13[LOG] PM15:49 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
すると扉らしき残骸の影から、誰かがひょっこり顔を出す。遠目からでも目立つ鮮やかな恰好や、物が沢山入りそうな大きな漆の物入れを背負っているという特徴から、下層区画を根城にしている商人の一人だろう。
だけど、俺の住んでる地域では見かけたことのない人だった。纏う雰囲気が少し違うから、俺たちが住んでる場所よりも少し上位……つまり【天】に近いと思わしき地域で商売を行っているのかもしれない。
通常の商人たちは商品を各店に卸したら、そそくさと自分たちの根城に帰っていくはずだ。以前、こいつらから食料を買おうとしたら店を通してくれと言われたのを思い出す。それなのにどうしてこんなところで、油を売っているんだろう?
他の人たちも「商人たちは俺たちみたいな貧乏人なんか相手にしない」とか言っていたっけ?正直あんまり良いイメージがないため、自然と険しい顔になってしまう。
目の前に現れた商人は、グレモリーと同じような偽物の笑顔を浮かべながらとノソノソと俺たちの前に出てきた。そして、極力相手を刺激しないような低姿勢の態度で話しかけてくる。
「いや~バレてたんですね、面目ない!面目ない!町長殿から言伝を頼まれてつけていたのですが、言葉をかける機会を失ってしまったのですよ~」
「うん、そういう媚び売りはいらないんだ。さっさと用件述べてくれない?」
珍しくグレモリーが苛立っている口調になる。まぁずっとつけられている感覚がしていたというのならば、俺だって文句の1つや2つ言いたくなるもんだ。気持ち悪くて、つい強い言葉を浴びさせたくなる。
でも商人の気持ちも分からんではない、話しかけたいことがあるのに相手がどんどん先に行ってしまうと後をつけざる得ない。俺も以前お釣りを渡し損ねたお客さんを追ってるとき、逆にお客さん側から不審者を見るような眼を向けられたことがある。あれは悲しい誤解だ、本当に。
しかし、今更商人を通して町長が伝えたいことって何だろうか?普通であれば、集団睡眠とかいう異常現象を起こした悪鬼とその僕なんかに近づきたくないと思うが……。それどころか、本人たちに気づかれず隔離しようとするのが真っ当な対応だと思う。何故、そうしないのだろう?
そもそも彼は本当に町長の使いなのだろうか?商人たちは利益が発生することしかしないイメージがあるから、誰かに頼まれて行動をするとは思えなかった。もしかして、町長が言伝を頼むためだけに金を払った?いや、それこそありえないか……。
俺を含めこの場の痛い視線を浴びながら、商人は気にせず述べる。こいつは心臓に毛でも生えてるのか?と疑うくらいに強いメンタルだ。商人としては満点な対応だ。
遂に言われた理由は、俺にとって予想もしなかったことだった。
「あはは……町長曰く貴女が取り憑いているその青年を見捨てることが、どうしてもできないみたいなんですよね。なので通りすがりの私に寺で祓うことを勧める役割を押し付けてきたというわけです!ってお祓い対象の悪鬼に言っても意味ないですよねぇ……」
そんな風に思われていたことを知って、正直驚いてる。てっきり都合よく利用できるガキ扱いされてると思ってたし、俺もそう割り切って働いてた。だからその心情を知った時、申し訳ないという気持ちが先走り鼻の奥がツンとした。改めて謝りたいが、もう後には戻れないため謝罪の気持ちだけを心に留める。
悪鬼憑きと判断され町長及び町全体を敵に回したとき、もう誰にも頼れないと失意の淵に立たされた。しかし、これは思いもよらない温情だ。
それに寺と言えば、祭事関係で【天】との関わり合いが少なからずあるはずだ。もしかしたら【天】に行く方法を知っているかもしれない。おまけに寺なんて滅多に行くことがない場所だ。触れたことのない珍しいガジェットがあるなら是非とも知っておきたい。
俺は、グレモリーへ寺に行ってみようとおもむろに勧めた。しかし勧めておいた後で気が付く。そういえば彼女は寺にとっては”お祓い対象”だ。もし、祓われてしまえば俺の命も同じく終わりを迎える。それはまずい、とってもまずい。
慌てて彼女の意思を確認しようと口を開こうとするが、グレモリーが俺の言葉を塗りつぶすように答える。その表情は、いつものように怪しげな笑みを浮かべたものだった。
「ふぅん?いいんじゃない?
そうそう!寺といえば超おすすめスポットがあるんだよね~!そうと決まれば出発しよっか!」
話を聞いてみれば、どうやらグレモリーには寺に知り合いがいるらしい。さりげなくその寺のことを聞けば、彼女は隠れ家を作る前お世話になったらしい。言葉の端々から無理に押し掛け迷惑をかけた感じをヒシヒシと感じるが、指摘しても無駄だろう。彼女的には迷惑をかけてないという判断かもしれない。
俺は、そんな過去迷惑をかけたかもしれない場所にいきなり押しかけて大丈夫なのか?と聞いてみた。帰ってきた言葉は、まさしく楽観的なものだった。
「だいじょーぶだって!結構前のことだし忘れてるって!もしかしたら、凄い美人が来た~!って喜んでもらえるかも?あ、凄い美人って私のことね」
「あっ……そ」
グレモリーは自信満々に言う。容姿に関しては、ひとまず置いといて……彼女が言うように結構前のことだとしたら水に流してる可能性が高い。いやでも、このグレモリーのことだしな……水に流せないレベルのことをやらかして逃げ出してるかもしれない。
不安げにする俺の背を、グレモリーがグイグイ押してくる。彼女的にはさっさと目的の場所に向かおうと言いたいみたいだ。もう、商人のことは目にも入ってないのだろう。使い捨てみたいな扱いをされて、商人が可哀想に思える。
しかしどうしてグレモリーは、この商人に対してこんなにも刺々しい態度なんだろう?後をつけられていたこと以外に、気に食わない部分でもあるんだろうか?……まぁ誰しも気に食わない人間は、一人二人いるもんだ。例えそれが人間でなさそうな生命体だとしても例外ではない。
背を押されながらチラっと景春の様子を伺えば、(碌じゃねぇだろ、それ……)とでも言いたそうな雰囲気を何となく感じた。言えば面倒になるから黙っているんだろう。それとも、今起こってることなんて自分には関係ないと思っているのだろうか?
彼とは反対的にチュンは、勇敢にもグレモリーに対して堂々と「ぜっっったい!!碌じゃないでしょ!」とか言ってる。肝心の彼女には知らぬ存ぜぬって感じで相手にされてないけど……。
景春やチュンが感じるように、悪鬼とか言われてしまう女の"超おすすめスポット"なんて言い方は明らかに罠臭い。しかし今回は隠れ家に来るときみたいに、行き先が不明なわけではない。だから危険じゃないかもしれないと、勝手に思い込んでいる俺がいた。
それに下層区画の寺を含めた宗教施設は、行き場のない人々の最後の居場所的な役割もあると聞く。だから、この事情を分かってくれるかもしれないという甘い認識が確かにあった。
廃墟になってしまった隠れ家を後にする俺たちへ、商人は姿が見えなくなるまで手を振っていた。




