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21[LOG] PM24:03 /

月水金の週三更新


大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます

  件のエレベーターに乗り込む話し合いが終わった頃には、すっかり雨は降り止み深夜特有の静けさが辺りを包んでいた。俺は先ほどまで眠りについていたせいか目が冴えてしまった。

 チュンには散々寝ろと咎められたが理由をどうにか絞り出し、散歩という理由で部屋を飛び出した。折角、寝床を用意してもらったのに申し訳ない気持ちが一杯になった。

 こういう時は手を動かすべきなのだが、以前のように素材がそこらにあるわけでもない。そもそも次の日は重要なことが待ち受けているのだから、さっさと寝るべきなのだ。だけど、あとちょっとだけ……なんとなく見つめ直す時間が欲しい。

 ひとまず自身の心を落ち着かせるため、寺の通路をウロウロすることにした。


 玄境(ゲンキョウ)が管理する寺……彼に言わせれば本来は寺ではなく道観(どうかん)という正式名称らしい。でも下層区画の連中にいくら説明しても違いを理解してくれず、"寺"と言う通称になってしまったらしい。

 確かに俺が見知った寺とは違い、高貴な感じの紅色がふんだんに使われており何となく色鮮やかな気がする。学がないから、どのように違うのかはあんまり分からないけど……。

 そんな目を引く紅色と細かな細工が存分に施された長い廊下をゆっくり歩いていると、景春(ケイシュン)の姿が目に入る。どうやら突き当りの壁に背を預けて中庭を眺めてるみたいだ。俺は言葉をかけようか悩んだ。

 

 長い話し合いが終わった直後のことだ。気絶している間、何があったかをチュンに聞こうとしたが分からないと言われ途方へ暮れた。その時、グレモリーからひっそり耳打ちされたのだ。

 あんまり詳しいことは説明してもらえなかったが、大変なことになってたらしい。で、それを正気に戻した……というか、ぶん殴って強制的に気絶させたのは景春(ケイシュン)だという。

 何が面白いのか彼女は怪しい笑みを浮かべる。その大変なこと?を深堀しようとした時、強制的に話題を断ち切られ「もう寝ようよ~」と言われてしまった。まぁ……つまりは逃げられたわけだ。

 しっかし殴ったって……何で殴ったんだ……?正気に戻してくれたであろう彼には大変申し訳ないが、そんな心配を咄嗟にしてしまう。

 まさかあの棺桶じゃないだろうな?俺は自身の頭が形状を保っているか触って確認する。どうやらまだ形はあるようだ。

 

 失礼なことを思ってしまったが、実質助かったのは事実だ。だから何か景春(ケイシュン)に言いたくて俺は、震える声をどうにか誤魔化して言葉にする。



 

 「よう、お前も眠れないのか?」


 「てめぇには関係ねぇだろ、黙って寝てろ」


 「寝られないんだよ」




 会話のやり取りが続かず、互いの沈黙と夜の静けさが針のように肌に突き刺さる。先ほどまで感じなかった肌寒さが途端に感じられ、思わず腕を手で摩る。正直、居心地が悪すぎるので部屋へ後戻りしたい気持ちになった。

 でもここで逃げたら伝えたいことも伝わらない。だから、どうしたらいいか必死で頭に考える。これで会話を終わらせたくない、けれど紡ぐ言葉が見当たらない。

 仕方がないので、聞きたかったことを言葉にしてみることにした。臆病に負けて、回り道のような誤魔化しの言葉を連ねたところで彼には何も伝わらないだろう。

 恐らく玄境(ゲンキョウ)の態度やグレモリーの言い分から察するに、俺が気絶したときに起きたことはロクなことじゃなかったはずだ。そんな面倒ごとに巻き込まれるのは、誰だって避けたいのは当たり前のことだと思う。

 それなのに面倒ごとを避けたがりそうな景春(ケイシュン)が、()()()()俺を殴ったのは何故なんだと問いを投げた。

 

 景春(ケイシュン)は一瞬こちらを見たと思いきや、すぐに風景のほうに目を逸らしてしまった。そして視線が一切合わないまま、淡々と理由を述べる。




 「ぶん殴っておかねぇと余計なことやりそうに見えたから殴っておいた」

 



 それを聞いた時、つい苦笑いしてしまった。色んな意味で彼らしい。そういえば、余計なことが起きそうなときは率先して可能性を潰す奴だったのを思い出す。その行動に友情の情とか家族の情は存在しない。先天的な本能だ。俺は一体何を期待してたんだろうか?自分のことが分からなくなる。

 ひとまずお礼?は言っておくべきだよなと思い、皮肉交じりに礼を述べる。ぶん殴ってきた奴に礼を述べるなんてアホらしいと思うが、まぁこれも今まで培ってきた無駄な社交辞令の一環だ。正直言うと棺桶でぶん殴られなかったことだけでも感謝しなければいけない。

 そんな俺の心を悟ったのか景春(ケイシュン)は呆れた声で言い放つ。



 

 「ぶん殴られて礼なんて言うんじゃねぇよ」



 

 彼の言葉を聞いた時、既視感を感じた。相当前に大喧嘩して渋々謝った時、似たようなことを言われたような気がする。李沈(リーシェン)に謝れと強いられたからっていうのもあったから、そう返されて凄くムカついたのを覚えてる。

 それと同時にあの日から随分変わったことを痛感してしまい、ほんの少しだけ悲しくなった。俺は必死で悲しくないフリをしながら、つっけんどんな返事をする。



 

 「じゃあ今度は手ぇ出すなよな」


 「……るっせぇな俺の勝手だろ」


 「はいはい」

 


 

 互いの遠い距離とは反比例して、朝が近くなっている気配がした。朝が来たら、もう後戻りはできない。


 

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