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11[LOG] PM14:56 /

月水金の週三更新


大体夜の11時10分ごろを目安に更新していきます

 彼女が何かを言おうとした直後、チュンの甲高い警告音が室内に鳴り響く。俺は思わず立ち上がり思わずチュンの様子を伺おうとする。

 しかし、いきなり何かが飛んできたようで護符が俺を反射的に避けさせる。飛んできたそれは軍用ナイフだった。


 俺はすぐさま飛んできた先を見ると、鉄の扉にみっちり顔をくっ付けて中を伺う多数の【天】の軍人たちがいた。その様子に恐怖を感じる間もなく、彼らは室内に雪崩のように入り込んでくる。俺は咄嗟にチュンを壊されないよう内懐にしまいこんだ。


 

 ──そうか、あの時感じた気配はこいつらだったんだ……!

 


 恐らく町長が率いる烏合の衆に追われたとき、【天】と繋がる誰かが軍部に連絡したのかもしれない。きっと【天】の連中はそれを聞いた時、目玉が飛び出ただろうな。なんせ始末したはずの人間が、平然と町を歩いているのだから。

 軍部の連中はその異常性に気づき、こうやって俺の後をつけ始末する機会を虎視眈々と伺っていたのだろう。

 普通に考えれば、あの夜の光景は【天】の連中にとって知られたくなかったことだと気が付く。俺は、残念ながら攫われた二人のことで頭がいっぱいで、その考えに至らなかった。警戒心の足りない自分自身を心の中で叱咤した。

 

 

 しかしもう遅い。今は余計なことを考えず、対処することを考えることにしよう。

 あの夜のような失敗は、もう繰り返したくない。俺はワザと軍人たちが攻撃してくるように誘導する。彼らは単純なようで様々な武器を使い真正面から攻撃を仕掛けてくるが、それを護符の効果で無理矢理避ける。

 避ける際の反動を利用し、足の刃で切り裂く。軍人たちが反射的に避けられたとして足の刃は鋭い、少し触れただけでも傷を負う。初めは小さな傷でも、それを幾たび繰り返せば大きな傷になる。

 大きな傷になれば、痛みと出血が伴い自然と行動も鈍るはずだ。そうなれば相手は敗走しなければいけない事態に陥る。これなら人を殺さなくても追い返すだけで済む。正直誰かの命を奪う気はない。その先に伴う責任を背負うなんて真っ平御免だからな。

 まぁ……逃げる決断も出来ない馬鹿を目の前にした時のことは、残念ながら考えていない。できればそういう相手に出会わないよう祈るしかない。

 

 軍人たちは攻撃の動作が一切見えないはずなのに、傷を負うことが理解できないようで僅かに動揺する動きを取る。だからか少しずつ俺の周りから遠のいていく。

 観念したかと思いきや、俺の死角から責める方法に転換したようだ。彼らは、頻繁に俺の後ろへ回り込もうとする。そして銃剣やら短剣等で切り裂こうと振りかぶる。

 しかし護符は対象を意地でも守る。見えないところからの攻撃ですらも、護符に引っ張られ俺の身体は勝手に動く。俺はそれに合わせるように身体の体勢を変え、上手く足の刃を喰らわすだけだ。

 

 

 しかし俺は見落としていた。ここには自分だけがいるわけじゃないということを──。

 調子に乗っていれば何かが足元に当たる。それは景春(ケイシュン)が入っている鉄製の棺桶だ。そう思ったときには、既に遅く。一瞬の隙をついて、自身を銃剣で貫こうとする軍人が目前に迫っていた。

 躱そうと思ったが、そうなると棺桶を傷つけてしまう恐れがある。ならば棺桶をこの場から遠ざけようと、蹴り飛ばそうとも思ったが、中の景春(ケイシュン)が大変なことになるのは目に見えていた。

 

 だから咄嗟に棺桶を庇う動作をした。来るはずの痛みに耐えようと目を瞑るが、何故か一向にその痛みは来ない。俺は不思議に思い、恐る恐る瞳を開ける。

 すると自身に突き刺さる寸前で棺桶から出てきた血色の悪い青白い手が、銃剣を思いっきり握りしめていたからだ。



 

 ギギギッ──バキン!



 

 その手は傷を負うこそすら恐れず、銃剣を紙のように圧し折る。目の前に鮮血と刃の欠片が飛び散った。その存在は、呆気に取られポカンとしてる俺を邪魔だと言いたげに押しのけ棺桶から気怠そうに出てくる。

 彼は最初状況が理解できず、周りを見渡していた。しかし何かを見た瞬間、おもむろに嫌そうな態度を取る。まるで目障りなものを見かけたかのような感じだった。


 その瞬間、俺の脳内に声が響く。チラッと彼の様子を伺えば、同じように脳内に声が流れ込んできてるみたいで耳を押さえていた。

 響く声は確かにグレモリーのものだった。俺はどういう仕組みなのだろうか?と純粋に疑問を持つが、彼女が起こす不可解な現象は全て説明のつかないものばかりだったことを思い出す。だから、今更疑問に思うだけ無駄なのだろう。

