33[LOG] PM12:00 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
俺は首だけ壁から出した巨大な黒い獣を目の前にし言葉が出ない。いや、とんでもないものが突如出てきて驚きで言葉が思いつかないのだ。まずなぜこんなところで、こんな巨大な獣が飼われてるんだ……?意味が分からん。
獣は何をするわけでもなく、黙ってこちらをジッと見定めている。その目は酷く血走っており、特徴的な赤黒い瞳が鈍く光っていた。腹を空かせているのか、涎が止めどなく流れ続けている。まるでどういう風に食べてやるかと思案しているように、強い食欲を感じられる。
チュンが動かなくなって、いよいよお陀仏かもしれない。いや、一度死んではいるが今度こそ本当の死が待っているのかも……と心の中が恐怖で一杯になった。そんな本能的な恐れに逆らうように、自らの服を力強く握りしめる。
すると斯文が、感情の籠ってない言葉を述べる。それはまるで、最初から決まっていた筋書きを読み上げるような感じだった。
「貴殿だけでは力不足だ、貴殿が動けるよう助太刀を呼んでやった。ほれ来るぞ」
そんな言葉が聞こえてきたと思いきや、何かが勢いよく墜落するような落下音が聞こえる。何の音か確かめる暇もなく、何者かが俺を勢いよく押しのける。
誰かと思えば、逸れたはずの景春だった。恐らく先程の激突音は、肌身外さず持っている鉄製の棺桶を急遽足場にした音だろう。後ろのほうでは、グレモリーがフワフワと呑気にこちらへ近づいてくるのが見えた。
だが、彼は俺なんかには目もくれず隣にいた斯文を勢いよく床へ押し倒す。彼の手早い動きに、俺は反射的に手を伸ばしかけた。しかし景春の殺気に思わず指が止まる。
——彼は勢いそのままに懐に持っていたと思わしき鉈包丁を、斯文の首に突き刺した。
目の前でそんな惨劇が起き、俺はひとまず景春を止めようと二人の元に駆け寄る。だけど、そこでは信じられないことが起きていた。
刺されたはずの斯文は自身の首元へ軽く視線を落とすだけで平然としている。しかも直ぐに目線をこちらに向け、首へ鉈包丁が突き刺さったままだというのに真顔のまま「大げさな連中だ」と吐き捨てる。
その一連の動きが、明らかに彼女が"ただの人ではない"ということを知らしめていた。よく見ると、勢いよく刺されたはずなのに血すら出ていない。
景春は手ごたえを感じないようで、不愉快な様子を隠しもせず思いっきり舌打ちをする。そしてバケモノじみた反応をする彼女に、一切動じず荒っぽい口調で脅す。その時、鉈包丁をなお深く差し込んでいくが、傷が広がる様子は一切見受けられなかった。
「まどろっこしい真似しやがって、このままぶった斬ってやる!!」
彼女の首には既にザックリ鉈包丁が刺さってるから手遅れな感じがあるが、ひとまず止めないと一帯が惨劇になってしまう。俺は何とか説得しようとする。しかし、テメェは黙ってろと言われてしまい手に負えない。
いつの間にか俺のそばにやってきたグレモリーが、傍らでクスクスと笑ってる。まるで良い物を見せてもらってるような……そんな感じの笑みだった。何が楽しいんだか分からないが、せめて笑う状況くらいは考えてほしい。非常に耳障りだ。
俺のことを忘れちまったとはいえ友人は友人だ。このまま放ったらかすわけにはいかない。軍人たちを平気で殺していたとはいえ、あちらは最低でも自己防衛だと誤魔化せる。だが流石にこの状況は、そんな言い訳は通用しない。
と、とりあえずまだ斯文は生きている。ならば、せめて首元に刺さった鉈包丁をなんとかしてやらないといけない。彼女のような【天】の人間に手を出せば、非常に厄介で面倒くさい。足りない脳みそで、今の状況を打開する策を必死で考えようとした。
するとその時、鉈包丁が刺さったまま斯文が再び言葉を紡ぐ。首に思いっきり異物が突き刺さっているというのに、どうやって言葉を発しているのだろうか……?俺は驚きを隠せなかった。
ここでは、ありえないことばかり起きる。認めたくない事実が、目の前で組み立てられていく感覚を覚えた。
「貴殿らを呼んだのは、まさにこの獣の処刑を再開してもらいたいからだ」
我の処刑ってなんだ?正直、訳が分からない……だが今ハッキリと、この獣を殺せと懇願してきた。まず彼女と獣はどんな関係なんだろうか?
そもそも、こんな化物のような獣をどうやって殺せというんだ。生半可な刃物じゃ、太い首に弾かれて傷1つ負わすことすら困難だろう。その前に、こちらが獣に食われる運命が見える。
しかし、そんなことを考えてる暇など与えらぬまま彼女は思いもよらない行動をする。斯文は自らの首に突き刺さった鉈包丁を思いっきり手で掴む。
鉈包丁の刃を掴む彼女の手は、まるで硬質のセラミックか、あるいは何かの結晶体のようだった。血など出ない。金属と彼女の皮膚が擦れ、火花ではなく、デジタルな光の粒子が微かに散ったと思いきや——そのままへし折ってしまった。
バキンッ!
包丁だった破片が、まるで硝子みたいに音を立てて周囲の床に散らばる。細身で非力に見える斯文が、突如人外のような怪力を発揮し、底知れぬ何かを感じ取った。それを見た景春も何かを感じたみたいで、咄嗟に覆いかぶさっていた彼女から距離を取る。
だが、何処からか斯文と同じような姿をした者たちが、ゾロゾロと俺たちを取り囲んでしまい逃げられない。
そうまるで、"処刑"という演目に客を呼び寄せるかのように——。




