27[LOG] AM8:00 /TRACE-B
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
【天】の軍人たちを振り切るように、白い建物が連なる狭い路地へ逃げ込んだ。全くうざったい連中だ。何度も叩き潰しても、虫みたいに湧き出てきやがって反吐が出る。
ようやく俺たちと軍人が引き起こした騒ぎは鳴りを潜め、呼吸もいつもの様子に戻ろうとした——その時だった。
——可可がいない。……おいおい、いい年こいて迷子かよ。
キョロキョロと周りを見渡すが、見えるのは規則正しく立ち並ぶ白い建物群とケバい服を着たグレモリーとかいう女だけだった。
俺は憎たらしいグレモリーに半ば強制的に連れられてるだけで、ついでに付いてきてるだけの奴なんざ正直どーでもいい。
というか、視界にチラチラ入ってきて目障りに感じる。なんとなく俺の様子を俺の顔色を窺うような視線が、イラつきを加速させる。触ると壊れる硝子細工を見るみたいな目ェしやがって。
だが脳の奥底で、得体の知れない感情が激しく喚き散らす。置いていくな……見捨てるな……そんな、らしくない言葉が胸の奥で騒ぐ。まるで他人がもう一人いるみてぇで、それが不愉快で煩わしいったらありゃあしない。テメェは誰だ?偉そうに出てくんじゃねぇよ。
そんな不愉快な感情を振り払いたい一心で、思わず来た道を戻ろうとする。単純な思考だなと思うが可可の後を追いさえすれば、この煩わしい感覚も消えるだろうと思ってた。
しかし、誰かが手首を掴む。俺はイラつきながら振り向けば、グレモリーが普段と変わらない耳障りな声で言葉をかける。この煩わしい札で強制的に動きを封じればいいものを、わざわざ俺の手首を掴む理由がわけわからん。
悪いが今は引き留められること自体が不愉快だ、用があるんならさっさと終わらせてほしい。
「どこ行くの?今、アッチに行っても軍人に捕まっちゃうよ?」
「どこだっていいだろうが、テメェには関係ねぇよ」
「関係あるよ~!だって君のご主人様だもん!」
腹が立つ。なーにがご主人様だ。テメェみたいな性悪女の下僕になった覚えなんかねぇよ。逆らいてぇけど、この札のせいで逆らえねぇから黙ってノコノコついていってるだけだ。
その様子があまりにも矮小で情けねぇ。なんでこんなザマになっちまったんだろうな。思い出したくても、肝心なところが思い出せない。
普段の俺ならグレモリーに止められた時点で、面倒くさがって諦めてる。逆らったって良いことねーもんな。従っても良いとは限らねぇけど……。
だけど今回に限っては、何故かどうにも譲れなかった。なんでなのか自分でも分かんねぇが、この女の腕を引きちぎってでもアレを探しに行かなきゃいけない…………そんな感情がバカになった頭を埋め尽くす。
グレモリーは俺が引かないと思ったのか、「うーん……」だの「ムムム……」だのワザとらしい唸り声を出す。そして何か思いついたのか、うざったいくらいに明るい表情で話しかけてくる。一連の行動が演技かかってて、苛立ちが加速する。一発ぶん殴りてぇ気持ちを必死に耐える。
「んもうっ!しょーがないなぁ!心配性のアマイモンくんに朗報でーす!実は可可が連れている小鳥ちゃんの信号は常に見張ってるんだよね!だから、どこにいるかは丸わかりなんだよ~ん!
………………ってことでね?言うこと聞いてよぉ~~!お願い!ねっ?ねっ?」
力で抑え込めばいいものを、わざわざ少ない情報をチラつかせて俺の気を引こうとする姿が実に滑稽だ。今まで見てきた限り、この女は化物みたいな力を持っているはずなのに何故かそれを出そうとしない。舐めてんのか、力を出せねぇのか知らねぇけど、そういう態度が何となく気に食わない。
ふと、もっと情報を引き出すために駄々をこねてみようかと変な悪知恵が浮かぶ。だが、こんなことやってられねぇから即座に諦める。こんな女に構ってること自体がバカバカしい。
それに、これ以上グズグズしてても何も進まねぇ。仕方なしに腕の力を抜いた。するとグレモリーは俺がひとまず諦めたと思ったみたいで、わざとらしく安堵の息をついていた。
——そんな時だった。
白い路地の先で微かに人の笑い声と、楽器をかき鳴らす音が聞こえてきた。弦をリズミカルに奏でる音がこの偽物みてぇな光景には、あまりにミスマッチで不気味に感じる。どうやら、この先で朝っぱらから複数が一杯やってるんだろうか。随分暇なようで羨ましいことだ。
俺は正直どうでもいいんだが、グレモリーのほうは気になって仕方がないらしい。ソワソワしながら俺を盾にして様子を伺おうとする。意地でも被害を喰らいたくないという狡賢さが透けて見えて反吐が出る。ふざけんな馬鹿。
この女のことだから一瞬見て平気だと思ったら酒盛りに飛び入り参加でもするんだろう……そしたら隙を見て逃げてもいいな。まぁ、どうせ札のせいで何もできず仕舞いだろうけど。
くだらない妄想はここまでにして、いい加減動かないといけない。こんなよくわからん路地で立ち止まってても時間の無駄だ。グレモリーが引っ付いて無駄に重い身体を引きずるように動き始める。
背を押される形で餌に釣られる魚のように、音がするほうへ歩みを進めた。




