれで伝わるだろう。
「……悪い。
でも決めたんだ」
俺は、景春の手を振りほどく。よくわからないが、目に見えない糸が切れたような感覚を感じた。記憶を失った時点で、関りなんてなくなったと思ってたんだけどな?変な感じだ。
そして振り払った勢いで流れるように、根源プログラムの中へ落ちていく。ノイズ交じりで最後に見えたのは、いつも見ていた友人の顔だった……気がする。
身体が1つ1つ小さいデータに分解されていくのを感じ、色んな部分の感覚がどんどん抜け落ちていくように感じた。視界が激しく点滅し、思考が砂嵐のようなノイズに侵食される。……重力も、肉体の境界も、すべてが情報の奔流に溶けていく。
その時、背後でグレモリーの声が聞こえた。残念がるようなそんな声。
「あーあ、結局ホントのこと言わず仕舞いかぁ……つまんないの」
その言葉は俺に向けられたものなのか、景春に向けられたものなのか。今となっては分からなかった。本当のことってなんだろう……?そんなことを考えながら情報の海に溺れていった。




