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24[LOG] AM7:19 /

月水金の週三更新


大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます

 勢いよく何かが外れた音がしたと思いきや、身体から重みが消え、一瞬、無重力状態に放り出された。内臓が遅れて浮き上がる気持ち悪い感覚だ。嫌な予感がして俺はチュンを内懐に急いで入れる。これなら、ひとまず壊れずに済む。

 エレベーターの箱全体に風の音が荒々しく響く。厚い布の隙間からは、分厚い風の膜が肌を擦る。すると目の前にあった厚い布が暴風で取り払われ、ようやく視界が明瞭になった。


 そこにあったのは、下層区画では見ることが出来ない一面に広がる青い空だった。ガラスの箱はレールから外れた勢いで割れており、粉々に砕け散った破片は、【天】の眩い光を反射させキラキラと輝いている。

 そしてようやく状況を理解した。

 


 

 ——俺たちだけじゃない、エレベーターの箱ごと空中に放り出されているんだと。


 

 

 まずい!本当にまずい!!このまま落下すれば供物に押しつぶされて死ぬ!そんな悲惨な未来は容易に想像できた。何か行動しなければと焦る。だが、どうすればいいんだ!!

 するとそんな俺よりも早く行動した奴がいた。グレモリーは普段の軽いノリを潜めた真面目な顔で、景春(ケイシュン)に命令を出す。鉄製の棺桶を足場にしろと。その言葉は、あまりに真摯で珍しく焦っているように思えた。

 指示を受けた彼は鋭い目つきで一瞥すると、棺桶を横に落ちるよう位置を調整する。そして何も言わず俺の腕を引き寄せた。せめて一言欲しいが、そういうことも言ってられない状況だ。

 グレモリーはその様子を確かめると、何処から出してきたのか札を大量に取り出す。そして言うのだ。




 「私がこの世界に干渉するのはよくないけど、可愛い(ペット)のためなら仕方ないよ……ねっ!!」



 

 彼女が力を籠めると、瞬く間に俺たちを囲むように札が円形に広がる。札に刻まれた文字が激しい閃光を放ったその時、空間に激しいノイズが走る。

 一瞬、何が起きたのか理解ができなかった。だけど、彼女にしかできない超常現象的なことが起きたのは間違いなかった。

 すると上空の真っ青な景色が、瞬時に地上の見覚えのない風景へ切り替わる。




 ガシャン!ガシャン!ドスン!!

 ——ズドン!!

 


 

 重さのある供物が先に地上へ落下し、程なく足場にした鉄製の棺桶が勢いよく地面に墜落する。激突の衝撃で白亜な石畳が砕け散り、地表がむき出しになってしまった。

 グレモリーが供物を先行させて衝撃を緩和したおかげか、着地の衝撃は最小限で済んだ。しかも周りに飛び散っていたガラスすら消し去っているのだから、奇術師でもびっくりの離れ業だ。

 彼女は本当に何をしたのだろうか?単純なガジェットでは恐らく不可能だろう。それに、あの激しいノイズは何だろう……まるで空間を破壊するような……。

 

 いや今はそんな思考を巡らせている場合じゃない。俺は覚束ない足に、思いっきり力を込めて踏み出す。地面に降り立つのが久々に思え、何となく身体がフラフラする。しばらくの間、狭苦しい空間にいたからだろう。

 周囲に投げ飛ばされた散々な様子の供物に躓かないよう、慎重に歩く。落下した衝撃で供物の中身が飛び出してしまい、辺りは見るも無惨な状況になっている。

 だが()()飛び出しているかは深く考えないほうがいいだろうと一目で分かった。だから俺は必死で見ないふりをする。石畳を汚す赤黒い液体なんか見てない。絶対にだ。


 

 キョロキョロと周りを見渡せば、一面が真っ白の清廉な街並みが広がっていた。その様子はまさしく羽化したばかりの蝶のような感じで、世界の穢れや汚れからは程遠い存在に見えた。

 石畳に留まらず、荘厳な感じの建築物すら白い……まるで作り物のようだ。いつも見ている下層区画の汚いビル群とは真逆と言っても過言じゃない。路肩に塵1つ落ちていない道など、生まれて初めて見た。

 しかも、息を吸っても肺に突き刺さるような刺激がない。俺は思わず首辺りを摩ってしまった。いつもは空気清浄機がないと形のない"何か"で首を緩やかに締められる感覚がするのに……それがない。あまりに別世界すぎて驚きが隠せなかった。

 だが不思議と人通りがない。というか人の気配が感じられない。どこまでも続く真っ白な景色と透き通る青空が広がっていて、心なしか不気味に思えた。


 

 ——これが【天】……なのか?


