17[LOG] PM18:20 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
目の前で十代そこらの子供が必死に証明しようと、のたうち回っている。結果が見えなければ、何も聞かずに斬ってしまってもいいかと桃木剣を触る。
だが、オイラの言葉を真に受けて行動で示そうとするところには感心する。証明できなければ死ねだの、答えられなければ死ねだの偉そうに言うような大人など無視して逃げればいいのに。随分と都合よく扱われてきたんだなと推測できる。
あぁ……本当に下層区画は腐ってる。しかし、それはオイラも同じだ。腐りきった人間特有の最低な思惑が頭をよぎる。先行く大人として、いや人間としてどうかしてる。
——もしかしたら、この都合のいいように動く子供を上手く使うことができるなら……このくそったれな区分だけじゃなく、【天】自体も壊してくれるかもしれないという可能性を微かに見る。
自身の厳つい手と使い古した桃木剣を見つめながら、やりたくてもやれなかったことに思いを馳せる。こんな子供にエゴを押し付けようとするなんざ、オイラも落ちぶれたもんだ。
しかし目の前で何やら策略してる子供を眺めながら、何かを期待して微かに微笑む性悪な女は控えめに言って趣味が悪い。まぁ悪鬼なのだから人間が苦しんでたりする様は、娯楽の1つなのだろうと推測できる。
目の前で見ているだけで気分が悪いが、随分強力な悪鬼のようで祓うことが到底できない。以前も勝手に住み着いて技術やら道具やら盗まれたっけ?本当にイラつく悪鬼だ。
今度こそはひっ捕らえてバラした上で、僵尸としてコキ使ってやろうと思って対策も練っていたんだが、全て無駄に終わった。全くこの寺の結界も役に立たないな。あ、張ったのはオイラだったか。
オイラが悠長に長考してれば、本殿の奥から慌ただしい足音が聞こえる。また何かの雑用を押し付けられるのだろうか?だとしたら断ってしまおう。上手くサボれば1時間くらい時間が空くだろう。賭け事でもしに行こうか?
そんな悠長なことを思っていると、後ろからオイラが預かっている姪の青蘭が飛び出してきた。彼女には今の時間、堂内の掃除を命じたはずだ。責任感が強いこの幼子が、そう簡単に役割を放り出すわけがない。ならば、急な用でも発生したのだろうか?
疑問に思うオイラなど目もくれず、彼女は叫ぶ。声が枯れることなど厭わぬ様子で。
「早く彼を止めてください!!」
何を言ってるんだと思い視線をあの子供に移せば、目の前には想像絶する光景が飛び込んでくる。
子供には【天】の人間のみが浮かべる派手な光輪が現れており、微かに発光し宙に浮いていた。瞳は特徴的な満月色から、多色が混じり合った極彩色に変化していた。この極彩色は確か、天帝が浮かべる特定の色彩だったはずだ。
それはまさしく【天】にて生きることが定められている生物の降臨であり、神聖なもののように映った。だが、呆気に取られてる場合じゃない。
神聖なものでも、この下層区画じゃ毒でしかない。"コレ"が一瞬でも地面を踏めば、辺りは大変なことになる。最低でも周りの人間は蒸発するだろうな。オイラも含めて。
下層区画の人間が何故だとか、そんな細かいことは考えていられなかった。オイラは咄嗟に事態がとんでもない方向に転がっていることを悟る。
——これはまずい……!
面倒事を起こされる前に始末してしまおうと、桃木剣を抜く。この剣じゃ相手にならないかもしれない。だが知るか。ひとまず、"コレ"の降臨を防ぐ。
それだけを考えて、オイラは躊躇なく剣を振り下ろす。だがその剣は何かに弾かれてしまい鈍い音を響かせる。
ガキンッ!
何が起こったんだと思い目を凝らせば、鉄の棺桶を持った奴が目の前に現れオイラの動きを阻害していた。見てくれからして作られたばかりの僵尸だろう。
作られたばかりだというのにあまりにも素早い動きだった。正直舐めてたオイラは避けることが出来なかった。邪魔するなと思い、力ずくで退かそうとするが流石は僵尸と言うべきか思わず力負けしてしまう。
そいつは鉄製の棺桶をオイラの前に放り出し、先程の子供のほうへ一目散に向かう。そして何かを殴打する。
ガンッ!
勢いそのままに、拳で思いっきり子供をぶん殴った。すると殴られた衝撃か、子供の光輪はすっかり消え倒れこんだ。良かった……ひとまず惨事は免れたようだ。
厄介払いで殴ったのか、本能的に殴ったのかは分からない。まず僵尸にはそんな複雑な感情を持つことはできない。
だけど直後に見た、そいつの僅かに震える手は明らかに感情に振り回されていると容易に察することが出来る。まぁこいつらのなんだかんだに首を突っ込んでも面倒なだけだ。見て見ぬふりをしよう。
しかし、このまま放置するわけにはいかない。今の状況を見られれば白い目で見られるのはオイラのほうだ。この子供の連れ?の性悪な悪鬼と僵尸と思われる青年を本殿に入れるのは、非常に不愉快だが仕方がない。自身の監督ミスだ、諦めてケツを拭くことに徹しよう。
オイラは慌てて駆け付けてきた青蘭へ彼らを本殿に案内するよう頼む。彼女は倒れた子供を心配するような素振りを取るが、気持ちを切り替えたみたいで指示通りに行動を始める。
そんな様子を横目で見ながら、彼女らの後をゆっくり追うように子供を担ぎ上げて本殿に足を踏み入れた。
【天】のほうで機械同士が擦り合うような嫌な音がするのは、きっと気のせいだろう。




