22[LOG] AM6:30 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
いつも通りの灰色の空の下、辺りが不自然に騒がしい。あの後、ようやく眠れたのに早くも妨害された気分になった。
寝ぼけ眼を擦りながら、重い動きで木製の寝床から起き上がる。そして少し遠くの装飾が立派な窓を覗き込む。
するとそこには散々俺たちを追い回してきた【天】の軍人たちが、周囲を厳重に警備しているのが見えた。
予想外の光景にびっくりした俺は思わず、窓の下にしゃがみ込んでしまった。しゃがみ込む際、僅かに物音を立ててしまい外の連中が近づいてくる気配を感じた。息を殺すように、口を手で塞ぐ。
しばらく沈黙が続いた後、軍人はひとしきり窓辺りを確認して満足したのかそっと窓から離れていった。
なんとかバレなかったようで、息を深く吐く。まさか【天】の連中が、こんなところまで追ってくるとは思わなかった。
ようやく【天】へ行く道が開かれそうなのに些細なことで全て無駄にしてしまったら、たまったもんじゃない。
目標に近くなってきたこんな時こそ、慎重に行動しなくては。俺は物音を立てないように、自らがいた寝床を元の形に整えていく。
そんな時、チュンも目覚めたようで機械の羽根を鳴らし始める。まずい、このままだとバレる!
俺は急いでチュンに対し、静かにしろと態度で示す。すると、羽根の動きを緩め自身の掌に留まる。この機械人形は出来合いのもので作られたにも関わらず、こんな雑な指示すら理解できるみたいだ。
チュンは何か聞きたいことがあるみたいで、ヒソヒソと言葉を紡ぐ。特有のノイズが邪魔で発された小さな声を阻害する。だから、俺は何とか聞き取ろうと集中して耳を澄ます。
『PPP……軍人たち、こんなとこにも彷徨いてんの?ほんと邪魔だね……PPP』
「ま、エレベーターに乗れれば……撒けるだろ……」
『PPP……そう上手くいけば良いけどね……PPP』
珍しく、チュンのやつがネガティブなことを言い出した。いつもは喧嘩勝りな言葉や、背中を押すような言葉を使うから少し意外に感じた。
機械……というかチュンを媒介にしてるような奴にも不安っていう感情があるんだなと、ちょっと失礼なことを思ってしまう。
俺は、不安げにするチュンの羽根を少し撫でながら誤魔化すように言い放つ。
「なんとかなるって……いや、なんとかする」
『PPP……PP……あっそ……PPP』
チュンにかけた言葉は、まるで自身に言い聞かせるような呪いの言葉だった。俺にできることがあるなら、その全てを使ってでも……なんとかする。
そんな言葉に対して、チュンの返答は投げ出すようなものだった。でも先程までの少し不安げな感じは、どうやら無くなったみたいで思わず安心する。
こういう時、李沈だったら何と言ったんだろうな?俺はあんまり誰かを励ますのは上手じゃないけど、アイツは得意だった。
途端に李沈の雑な助太刀が恋しくなった。居たはずの存在がいない、そんな空虚な感情が胸を締め付ける。
——すると誰かが俺の肩を叩く。
後ろから急に触れられて驚いた俺は、思わず弾かれたように振り向く。
そこには狼雯がいた。彼女を見ると大変申し訳ないが、ほんの少し恐怖を感じる。まぁ、それなりに話してきたのだから力加減はしてくれるだろう……多分。
彼女は外に【天】の軍人が張ってることに気づいてるようで、普段の大きな声を潜め最低限聞こえる声で囁く。
「何してん?準備しなあかんから、はよこっちきて」
「じゅ、準備?」
「そ、アンタら荷物に紛れ込ませなきゃあかんの!ちゃっちゃとせなウチが玄境に怒られるから、早めに来てな」
要件を言い終わると狼雯は別れを告げ、足音を立てないように腰を低くしながら部屋から出ていく。
——今日俺は【天】へ行く。
こんな日が来るとは思わなかった。いつか行きたいとは思っていたが……それは"三人"でだ。
