19[LOG] PM 22:07 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
気がつくと叫び声は喉に張り付いたまま、熱い塊となって肺を焼いていた。夢の中の痛みは感じない。だが、貫かれた胸の奥に、得体の知れない冷たい違和感が居座っているのが分かった。
胸を押さえながら一息つくと、一番最初に視界がとらえたのは太いペンを俺の頬に向けようとしてるグレモリーだった。彼女は俺が目覚めたことに気が付くと残念そうにペンを下ろす。今明らかに何かしようとしたよな?
そしてちょっと落胆気味にグレモリーは軽々しい言葉をかける。
「あ、起きちゃった……残念、いたずら書きしようと思ったのに」
全然変わらない飄々とした態度に少しだけ安心した。さっきまで、グレモリーの対応に腹を立ててたのが嘘のようだ。彼女はいつもどおり俺を下僕としか見てない。その事実に、胸を撫でおろす日が来るとは思いもしなかった。あの夢を見た直後だと、なおそう感じる。
しかし、いつの間に俺は眠ってしまったんだ?覚えている限りだと、玄境に選択を迫られ寝ている余裕なんてなかった状況だったはずだ。……駄目だ、現実と夢が脳内で混じってしまい状況を整理できない。
頭を抱えていると隣で見ていたと思わしきチュンが、少しノイズ交じりで言葉を紡ぐ。その言葉は、悪夢を見てささくれた自身の心に染み渡るものだった。
『PPP……アンタ、平気なの?……PPP』
「あ、あぁ……平気だよ。ほんの少し節々が痛いけど」
『PPP……そ、そう。まぁ、ちゃんと寝なよね……PPP』
「は、はは……そうだな」
なんだかチュンとも久々に話すような気がする。まぁ気がするだけだけど……。チュンは俺の様子を確認して満足したのか、再び周りを飛び始めた。何かを探っているのだろうか?後で聞いてみよう。
だがそんな時、ふと自分が知らない部屋へ運ばれてることに気が付く。見たことのない荘厳な作りの室内、微かに線香の香りが漂っている。俺は直感的に「もしかしてあの寺か?」と感じた時、格子の扉を左右に開かれる。
現れたのは、見覚えのない幼い女の子と俺を初見で拘束してきた快活な女だ。彼女らは目覚めたのを確認するなり声を上げる。寝起きに快活な女の大きな明るい声が飛び込んできたもんだから、軽い頭痛を引き起こす。
「お!目覚めたみたいやで青蘭!良かったなぁ!」
「はい、狼雯様のお手伝いのおかげですね。玄境に押し付けられた時はどうなることかと思いました」
「んもぉ~なんべん言うん!僵尸に様なんていらんわ!」
俺そっちのけに盛り上がっており、少々肩身が狭い感覚に苛まれる。どういう対応をすればいいか咄嗟に悩む。
大体この狼雯と呼ばれた女は、ものすごい力でいきなり拘束してきたものだから対面するのが怖い。自分でも情けないと思うが、暴力を振られれば自然とそうなってしまうのが人の性だ。
だけど、一丁前に怖がってる場合じゃない。倒れたのかどうなのか分からないが、意識を飛ばした俺を介抱してくれたのは恐らくこの二人だろう。ひとまず俺は、申し訳なさそうに会話に割り入ると頭を軽く下げお礼を言う。
すると青蘭と呼ばれた幼い女の子は、多少戸惑いながら言葉を紡ぐ。
その対応は、そこら辺の大人や先ほど出会った玄境よりも礼儀正しいものだった。そう繕ってるだけかもしれないが……。
「そう、畏まらないでください。大体、お師匠様が無理難題を押し付けたのが悪いのです……お身体は大丈夫でしょうか?」
「坊主、青蘭に感謝しぃや?この子の予知が無かったら玄境に捌かれてたで?」
「狼雯様も!初見で暴力はいけませんよ!!彼らに悪意がないのは分かっていたでしょうに!」
「あっはっは~!いやーウチ、玄境の命には逆らわれへんねや、ごめんなぁ」
このままじゃ二人の雰囲気に引きずり込まれて話が進まない。盛り上がっている中、大変申し訳ないながら俺はひとまず会話を断ち切る。そして、これまでのあらましを聞いてみた。
二人が言うところ、俺はチュンの音を聞いてるときに何かしらの影響を受けて意識を飛ばしたそうだ。音を聞いてるだけで意識を飛ばすとは思わなかった。
そういえば李沈と景春が攫われて以来、まともに寝てなかったっけ……。いや、それにしても場所を選べ!とついつい自分を責めてしまう。
これじゃあ、玄境に証明もクソもないよなと心の中で凹む。証明どころか醜態を晒してしまった。一体どうしたらいいんだろうと思案を巡らせる。
すると遠くのほうからドスドスと荒々しい足音が聞こえてきた。チュンはその音に反応してしまい、思わず警戒音を発する。俺はそんなチュンを慌てて止めようとしたとき、誰かが勢いよく部屋に入ってきた。動作が一々荒っぽいため、自然と周りを牽制する。
入ってきたのは、まさしく玄境その人だった。彼は俺という存在を値踏みするように、じっくり覗き込むとニヤリと口角を上げる。その瞳の奥には、獲物を品定めするような冷徹な打算がハッキリと見えた。まるで商店の品物になったような気分だ。
「お、目が覚めたか。じゃあ話が進められそうだな」
「は、話って……」
「そりゃあ、お前さんが望んでた【天】への行き方会議だよ。厄介もんが持ち込んだ厄介は、さっさと解決しないとオイラの立場が危ういんでね」
俺はまだ目が覚めてないのだろうか……?あまりにも都合よく進みすぎて怖い。差し出された手が、俺を助けるためではなく、自己の火の粉を払うために伸ばされたものだと分かっていても、縋るしかない自分がいた。




