35[LOG] PM13:17/
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
確かに鎖を狙って飛び上がったはずだった。
だが、その刃は別の斯文のコピー体たちが携える宝剣で防がれてしまった。俺は咄嗟に受け身を取り、思いっきり大理石の床に靴跡を残しながら地面に着地する。
大理石と刃が擦り合わさることで生まれる不愉快な金属音が、この無駄に大きな謁見の間に響き渡る。
そして、突然のことに混乱しながら彼女に向けて叫ぶ。
「何で邪魔をするんだ!!死にたいんじゃなかったのかよ!!」
「残念ながら我の意思ではない、この世界の生死は全て天帝が握っているのだ。天帝の意思に反して処刑をすれば身体が拒否反応を起こさざるを得ない。こればかりは、どうしようもない。……………………頼む」
邪魔された怒りよりも、この世界の残虐さに触れてしまって言葉が出ない。
生死すらも天帝が握っている……?その事実は、俺の脳裏に最悪の答えを突きつけた。——自分たちの『生』は、ただ実行されているだけの空虚な無機物に過ぎないのか。怒りと悲しみが混ざり合い、視界が滲む。
俺は今まで関わってきた人たちの死を咄嗟に思い出す。じゃあなんだよ……今まで死んでいった親父も、母ちゃんも、友人や知人たちも……こんな世界じゃなかったらもっと生きてたってことか……?
過去を悔やんだって、未来を思い描いたって結局は天帝の思うがまま……クソっ、バカバカしいにもほどがある。
そんな感情に飲まれながら、1つ疑問が生まれる。この世界の生死すら天帝が握ってるということは、それに逆らって生き返ってる俺や景春……それに元死人とか言ってた寺の狼雯は何なんだ?
——ま、まさか生死すらというならば……死から生き返る経緯すら天帝の掌の上だというのか。
思わずその恐ろしい推測を口から出そうになった時、勢いよく斯文のコピー体が俺に斬りかかってくる。タコ殴りにされそうなのを、間一髪で片足の靴の刃で無理矢理防ぐ。
だが俺からは護符のせいで攻撃を仕掛けられず、防ぐだけしかできない。その時、俺の後ろにもう二体のコピー体が殴りかかろうとしたのが微かに見えた。
——まずい!このままだと……っ!
俺は来るはずの痛みに備えようとした。しかし、それは杞憂だった。後ろを見れば景春が鉄製の棺桶でコピー体たちの攻撃を防ぎ、そのまま彼女たちをなぎ倒す。
その勢いで背中合わせになってしまったとき、俺を小馬鹿にするように小言で彼が言う。
「さっきの仰々しいのはどこいったんだよ、えぇ?」
「うるさいな、失敗することだってあんだろ……何事も」
「はっ!雑魚は口が立派だなぁ、おい」
「んだとテメェ!!斯文たちより先にお前を殴ってやろうか!!」
「いいぜ相手になってやるよ——だから、こんなバカげたことさっさと終わらせろ」
景春はそう言うと、思いっきり棺桶を斯文のコピー体もろとも地面に叩きつける。そして、棺桶を踏み台にしろと言わんばかりに首を微かに動かす。
最初は訳が分からなかった。だが少し間をおいて意図を読み取った俺は、荘厳な棺桶に容赦なく刃の傷をつけながら飛び上がるため助走をつける。そして、先程よりも高く飛ぶ。コピー体すらも届かない、天井近くまで。
だがこのまま落下しても邪魔されるだけだ。どうしたらいいかと思ったその時、いつの間にか俺の周りに護符が円形に囲んでいた。
咄嗟に下を見ればグレモリーが、手を振りながら笑顔でウインクをしている。多分これは彼女の護符だろう。いつも知らぬ存ぜぬだったグレモリーが珍しく助力をしていて、明日雨が降るんじゃないかと悪寒がする。だが、そんなことは気にしてられない。今は彼女の好意に甘えてやる。
その護符は円形の形を崩し、道しるべのように獣へ向けて真っ直ぐ並ぶ。俺はその護符を踏みつけながら、獣の頭上に向かう。普段ならあまりの高さに恐ろしさを感じるが、この時は何も考えられなかった。何も考えないことで罰を与えるということから逃げていただけかもしれない。
俺は漸く辿り着いたギロチンの刃を持ち上げる鎖を目掛けて——思い切り靴の刃を叩きつけるよう斬りつけた。
シャリィィィンッ!ガッガガ……ガッッダンッ!!
何かが断線する感覚と共に、金属と金属が激しく擦れ合う。そして鎖が悲鳴を上げながら千切れる音がしたと思えば、墜落による身を震わすほどの振動が謁見の間に響き渡る。衝撃に混じって、重たい何かが落ちるような……鈍い音が聞こえた。
獣の首が落ちるのと同時に、斯文のコピー体は次々と消えていく。そして最後に残ったオリジナルと思わしき彼女が、今にも消えそうになりながらノイズ混じりに言葉を発する。
「ザザッ……ザ……か、感謝する下民の民よ……ここここれで、ようやややく無様に死ねる……ザザザッッ」
そう言ったかと思えば姿がどんどん朧げになり、遂にはノイズのひとかけらになる。豪華な衣服や飾り……そして骨すら残さず、まるで元々いなかったかのように斯文は消えていった。
そしてそんな風景を目の当たりした俺は、自分の足元を呆然と見ながら思った。
——自分自身が黒く染まってしまったんだと。最初の「いつもどおり」には、もう戻れない。