 

 俺はしばらく見たことのない風景に見とれていた。だが、それがいけなかった。

 【天】から見れば、俺たちは不法侵入者だ。エレベーターで運ばれてるうちに、その感覚が抜けてしまっていたのかもしれない。




 ——ジャキッ




 突如、俺の背後に銃剣が付きつけられた。冷たくて、鋭利なものが突き刺さりそうな気配をヒシヒシと感じる。そう、いつの間にか【天】の軍人たちが俺たちを取り囲んでいたのだ。

 周囲を囲む軍人たちは、一言の怒号も、足音の乱れすら見せない。ただただ、無表情のまま銃剣の距離を詰めてくる。

 彼らの不気味な沈黙が、罵倒よりも恐ろしかった。通報は誰が?……そもそも、街の住民はどこへ消えた?いや、そんなことを考えてる暇はない。今はこの状況から逃げるのが先だ!

 

 俺は護符の反発力を利用しながらバク転し、その反動で銃剣を叩き落とす。鉄と鉄がぶつかり合う音を辺りに響かせ、軍人が持っていた銃剣は手元から離れて滑り転がっていく。

 なんだろう……自分でも驚くほど体が動いた。前までは護符に操られるまま無理に身体を動かしていたような感じだったが、今は違う。これまでの苦労の成果が出たのか、それとも別の何かか。

 だが手元に武器が無いにも関わらず、彼は手刀で突き刺そうとしてくる。手首を掴んで地面に押し付けて拘束したいが、流石【天】の軍人教育を施された連中だ。動きが見抜けない。

 

 足を縺れさせながら隙を伺っていた。その時——いきなり横から鉄製の棺桶が突っ込んできた。

 護符のおかげで危機を察知して、半強制的に咄嗟に躱せたが……こんなことをする奴は一人しかいない。いや二人もいたら、なお困るけど。

 俺は棺桶が突っ込んできたほうを見れば、景春(ケイシュン)がこちらを揶揄するような表情を浮かべてた。あの野郎……。一言文句でも言ってやろうかと近づこうとした時だった——。



 ——その場に煙幕弾が投げ込まれる。


 途端に周辺が白い煙幕で覆われる。俺は方向感覚を失ったかのように、周りを忙しなくキョロキョロくらいしかできなかった。

 もしかしたら……これに生じて軍人たちが突っ込んでくるかもしれない。そんな恐ろしい予感が脳裏に過ったとき、後ろのほうから声が聞こえた。




 「おーい!そんな連中放っておいて、さっさと姿をくらますよ~!」



 

 この能天気な言い方は、恐らくグレモリーだろう。よく目を凝らさないと見えないが、何となく遠くのほうに彼女と景春(ケイシュン)の姿が見える。

 二人はひとまず路地に逃げ込むようだ。俺は姿が薄っすら見えた方へ、歩みを進めようとした。だが、思った通りに進めない。

 不思議に思い、ふと後ろを見ると誰かが俺の腕を掴んでいる。その手は次第に力を強め、進みたい方向とは逆の方向に引きずり込んでいく。このままではいけないと踏ん張るが、その腕は岩のように動かない。

 得体のしれない恐怖に耐えられず、ついつい思いっきり力を込めて振り払ってしまった。すると、ようやく身体が解放され自由になる。

 俺は怒りを剥き出しにして振り向いた——どこのどいつが俺を止めるんだ、と。


 

 ——するとそこには、頭に光輪を浮かべた絢爛豪華な漢服姿の女が立っていた。



 彼女は嗅ぎ慣れない線香の香りを纏わせながら、物寂しい【天】の街並みに似た灰色の瞳を俺に差し向ける。そこだけ空間の密度が違うように思えたのは、きっと気のせいではないだろう。

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