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28[LOG] AM8:42 /TRACE-B

月水金の週三更新


大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます

 ようやく音がする場所に辿り着き、そっと建物の影から覗く。

 

 ——そこでは茶屋と思わしき場所で、頭にご立派な光輪を浮かべた連中が煙を吸いながら、どんちゃん騒ぎを繰り広げていた。

 どうせ一杯やってるんだろうなと思い覗き込んだが、実際は想像上の十倍くらい自堕落な光景だった。思わず【天】(ここ)の人間は朝っぱらから享楽を耽る余裕があるんだな……と冷笑してしまう。

 記憶がグチャグチャで、過去のことを大して覚えてない役立たずの脳みそですら、この様子には異常性を感じる。

 

 それに、あいつらが吸ってるのは何だ?恐らく水タバコだと思うが……煙の色が極彩色で気色わりぃ。色からして毒だと言わんばかりのものを、そいつらは喜んで吸っていて思わず軽蔑する。

 煙を吸った後は錯乱状態が増したり、挙句の果てには泡を吹いてる奴なんかもいる。どう見ても重病人みてぇなのに、誰もそれに関して心配する素振りすらねぇ。また騒ぎに参加してねぇ奴も、力が入らないのか壁に背を預け項垂れている。

 街をよく見てみれば、そんな連中ばっかだ。まるで、死ぬ順番を待っているかのような気持ち悪ぃ風景が眼前に広がっていた。

 こいつらは、さっきまでいた下層区画?より真っ当な場所で暮らしてる癖に、わざわざ煤みたいなもんを身体に入れる……あまりにも皮肉めいていると思った。人間は贅沢者になると自ら毒を喰らいたがるらしい。

 

 そんなバカげた風景を険しい顔で見つめていると、横からグレモリーのやつが口を挟んでくる。存在自体ふざけてる女が、目の前でふざけてる連中に苦言を呈する。




 「おおっと、ありゃあ危ない煙だねぇ~ここの人たちって生きてるのに、死んでるみたい」




 人間をペット呼ばわりをする女が、生死を語ったところでただただ軽いだけだ。それに……ここの連中は生きる気なんてサラサラねぇだろ。

 全くもって不愉快だが、薄っすら俺と同じ匂いがする。とっくに心は死んでいるのに、身体だけが生きている愚か者。だからグレモリーの言葉を訂正するように言い放った。




 「…………違ぇよ。死ぬのを待ってんだろ」




 グレモリーはそれに対して空返事だけをすると、他のことに興味津々になってしまっていた。流石に飽きるの早すぎんだろ……。もう少し内容に踏み込んだ質問をするとか、そういうのは…………ないな。ろくでなし女相手に少しでも期待した俺が馬鹿みてぇだ。


 

 ——その時、頭上から派手な呼び出し音が鳴り響いた。

 

 

 上を見上げれば各建物に設置されてる電光掲示板がチカチカと発光していた。そしてしばらく点滅を繰り返した後に、数字と名前が次々に流れ始めた。

 何かの呼び出しか?と不可解に思った俺とは対照的に、【天】の連中は大きな歓声を上げる。まるで試合に勝ったみたいな、そんな感じの喜びを叫びにしたような感じだった。

 そして彼らは覚束ない口調で、うわ言のように呟く。先ほどまでゴールのない道を永遠と歩いてきたような疲れ切った表情をしていたくせに、途端に艶々とした顔つきになって客観的に見るとかなり気持ち悪ぃ。




「ようやく根源プログラムに行ける……」


「あぁ……天帝様よ……」


「根源プログラムがようやく救ってくれた」




 連中は天帝と根源プログラムという名を、ひたすら口々に出す。なんだ……?気味の悪ぃことが水面下で進んでるように見える。ぞわぞわとした悪寒を感じ、ついつい手で腕をさする。寒いわけじゃねぇのに……なんでだろうな。

 すると、突然グレモリーが俺を呼びつける。全く、うるせぇ女だ。テキトーに相手して、さっさと切り上げようと奴の元に向かう。

 覗き込んできた俺にグレモリーは、張られているポスターを指さして言うのだ。




 「これ読んで」

 

 「はぁ?お前、字ぃ読めねーのかよ?」


 「解読すんのが面倒なの!ほらほら早く!」


 「ったく……しょうがねぇな」




 俺はグレモリーに言われるがまま、ポスターを読み上げる。物心ついた時から見慣れたはずの文字だが、そこに刻まれた意味は異世界じみた内容だった。




 1000001011100110 111010111011011 11000001101110 11000001101010 11000001000100 100111000010110 111010101001100 11000001111000(根源プログラムで苦痛のない世界へ)

 100111010111010 110110000010001 11000011000111 11000011111100 11000010111111 101001100010110 11000011010111 11000011101101 11000010111000 11000010100111 11000010101111 11000011001000(人民データ化プロジェクト)




 見慣れた文字の羅列のはずなのに、内容が頭に入ってこない。バカになった俺の脳みそは、なおのこと救いようのないガラクタになったのだろうか?

 データ化ってなんだ?いやまず根源プログラムって何だってんだ!!これじゃあ、まるで……。ありえない、人間をそう簡単にデータにできてたまるかよ!!

 可可(アレ)は小さな機械やら何やら作って動かしてたりしてたが、普通の人間にはあれが関の山だろう。【天】(ここ)がどんなに技術が進んでいても、人間の複雑な感情や思考等をデータという不確定なものに落とし込むのは流石に無理がある。夢でも語ってんのか?こいつらは。

 

 俺は思わず後ずさる。その様子を見たグレモリーはサラッと述べる。目の前に起こってることだけを淡々と。こういう時だけ真面目に語るから調子が狂う。




 「君がさっき言ったみたいに、【天】(ここ)は死ぬのを待つための”待合室”なのかもね」

 



 この女の言葉が、白い建物の壁に反響する。それと同時に、グレモリーの懐から別の音が鳴り響く。次から次へと騒がしいったらない。

 彼女は胸元から何かを取り出すと「あっ!!」っと煩い声を上げて、わざとらしく落胆する。そして頭を掻きながら言うのだ。それはもう演じているような、わざとらしい感じの態度で。



 

「なんか……可可(あの子)の小鳥ちゃんの信号見失っちゃった……あはは……」




 とりあえず、この女を殴り飛ばしたくなった。

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