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3[LOG] PM23:46 /

0話と1話は同時更新

5話までは毎日更新

6話からは月曜と金曜の週二更新


大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます

 他人……いや得体のしれない生物の血なんて飲みたくない。最初は必死で抵抗した。でも口に入ってしまえば、その抵抗は無に帰す。最初は一滴、そして徐々に量が増えていく。この現実が、とても気持ち悪くて何も思いたくなかった。

 明らかに人ではない異様な存在なくせに、血は何故かちゃんと鉄の味がして不思議に思えた。

 口に入れたはいいが飲み込むのに決心がつかず、口内で必死に転がす。しかし溢れそうになるので、勢いで飲み込んでしまう。

 

 その血が喉を通り過ぎ身体に入った瞬間、ノイズが一瞬走る。そして曇った視界が明瞭になった気がした。身体が治った……?いやこれは──人ではない別の生き物になった。そんな不思議な感覚に陥った。

 何となく、身体が物凄いスピードで再生しているように感じる。育ちの早い植物のような、これは簡単に言葉にできない体験だ。今まで焼き切れていた神経系が、新しい部品を得て1つ1つ組みあがっていくようだ。

 俺がこれまで修理してきた機械は、こういう感覚だったのだろうか?まさか、自分が修理される側になるとは思わなかった。だからと言って、もうこんな体験は二度と御免だが……。

 機械が好きでも、機械になりたいわけじゃない。機械のような臨死体験は二度とありませんようにと願うばかりだ。

 

 いつの間にか、俺の腹から流れ出ていた血も止まり傷が塞がってる。学がない俺には全くもって摩訶不思議な出来事だ。だが現実に起きたことだ、夢じゃない。頬を抓っても痛みが後に残るだけだった。

 そして夢じゃないということは、二人が攫われたことも夢ではないと確証できてしまった。急に現れた空虚な喪失に、胸が押しつぶされそうだ。

 女は感情に振り回されてるように見える俺の反応を面白がるように、じっとり粘りつくような瞳で満足するまで見つめる。そして満足したみたく、艶々したような表情で声をかける。


 


 「これで、晴れて私の(ペット)だね。いや~もう一匹増えて嬉しいなぁ!」

 

 「はぁ?!」

 

 「そうだにゃ~♪ちゃんと言ったじゃん、条件付きだよって!じゃないと命なんて分けないよん!ってことで頼みたいことがあるんだよね。

──お願いできるかな?私の可愛い(ペット)くん?」


 


 契約を持ち掛けられた時、蜘蛛の巣のような複雑で巨大な罠に嵌められた気がしたのは間違いじゃなかったみたいだ。だが今更思っても仕方がない……。選んだのは俺自身だ。選択の責任を持たなくてはいけない。

 しかし、罠へ嵌った代わりに動ける身体を手に入れたのは大きな収穫だ。今後の俺の人権がどうなるかは、ひとまず思考の隅へ追いやることにする。


 これはやりたいと思ってたことをやれるチャンスだ。咄嗟に、これからどうしようかと考えてしまう。

 ひとまず李沈(リーシェン)景春(ケイシュン)を連れ去った【天】の軍人を追いたい。そして二人を取り戻して、「いつも通り」に戻りたい。

 ……でも「いつも通り」に戻りたいのは俺だけで、果たして二人は生きるのも苦しい下層区画なんかに今更戻りたいだろうか?あんな乱暴な攫われ方をしても、【天】にとっては選ばれた人民だ。それなりの待遇はするだろう。

 二人が【天】の生活から離れたくないと言ったら……俺は……。いいや、今は後を追うことだけを考えよう!余計な感情はひとまず置いておくに限る。

 

 いきなり生き返った反動で、やりたいことが頭を占拠する。女は何故か黙って俺を見つめていたが、長く退屈な沈黙に耐えかねたのか手を指し伸ばす。

 

 

 

 「ほら、もう立てるでしょ?立ってみなよ」


 


 俺は何となく差し伸べられた手を取ってはいけないと思ってしまった。だからその手を無視をして立ち上がる。助けてくれたのに随分な態度だと思う。でも心を預けられるほど、この女を信じることができない。

 先ほどまで、壁に寄りかかってないと耐えられなかったはずなのに、今はすんなり立つことが出来て内心驚いた。というか、何となく身体が軽いように感じる。今なら天井を歩くことすらできてしまいそうだ。

 何となくの万能感に自然と興奮してしまう俺がいた。そんな場合じゃないというのに。

 

 そんな俺の反応を見て、女は満月のような黄色い瞳を輝かせながらニマニマしていた。その様子が気に食わなかった。何がそんなに楽しいのだろうか。玩具とか、研究対象のように見られてる感じがして寒気がする。

 俺はそんなマイナス感情を打ち払うように彼女に問う。一応は命の恩人だ、いくら気に食わなくとも礼儀は尽くさないといけない。心を悟られないように、必死に意地を張る。

 なぜ死にかけの俺を助けたのか、女の目的は何なのか……聞きたいことは山ほどある。目的を遂行するために、目の前の謎を明らかにしておきたい。怪しいものは白日に晒しておけば安心という、単純明快な防御反応だった。


 


 「それで?アンタの血を分けてまで俺を(ペット)にしたのは何でなんだ?」

 

 「うんうん、その件ね!今からゆ~っくりお話しましょ♪」

 

 「うげぇ……で、できれば手短にできないか?」

 

 「んもう!しょうがないなぁ!でも私は良い飼い主だから言うこと聞いてあげるよ」



 

 ひとまず今後の話をするため、俺は一旦帰路へ就くことにした。女にそのことを提案すれば、納得したようで早く家に招待してほしいにゃ~と言ってくる。なんか上位者目線っぽいのが、ちょっと気に食わないが……まぁいいや。

 

 ──俺と彼女は歩き出した。血がじっとり染みついた路地裏を後にして。女は少し後ろをついてきた。

 辺りは重苦しい夜の闇に包まれ、静寂が辺りを包む。彼女は浮いてるため、俺の履きつぶした靴音だけが響く。

 しばらく足音と、ネオン看板の蛍光灯が点滅するノイズ音しかなかった。そんな空間に女のあっけらかんとした口調が響き渡る。それは、嬉しさと好奇心を含んだ声音だった。

 

 

 

 「いや~それにしても、お揃いの金目になって嬉しいなぁ私は」


 「は、はぁ?」


 「これからもぉ~っとお揃いを増やそうにゃ~」


 


 彼女が言うまで気が付かなかった。俺の瞳は、目の前の女と同じ満月色で染まってるらしい。その事実が、今まで通りには戻れないことを暗示しているようで俺は怖かった。

 これからどうなるんだろう……と底知れない恐怖が胸を締め付ける。治ったはずの腹の傷が、再び開いたような感じがした。だから咄嗟に腹を探る。でもそこには何もなかった、今の俺みたいに。

 もしかしなくても、死にかけで手を伸ばした契約書は思った以上に闇深いものだったのかもしれない。

 


 ──だけど「いつも通り」の毎日に戻るには、それしか方法がなかったんだ。

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