急に「いつもどおり」の日々を奪われた俺は馬鹿みたいに足掻いた。その結果、皮肉なことに人生で一番【天】の近くにいる。
俺は決意を確かめるように、拳をギュッと握りしめる。そして、指定されたところに向かうため精一杯気配を消しながら一歩を踏み出す。
足が古い木製の床を踏みしめた時、ギシリと音を鳴った。それは【天】という不確かなところに足を踏み入れる俺を、招き入れるような不気味な合図のようだった。
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寺の裏手に赴けば、大きな木製の荷車が用意されていた。手前には多種多様な荷物が、今にも送られるのを心待ちにするように佇んでいた。
既に荷車の奥には景春が棺桶と共にいる。グレモリーは何やら狭いだの文句を言ってるようだ。
どうやら俺が最後に集まったらしく、皆を待たせてしまったらしい。さっさと寝なかった弊害がこんなところで出るとは……。申し訳なさで肩身が狭い。
すると青蘭が慎重な面持ちで、こちらにやってくる。どうやら【天】へ移送する荷物の最終確認をしに来たみたいだ。
彼女が言うには【天】へ捧げる贄を載せる前に、荷車に乗り込んでほしいそうだ。その後に厚手の布をかけるので、余程のことがない限りは大丈夫だとは言っていた。
しかし、言葉とは裏腹に彼女の顔色は良くない。自らの行動に命がかかってるという重圧があるのだろう。
そんな彼女の重荷を少しでも減らすため、遅れた謝罪を述べた後、俺はチュンと共に素早く乗り込もうとする。
すると、いつの間にか現れた玄境に止められる。彼は小声で話しかけてきた。まるで、念を押すように——。
「いいか坊主、オイラがここまでやるのはお前が【天】に大穴を空けてくれるのを期待してっからだ。処遇保留はまだ続いてることを忘れるな」
吐き出された言葉は彼の打算をよく表していた。それは脅迫にも近い言葉だった。だけど、裏を返せば何かをやり遂げてほしいという期待の表れに思えた。
それを告げられた時、そもそも下層区画に戻ってこれるのかと思ってしまった。でも言われたからには何かしなきゃいけない。俺は彼の強い言葉に、黙って頷くことしかできなかった。
すると会話を盗み聞きしてたらしいチュンがぽそっと呟く。
『PPP……なにあれ、感じ悪っ……PPP』
強めの文句に苦笑いしか出てこなかった。感じが悪いのはチュンも同じだが、指摘したら面倒なことになりそうなので口を噤む。
荷車の奥に滑り込むよう腰を屈んで乗り込むと、既に色んなものが詰め込まれていた。
”何かが詰め込まれた”高貴な壺、数多くの木製の小さな箱、おまけに棺なんかも詰め込まれている。中身を想像しそうになり、慌てて思考を打ち消した。
全ての品物は高そうな手触りの良い布に覆われ、更には線香の匂いを染み込ませてるみたいだ。
徹底的に荷物の得体の知れなさを誤魔化すために、あの手この手で上手く覆い隠しているように見えた。
慣れない場所にキョロキョロしていたら、そんな俺を眺めながらグレモリーがニコニコしているのが見えた。
まぁどうせロクじゃないことを考えているのだろう。ひとまず無視しておく。
外から厚手の布をかけられれば、視界は真っ暗になる。何も見えないのが不安で、思わず手元にいるチュンを撫でる。
しばらく経ち、ようやく目が慣れてきた頃、荷車はゆっくりと動き出す。
俺は、その動きに合わせてチュンへオーバーレイ機能を開始するよう指示を出した。
すると機械人形は言葉を発さず、静かに起動音を発生させた。ジジジジッ……と何かを刻むような音を出しながら、つぶらな瞳は僅かに青く発光させ無機質な様子に早変わりする。
荷車が地面を転がる音と、荷物が擦れる音だけが内部に響き渡る。揺れが酷く慣れるまで時間がかかった。俺は酔わないように必死で身を引き締める。
それは永遠を感じるような長い時間に思えた。




