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月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
気が付くと俺は、見覚えのありすぎる自宅の狭いリビングのソファにいた。あぁ……あんな非常識なことはなかったんだ。馬鹿みたいな夢を見るなんて、随分疲れてるみたいだ。
心から安心した俺は、台所で夕飯を作っている李沈に話しかける。すると彼女は、ゆっくりとこちらを振り向き話し始める。その姿は、攫われたとき粗雑に扱われたような感じに泥で汚れていた。
いつも服装には気を使ってたはずなのに……と思ったときには既に遅く、李沈は無機質で抑揚のない声で話し始める。普段の彼女からは想像もできない声音だったため、途端に心が恐怖一色に塗り替えられてしまう。
「可可、なんで軍人に攫われる私を見捨てたの?私がこうなったのもアンタのせいでしょ」
「な、何言ってんだ……」
「景春も言ってるよ、アンタのせいで化け物になったって」
彼女がそう告げた瞬間、今まで居なかったところに景春が現れる。その姿は、痛々しい傷が身体中に刻まれており見てられない。身動きをするたび血がボタボタと流れ落ちるため、思わず耳を塞ぎたくなる。
普通は、このような重傷を負えば立っていられないはず……。なのに彼は身体を引きずるように俺へ迫る。
次々に現実ではあり得ない出来事が起き、咄嗟にこの空間こそが夢だと思った。だが、夢だと認識しても意識が目覚めるような感覚はしなかった。
それどころか、李沈と同じく恨みがこもった声音で景春が俺に言葉を投げかけてくる。
「お前のせいで、化け物になっちまった……どーしてくれんだよ」
二人の責める声に否定することは出来なかった。だってそれは本当のことなのだから。俺の力が及ばなかったから、巨大な権力や異質な存在に勝てっこなかった。悔しくて思いっきり拳を握りしめる。痛みで自らを責めるように。
でもここで肯定もしない。少なくとも足掻いた結果が、これならば真正面から受け止めるしかない。だから、瞳が乾くんじゃないかと思うくらいに彼女らを真っ直ぐに見つめる。でも、二人は俺の表情なんてどうでもいいみたいで口々に恨み節を吐きながら縋りつく。
その時点でこの二人は、本物の李沈と景春なんかじゃないと確信を持てた。こいつらは俺なんかに縋りつかない、むしろ殴り合いを嬉々として行う強い貧乏人だからな。伊達に十年以上も一緒に暮らしてない。
偽物と分かった以上、こいつらを殴り飛ばして夢から覚めたい。だけど、いくら偽物でも殴るのは流石に気が引ける。こういうところで思いっきりが悪いのは本当に悪い癖だ。また李沈から馬鹿にされる。
ひとまず俺は早くこの夢が終わるようを祈りながら、前を見つめながら固く口を閉ざす。夢の中で祈るだなんて、おかしい感じがするけど……。
だがこちらが黙っていても、周りの不愉快な怨嗟の声はしばらく止むことがなかった。そればかりか共に住んでいた二人だけに留まらず、町長や客、ましてや亡くなった親父や母親までもが生え出てきた。
あまりにも人間らしくない行動に恐怖する。そして、親しい人たちの皮を被りながら語り掛けてくるもんだから憎たらしくってしょうがない。
悠長なことを考えてる間にも、狭い部屋は瞬く間にそんな化物どもで埋め尽くされるほど増えてしまった。
物理的にも苦しくなった俺は、思わず腕を電灯へ伸ばす。この時は、無性に人の波に飲まれないよう安定感のある物に縋りつきたかった。だけど、あと少しというところで届かない。
このまま押しつぶされて死んでしまう——そう思ったとき、周りの怨嗟の声が突如止む。そしていきなり自身を囲んでいた人の波が姿を消す。不本意ながら人の波によって浮いてた俺の身体は、勢いよく落下してしまう。
俺は地面に叩きつけられるのを防ぐために、急いで受け身を取る。それによって、痛みをどうにか受け流すことができた。良かった……習っておいて。
恐る恐る辺りを確認しようと咄嗟に瞑った瞳をこじ開ける。すると驚くことに周囲の様子がガラリと変わっていた。俺はヨロヨロと立ち上がり周りを観察し始める。
そこは、壁一面には黄金と宝石が全体に施されている場所だった。部屋全面から金持ちですよ!っていう暑苦しいアピールをヒシヒシと伝わる。床は大理石になっており、硬くて冷たい石の感覚が足の裏を通して感じる。
こんなに上質な素材があるなら、1つくらい剥がしてもバレないのでは?とか疚しいことを考え始める。できることなら宝石を剥がして機械類の摩擦を軽減する素材として使いたい。
辺りをじっくり観察しているとき、異質なものを発見する。それは壁面と同じく、黄金や宝飾で飾り付けられた煌びやかで巨大な玉座だ。そしてそこには同じく巨大な人を象った石像が鎮座している。
変に閉塞感があり思わず豪華な墓みたいだと思っていると、突如脳内に見知らぬ声が響き渡る。どうやらそれは、石像から発されてるようだった。声は俺に対し、罪人の罪を曝け出すような憐れみと嫌悪を込めた言葉を吐きかける。
「全てお前のせいなのだから、贖罪としてお前が”贄”として差し出されるべきだ。
——お前は最初から、そのためにいる」
そんな一方的な言葉を言ったのと同時に、石像は急に動き出す。重い石の身体を、ズルズルと引きずるようにコチラへ向かってくるじゃないか。
俺は動きに比例するよう少しずつ後ずさりする。遂には徐々に迫りくる恐怖に耐えられず、思わず背を向けて逃げ出した。
しかし、逃げても逃げても玉座の間からは逃げることができない。そればかりか、俺の走る動きに合わせて空間が拡張しているように思える。どんなバケモン空間だ!ふざけんな!
床の感覚が無くなり、足が縺れそうになる。それに伴って息も荒くなり、必死に口で空気を吸い込む。だけど足は止めたくなかった。立ち止まれば、その石像に押しつぶされそうな予感がしたからだ。
後ろを振り向かず一心不乱に走り続ける。暫くの間、自らが立てる荒々しい靴の音と、遠くから聞こえる重々しい足音が響き渡っていた。
だがそんな無意味な時間は突如終わりを迎える。終わりのない逃避行にどんどん体力を吸われ限界が見えてきた時、遂に終わりが訪れる。
ズドンッ!
石像の巨大な指が俺の胸を背後から突き刺した。血は出なかった、だけども痛みは鮮明に感じた。その瞬間、腹の底から思いっきり叫んだ。貫かれた痛みからくる叫びなのか、それとも——。
この時、俺の中で何かが変化をもたらした。煤汚れた歯車が、別の素材に変わるような感覚だ。グレモリーの血を舐めた瞬間とはまた違う気がする。例えるならば、入ってはいけないところに足を踏み入れてしまったような……。
刺されたときの痛みで思わず倒れこむとき、後ろにある玉座の向こうで大きな瞳を見た。