 瓦礫に腰掛けカップを持ちながら、派手な演劇を見るかのようにこちらを伺うグレモリーは一言こう呟いた。



 

 「そいつら邪魔だね、さっさとやっちゃって」




  放たれた言葉には何らかの力が働いており、甘く逆らうことの出来ない感覚がある。まるで危ない薬のような中毒性を孕んでいるようだった。

 棺桶から出てきたばかりの彼も同じようで、長い前髪と額に貼られた札で隠れて見えづらいが苦悶の表情を浮かべてる。

 すると彼は不愉快だと言いたげに、力強く自分が入っていた棺桶に付属された鎖を片手で引き上げる。



 ──そして勢いそのままに軍人たちに向けて叩きつけたのだ。

 


 鉄製の棺桶を地面に向かって思いっきり叩きつけたことにより、地面にかなりの衝撃が生じる。それは、ほんの少し身体を浮かせてしまうくらいの振動だった。

 その瞬間を目の前で見ていた俺は、咄嗟に痛そうだと思った。あの棺桶は、恐らくかなりの重量だろう。しかも棺桶に付属した刺々しい銀の飾りによって、殴打だけではなく出血も伴いそうな感じになっている。

 ……そんなものを勢いよく上から振り下ろされれば、骨折どころの騒ぎじゃない。良くて重体、悪くて死ぬだろう。というか、鉄の塊を涼しい顔して叩きつけることができるってなんなんだ?人間ならば、筋トレを欠かさない奴であろうとも持ち上げるのに一苦労するはずだ。

 よく見れば景春(ケイシュン)の腕には、鎖が痛そうに食い込んでいる。だけど彼は痛みを感じないのか気にする様子が見受けられない。

 

 ──もしかしたら目の前にいるのは景春(ケイシュン)なんかじゃなく、彼のフリをした別の怪物なのかもしれない。

 馬鹿みたいな推測が俺の頭を駆け巡る。でも、見た目は景春(ケイシュン)にしか見えない。きっと今は腹の居所が悪いとかで、話してみればいつもどおりの彼なのかもしれないと淡い希望を勝手に抱く。それくらい超人じみていたのだ。

 

 

 だが軍人たちは、自身の仲間が棺桶の下敷きになったことも厭わず向かってくる。もう一撃殴打を喰らわすのかと思えば景春(ケイシュン)は棺桶を再度振り上げるのに、少し間があるようだ。

 このままじゃ危ないと思った俺は、咄嗟に彼の前へ出た。危険を察知した護符が、回避させるため俺を強制的に後ろに下がらせる。その動きを利用しながら思いっきりバク転を行い、着地の際に勢いよく靴の刃を軍人たちに押し付ける。ギリギリ急所は避けたが、しばらくは動けないだろう。

 俺はその時、不思議に思った。何故、肉を切り裂く柔らかい感覚がしないのだろう?何故、固い物を踏み潰す感覚がするんだろう……?そんな疑問が、頭に引っ掛かりを残す。

 また、踏みつけた【天】の軍人は声を発さなかった。普通ならば痛みで思わず声を上げてしまうもんだと思うんだが……。【天】の軍人教育が優秀なお陰だろうか?

 でも、今は関係ないことだ。ひとまず考えるのは止めよう。諦めが悪い軍人たちは、この瞬間も俺たちを殺そうと無心で向かってきている。

 暫くの間、彼らの相手をするので精いっぱいだった。

 


 しかし、そんな消耗戦のような争いはいきなり終わりを告げる。何やら上から命があったらしく、波が引くように軍人たちが去っていく。長きにわたる攻防の末、くたびれて疲れ切っていた俺には朗報だった。このまま戦闘が続けば、多分隙をついて殺されてただろう。ようやく終わったことに安堵して、浅い呼吸をひたすら繰り返す。


 【天】の軍人たちが嵐のように去った後、残されたのは荘厳な雰囲気が剥がされ無残な廃墟と化した隠れ家だけだった。以前のような煌びやかな感じも、グレモリーが発する残り香も全てかき消されたように見えた。

 軽薄で分かりにくいが隠れ家(ここ)を大切にしていたのは、短い時間でも分かったので申し訳なさが押し寄せる。また謝らないとと思ったが、その前にやることがある。

 

 ようやく騒動が終わったと察した俺は、景春(ケイシュン)にフラフラと駆け寄り言葉をかける。




 「景春(ケイシュン)……だよな?はは、良かった……無事だったんだ」




 そんな言葉に、彼はしばらく黙っていた。どうして黙っているのか分からなかったので、俺はその沈黙がとても恐ろしかった。もしかしたら、どうして逃げなかったのかと糾弾されるかもしれない。いや、まずここは何処だと疑問を投げられるかもしれない。だから、反論する言葉を用意しておく。何を言われてもいいように。

 だけど言われたのは、想定とは違った意味を持った言葉だった。景春(ケイシュン)は俺を真っ直ぐ見据えると一言告げる。



 

 「………………誰だそれ、知らねぇな」


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