23[LOG] AM7:12 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
——するとガクンっと急に動きが止まった。
外では微かに狼雯が誰かと話している声が聞こえる。というか彼女が一方的に話している感じだ。恐らく話しかけてる相手は、エレベーターを管理してる【天】の軍人だろう。
ちょっとだけ何を話しているのか気になったので、厚い布越しに耳を澄ましてみる。相変わらず、狼雯の声は明るく大きな声だから聞こえやすくて助かる。
でも軍人の声は一切聞こえなかった。というか、彼女が一方的に話しているのかもしれない。
「いやぁ~遅れてごめんな!揃えるのに時間がかかったんや」
「……」
「あぁ、品物ね。ちゃんと揃えたで?えっ……重さが規定より重いって?き、気のせいやろ!!」
「…………」
「はいはい、今度は気ぃ付けますよ~!さっすが根源プログラム様やなぁ、抜け目ないったらありゃあせぇへん」
その言葉を聞いた時、どこからか見られてるような視線を感じた。物音を立てずゆっくり辺りを見回しても、この場にいる連中はこちらなんて見ていない……はずだ。俺は首を傾げ、再び外の様子に聞き耳を立てる作業に戻る。
だが根源プログラムという聞き慣れない言葉が、いつまでも頭にこびりついて離れない。なんだろう……初めて聞くはずなのに、ずっと昔から知っていたような不思議な感覚がする。
プログラム……ということは、【天】のなんらかの主要なシステムを司っているのだろうか?機械に慣れ親しんでる身としては是非一度この目で拝んでみたいが……まぁ、そんな重要なものなんて見られるわけないか。俺は諦めのような達観した気分になった。
不思議と言えば、そういえば何故【天】の軍人たちは一言も発さないのだろうか?下層区画の人間たちと話してはいけない命令でもあるのだろうか?まぁ、余計なことを言わなくてコチラとしては助かるが……。
もしくは話さなくても伝わる外部装置や、感情を文字で表す機器でも使用している……とかだろうか?むしろ、そんな気がしてきた。じゃないと会話なんて出来ないもんな。
しばらくして狼雯は無言のままの軍人に礼を言う。すると再び荷車が動き、何かに載せられたような振動がこちらに伝わってくる。
様子を伺い見ることができないから内部がどうなってるかは分からない。折角【天】が作ったと思われる移動装置を眺められる機会だと思ったので、少々惜しいと思ってしまったが仕方ない。
だけど、今の俺はいわば侵入者だ。ここで姿を現すわけにはいかない。俺はじっと好奇心が飛び出さないよう耐えた。
ドアが閉まる音がした途端、勢いよく上へ持ち上げられるような感覚がする。
素早い勢いによる振動で、目の前の厚手の布がズレてしまい、ほんの少しだけ外の景色を覗き見ることが出来るようになってしまった。隙間から漏れる僅かな光が俺の足を照らす。その様子は、様子を見てみろ気になるんだろう?と誘惑しているように見えた。
覗くべきか……覗かないべきか……。
そんな選択を頭で繰り返す。余計な動きをするのはダメだと思ってる。だけど俺は…………目の前に開かれた未知への探究心に逆らえなかった。
自らの欲求に流されるがまま胸の鼓動を抑え、そっと見てみる。そこには透明な壁の向こうに、遠ざかる下層区画のゴミのような街並みが一瞬見えた。物凄いスピードで通り過ぎていくものだから驚いてしまった。この世界には、こんなスピードで移動する物が存在するんだと感動さえ覚える。
だが同時に、自身がとんでもない高さの場所にいると嫌でも理解してしまう。生まれて初めて、こんな高い場所に来たので思わず緊張した。荷車の中で荷物に埋もれながら座っているにもかかわらず、落ちてしまうんじゃないかという不安をついつい感じてしまう。そんなバカなことあるわけないのに。
離れていく感覚にも慣れた頃、身を強張らせる緊張感が見慣れた場所から離れる喪失感に変化した。今までの色んな思い出が牙となって自らを切り裂くように思えた。生きてるだけでも苦しくて仕方がない下層区画なんてどうでもよかったはずなのに……変だな。
俺はよく分からない感情を振り払うため目を伏せながら、訪れるはずの瞬間を待った。
――――――――――――――――――――――
上へ向かう感覚にも、少し慣れてきた。だけど自らの心臓は緊張と好奇心により、普段よりも早く鼓動を刻む。
もうすぐ……だろうかと思ったその時。
ガガッ……ガッタン!
動いていたものが急に止まったような振動が響く。箱の中はしばらく静寂に包まれた。
そんな時、突如頭上から警告音が激しく鳴り始めた。何が起きている?布の隙間から覗きたい衝動を、奥歯を噛み締めて抑え込む。ここで顔を出せば、即座に処分されてしまう。
外の異変に声を上げ飛び出そうになるのを、自らの服の裾を強く握って堪える。
だが次の瞬間、けたたましい警告音がプツリと途絶えた。その直後、まるで世界から重力が消失したかのような浮遊感が襲い掛かったと思えば——
俺たちは空中に放り出されていた。




