20[LOG] PM22:20 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
寺の中庭が見渡せる部屋には、俺やグレモリー。それから玄境に青蘭、狼雯の寺一派が集まっていた。
しかし、いくら周りを見渡しても景春の姿が無かった。それをグレモリーが咎めないということは近くにいるんだろう。……多分。
言葉の口火を切ったのは玄境だった。彼は、いかにも簡単だと言わんばかりに、サラッと方法を提示してくる。
「さて、【天】に侵入する手口だがいたって簡単だ。明日の祭事で開かれる贄専用エレベーターに忍びこみゃあいい」
俺はそんなものが、この下層区画に存在すること自体初めて知った。
確かに抽選に当たった奴らが【天】に行くということは時折あった。だけど、行き方は一切伏せられていたから毎回どうやって行ってるんだろうと疑問に思ってた。
まさか普通にエレベーターがあるとは思わなかった。【天】のことだから下層区画では信じられない技術とかを使って移送してるんじゃないかと、勝手に期待してた俺がアホみたいだ。
一方、贄という言葉に引っかかりを覚える。どこかで聞いたような、ないような……。何処だっただろうか?
考え込んでいる俺に気づいたのか、辺りでチュンが機械の羽根を慌ただしく動かしながら髪の毛を嘴で掴む。きっとまた具合が悪くなったと勘違いしてるみたいだ。誤解をしてると思わしきチュンに、咄嗟に大丈夫だと声をかける。
俺が頭を悩ましてる間も、話題はどんどん進んでいく。そんな中、青蘭が規則正しく手をあげてから言葉を投じる。
「お師匠様、贄専用のエレベーターは名の通り【天】への贄しか受け付けません。いかがなさるのですか?」
「そうなんだよなぁ……どーっすかなぁ……」
「じゃあ、玄境が贄とかいうやつになっちゃえば?」
「悪鬼、お前さんをここでしばいたっていいんだぞ?」
「やだ~!こわぁい」
まず皆、贄というのが"何"なのか理解したまま会話が進むものだからついて行けない。グレモリーくらいは教えてくれてもいいと思うが……まぁ自らの無知をここで見せたくないのは本音だ。散々ボロボロな所を見せた後だから、頼りないと思われてるとは思うが意地を張るのは許してほしい。
それなりに経験を積んできたと思ったが、今までの人生で"贄"という言葉は聞いたことがない。俺は意を決して、青蘭に、小声で尋ねてみることにした。
「なぁ、その……贄ってなんだ?」
「あ、可可様はご存じなかったのですね。贄とはそうですね……【天】への捧げものでしょうか?」
生活に何不自由なさそうな【天】へ、下層区画がわざわざ送らなくてはいけないモノなんてあるのか?まず思ったのがそんな俗っぽい疑問だった。
噂しか聞いたことないが【天】に住まうと、この世の苦しみを感じることはないと聞く。っていうか、抽選の際の宣伝文句で、散々そのようにアピールしてる。そんな連中が何かを下層区画に求めるということ自体、不思議に思った。
言いづらそうな青蘭をフォローするように、続いて玄境が言う。彼に言わすところ、月に一度【天】への配送物を贄専用エレベーターで運んでいるそうだ。
また等価交換として、下層区画には存在しない新鮮な食料や衣服、また様々な雑貨ものを貰い受け、その品物を各地の商人たちへ回してるらしい。
その事情を聞いたとき、俺は先ほどまでの引っ掛かりをようやく思い出した。
——そうだ、夢の中で荘厳な石像は言った。お前が”贄”になれと。
俺は一か八か、周りの会話を遮ってその夢の話を言葉にしてみる。先ほど夢で"贄"になれと言われたこと、そしてこちらのことを信じてくれるのなら俺を贄として差し出せばいいんじゃないかということを。
しかし所詮は夢だ、信用はされないかもしれない。でも、それぐらいしか今の俺に出来ることがない。心の中では、言ったからには逃げられないという緊張感で一杯だった。
それを言ったのと同時に、下層区画では滅多に降らない雨が降り始めていた。風が窓を叩き、大荒れになる予兆を感じられる。
周囲は、激しい雨の音がはっきり聞こえる静寂に包まれた。やっぱり駄目だったかと思い、謝ろうとする俺を玄境が遮る。
「ほー……?見つかれば"贄が暴走した"で片付くなら都合がいいな……じゃあ、その通りにしてみるか。あの状況で見てた夢っていうことは【天】に近しい奴からの言伝だろうし…
しくじったら狼雯のやつが後片付けするだろ。さーて、お次の問題はお前以外の連中をエレベーターに乗る方法だな……」
なんだかアッサリと意見が通されてしまった気がする。俺が気絶している間、やっぱりなんかあったのだろうか?何があったかは一切説明してもらえないが、あの厳しい態度だった玄境を説得させる何かだったのは間違いない。
聞いたところで恐らく、はぐらかされるだろう。モヤモヤしたままだと気持ち悪いので、後ほどチュンにでも聞いてみるか……。
そんな時、話の中でいきなり役割を押し付けられた狼雯は乾いた笑いをあげる。そして漫才のツッコミみたいに「めんどいこと押し付けんな!」と言いながら軽い所作で玄境を叩く。彼は、それに対して何も思ってないみたいだがワザと痛がるふりをする。
しかし、二人の軽妙な反応とは反対に狼雯が後片付けするという言葉を聞いた瞬間、青蘭が顔を曇らせたことに気が付いてしまった。礼儀正しい正座をしながら、拳を握りしめてるのが見える。
そんな様子を見て俺は何となく気づく。この侵入自体が命を懸けたものだということに。きっと失敗すれば……いや、ひとまず想像するのは止そう。今は数々の難関をどう回避するかを考えるべきだ。
新たに出てきた問題について、その場の全員が頭を悩ませていたとき、俺の傍らでチョコチョコ動いてたチュンが飛びながら声を上げる。
『PPP……PPP……しょーがないなぁ、情けない連中の代わりに、私が全員を贄に見えるよう偽装してやるよ!……PPP』
「なんだぁ?小さい玩具のくせにやるじゃねぇの」
『PPP……誰が玩具だ!!生臭坊主!……PPP』
チュンは玄境に威勢よくピーチクパーチク言い争ってる。おまけに彼の周りをぐるぐると旋回して、怒ってるアピールをしている。お前はこんな状況でも噛みつくのかと色んな意味で感心する。しかし、同時に疑問が頭をよぎる。
——チュンにそんなオーバーレイ機能なんか付けただろうか?
いや、つけなかったはずだ。というかオーバーレイ機能を付ける時間がなかった。本当にどうなっているのだろうか……?
というかチュンを通じて、俺たちの手助けをするのは何故なんだろう。もしかしてグレモリーみたいに窮地に追い込んで契約を結ばせようとしているのだろうか?
いや、今そんなことを考えても前に進まない。それに……あまりチュンを疑いたくない。俺は浮かんできた疑心暗鬼を必死に振り払うよう頭を横に振る。
そんな疑念と戦っている頃、いつの間にか玄境たちが、エレベーターに乗り込む時刻など細かい段取りを決めていた。
自分たちのことなのに、他者に任せて何をぼーっとしているのだろうか俺は。
今と向き合うため、積極的に話題へ入り込んだ。自分の感情を出来る限り見ないふりをするために——。




