12[LOG] PM15:30 /
月水金の週三更新
大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます
景春が俺の隣にいてくれるとき、やっと「いつもどおり」に近づいたと思ったんだ。でもそれは違った。変わってしまった現実を彼の無関心な声で思い知らされるだけだった。
彼は俺のことはおろか、自らの名前まで記憶にないらしい……。いや俺の名前なんか憶えてなくてもいい。彼自身が景春だと名乗ってくれたら、どれだけ心が軽くなっただろう。
しばらく言葉を紡げずにいたら、内懐に仕舞っていたチュンが勝手に飛び出してノイズ混じりに騒ぎだす。作り手よりも随分度胸があって毎回驚かされる。
そういえば李沈もこういう感じだったなと、しみじみ思ってしまう。彼女だったら、こんな状態の景春に何と声をかけただろうか?
『PPP……ちょっと!なにそれ!!アンタ態度はおろか遂に知識まで死んだの?!……PPP』
「んだよ、この鳥頭……うっせぇな」
『PPP……と、鳥頭とは何よ!!!表出ろ【自主規制】野郎!!!……PPP』
す、すごい……チュンが初見から喧嘩を売ってる。先ほどまで凶器ともいえる棺桶を振り回してた相手が怖くないのだろうか?この二人の会話を見てると、いつかの喧嘩を思い出す。あの時も収拾がつかなくて困ったっけ……。でも、それはもう戻らない。所詮、過去の話でしかないからだ。
だがこうやって一々感傷に浸ってる場合じゃない。このままだと堂々巡りになってしまって場が収まらない。俺はそれを防ぐ為、喧嘩の売り買いをワザと遮った。
「待て待て、こんなとこで喧嘩してる場合じゃないだろ……。
グレモリー!アンタさっきなんか言いかけたよな?騒動は収まったんだ、観客をやめて説明したらどうだ?今の景春の状態も含めてな」
俺は面白そうに眺めるグレモリーにワザと話を振った。彼女はこのまま事態が悪化するのを楽しんでたみたいだ。悪趣味で反吐が出る……まぁグレモリーらしいといえば、そうなのだが。でも、今はそんな趣味に付き合ってる暇はない。
棘があるように言われたからか、渋々瓦礫から降りてこちらに来る。そして軽い声色で言うのだ。
「うーん、彼の記憶の一部すってんてんしてんのは多分バラされたからじゃない?記憶までは再現できないよ私
あ!これを機会に名前変えちゃえば?アマイモンとかどう?」
彼女はサラッと、とんでもないことを言ってきた。まるで簡単にできるような口ぶりだ。グレモリーにとって名前は記号でしかないようだ。でもその提案を、俺に止める権利はない。それは本人が決めることだから。
本当は景春が、別の何かに変わってしまった感じがして嫌だ。色んな記憶が抜け落ちたり、怪物みたいな怪力を振るうようになったとか……変わった部分は沢山あったとしても元の名前まで捨てることないだろうと、つい思ってしまう。
そんな俺の心情など露知らず景春はあっさり述べる。
「どーでもいい、勝手にしろ」
グレモリーはその反応が予想通りだったみたいで、嬉しくてたまらないようだ。クスクスと笑い声が漏れている。そんな彼女とは正反対に、俺は景春と以前のような関係に戻れないことを察してしまい冷や汗をかく。
生きててくれて嬉しかったはずなのに視線が一度も合わない事実が、埋めようのない喪失感を感じる。まず、今の彼のことは何と呼べばいいんだろうな。景春と呼べばいいのか、それともグレモリーが与えた名前で呼べばいいのか……。正直、今は分からない。
そんな葛藤を抱えているとチュンが話しかけてくる。随分と主人思いの機械だ、いや……それとも不正にジャックしてる奴が気を回してくれているのか。
『PPP……どーせ記憶が混乱してるだけでしょ、ちょっと経てば思い出すって……PPP』
そ、そうだよな……グレモリーの言い分的にも、全てを忘れたわけじゃなく一部とか言ってたし……。チュンの言葉に、ほんの少し励まされた俺は一旦前向きに捉えてみようと思えた。忘れたからってなんだ、生きているんだから記憶なんてこれから作ればいい。その際に思い出せば重畳だ。
今まで悲しいことや苦しいことばかりだったから、悪いほうへ考える癖がついてしまってるみたいだ。気を付けないと。
頑張って認識を切り替えようと躍起になっていると、グレモリーが手を高らかに叩き自身へ注目を集める。先ほど言おうとした件を言いたいみたいだ。だけど、なんだかいつもの軽々しい雰囲気とは違い真剣な感じがする。
彼女が言うところ、さっきから自分たちを付け回す気持ち悪い気配をここで引きずり出したいと言ってくる。
──気持ち悪い気配ってなんだ?
確かに隠れ家に来る途中も、誰かが俺たちの後をつけてるような気配があった。最初は、暗いところを好む生物の視線かと思っていた。でも【天】の軍人たちが入ってきたことで、あの気配は彼らのものだったことが明白になった。
じゃあ軍人たち以外にも、俺たちの後を付け回す奴がいたっていうことか?……もしかして、得体のしれないものを今ここで呼び出そうとしてるのか!?先ほどの戦闘で正直体力もギリギリだ。余計な争いは極力避けたい。
俺は急いでグレモリーを止めようとするが、時すでに遅し。彼女は強気な口調と態度をおもむろに出しながら、出入口に向かって声をかける。
「ほらコソコソしてないで出てきたら?町長サン?のところからずっと後をつけててキモイよ」




